2025.06.16
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愉しい授業を創る 教師の笑顔と表情で信頼を築く授業編

子どもも、教師も「愉しい」授業は、どのように創ればよいでしょう?
まずは、教師がどんな顔をして授業をしているかってことを考えてみたいと思います。
困った顔、怒った顔、笑った顔、あるいは無表情。どんな表情が、愉しい授業につながるかっていうことです。

浜松学院大学地域共創学部地域子ども教育学科 教授 川島 隆

先輩M先生の指導に学ぶ

私が、初任者のころのことです。
同じ体育科を専門とする先輩教員M先生から、多くのことを学びました。
当時、放課後、課外活動として指導していたミニバスケットボールの指導法をはじめ本当に数えきれない多くのことをご指導いただいたのでした。
教師の仕事に向かう姿勢、子どもへの目配りの仕方、もちろん体育科の授業の創りかたも、教わる機会がありました。
その先輩のすごいところは、言葉で語るだけでなく、「やって見せて」くれることでした。

ある日、6年の陸上運動「ハードル走」の授業を参観する機会がありました。
(初任校では、経験豊かな教員は師範授業として、若手教員は相談授業として授業を年何回か公開する機会があり、教頭先生が必ず参観し、1ペーパーに授業評価をしてくれました。その師範授業の公開の日でした)

とりわけ、すごいなと思ったのは、二つ。

その授業を参観すると。
子どもたちがきびきびと運動する姿、無駄のない教師の動き、とりわけ、すごいなと思ったのは、二つ。

一つは、始業時刻ピッタリに始まり、終業時刻もこれまたピタッと終えるのでした。
本当に秒単位の正確さでした。
どうして、こんなことができるのだろう?
チャイムとともに、「終わりましょう!」
まさに神業でした。
初任者の私にとって、はじめは意識をしていけばできるのですが、終わりの時刻をピタッと終えるのは、なかなか難しいことでした。
片付けをしたり、整理運動をしたり、まとめに手間取ったりしているとつい時間が過ぎてしまうものでした。

そして、もう一つのすごさ。
それは、先生の見せる「表情」でした。

「笑顔」です。

もうその笑顔を見ているだけで、自分も授業を受けたくなっちゃうのですね。
張りのある大きな声で、笑顔で
「いいぞ!今の、いい動きだ!」なんて褒められたら、子どもは、本当に嬉しいだろうなと思うのでした。

その秘密を聞いてみると、

その授業から何日か経って、ようやくM先生に教えを乞う時間がとれました。
「いいか、川島君」と言って、私がすごさを感じた2点について語ってくれたのです。

「僕の父親は舞台役者でね。時間には家でもうるさかった。厳しかった。舞台の幕あけは、時間とおりでなければならない。それは幕を閉じるときも同じ。1秒だって、お客さんに迷惑をかけることはできないんだよ。プロの役者なんだから」

「1秒」「プロ」という言葉が、頭に焼き付いて残りました。
この話を聞いたからといって、すぐにM先生と同じようにできるものではありません。
今でもできているとは、言えない私です。
でも、ずっと、ずっと心に残っているお話です。

教師は、表情を創ること

そして、もう一つ。
「川島君。役者っていうのはね」と言って印刷紙一枚を手に取ると、それを自身の顔の前に持ち、鼻から下を隠して続けます。
「こうやると目しか見えないでしょ。これで笑った顔を創ってみる。目だけで笑顔を創ってごらん。これができるのが、役者だ。目だけで笑顔を創る。教師も同じ。子どもたちの前で、目だけで笑顔を表現できるようにしなくちゃ」

その時、思いました。
(言葉で褒めていても、顔が、目が笑っていない人っている。それじゃ、子どもは本当に喜ばないし、気持ちが伝わらないよな)
また、そのころ校長先生から聞いた「教師は、五者であれ」という話も思い出しました。
教師は、学者、医者、易者、芸者、そして役者であることが求められるものです。
M先生が言うのも、「役者」であり「芸者」なんだと。

目で笑い、笑顔を伝える。

これもまた、私にとっては、大きな大きな課題となりました。

ある講演会で

もう何十年も前のことなのに、このようなことを記憶できていること、M先生への感謝しかありません。
同時に、先生というものの尊さをあらためて感じる機会にもなりました。

さて、先日、ある講演会で、あらためて笑顔、表情について考える機会がありました。
その中で、講師の方が、「メラビアンの法則」を紹介してくださいました。
人間は他人とコミュニケーションを取るとき、言語・聴覚・視覚の3つの情報から相手を判断していると言われています。
その比率は、「言語:聴覚:視覚=7:38:55(%)」であり、視覚情報、つまりは、顔の表情やしぐさなどの影響がとても大きいということです。

また、話を聞いてもらえるか、心をひらいてもらえるかは、「第一印象で決まる」というのです。
さらに、その「第一印象」は、何秒で決まるかと言えば、たった5~7秒。

しかし、その「第一印象」が残るのは、3年間ということです。
ならば、その「第一印象」をよくすることは、とっても大切です。
その秘訣は「笑顔が多い人」であり、「表情が豊かな人」だと言うのです。

逆に、第一印象のよくない人は、表情が乏しい人、ボソボソしゃべる人だそうです。

教師の表情と教室の子どもたち

講師の先生の話では、「人は、鏡で自分の顔を見るけれど、身だしなみ、女性ならば、お化粧等に目がいきがち。もっと表情チェックをしてもらいたい」ということです。
自分の顔を自分で見るのは、一日何度もないけれど、子どもたちは、ずっと先生の顔を見続けている。
つまり、先生は、四六時中ずっと見られ続けているのだということも意識しなくてはなりません。

むすびに ~子どもと愉しい授業を創っていくために~

笑顔が少ない先生に、表情が乏しい先生に子どもは魅力を感じるか。
よい印象を持つのか。
そして、子どもと共に、愉しい授業が創れるのか。

私は、自問してみて、自分自身がどうであったか、そして、今現在、どうなのか深く反省せざるを得ませんでした。

よく子どもに、
「先生、今日、怒ってる?」と、聞かれることや
「先生、今日、なんかあった?」と、聞かれることがありました。
私の表情から、様々、感じ取っていたのでしょう。

M先生が教えてくれたこと、講演で講師の先生がお話してくれたことは、今、つながって、あらためて教師としての宿題となりました。
よい授業、学生と共に、子どもと共に、愉しい授業を創っていくための「表情」を、「笑顔」を大切にしていきたい!

川島 隆(かわしま たかし)

浜松学院大学地域共創学部地域子ども教育学科 教授


2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。

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