あの子たちへの意識が変わる―より良い学級づくりを目指して控えめな子を理解する―
どの先生も学級づくりを一生懸命に行っています。
その学級をさらにより良くしていくためには、これまでとは違った視点を持つことが大切です。
沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭 石川 雄介
気付かされた、私の根っこにある教育観
最近、宮古島の学校で「より良い学校づくりを目指して」というテーマで講話することがありました。講話を聞いた先生方の感想の中に、「雄介先生は自分の意見を人前で言うのが苦手な子をとても大切にしている優しい先生ですね」という言葉がありました。私は自分の考え方が伝わった喜びと褒められたうれしさとともに、その言葉に気付かされました。
私は確かに、人前に出たり意見を言ったりするのが苦手な子、つまり控えめな子のことを意識していますが、もちろん他のことも意識しながら学級づくりを行っています。感想をお話した先生にとって、講話の第一印象になった部分が「控えめな子を大切にしていること」という意見だったことから、私の教育観の根っこにあるものに気付かされた気がしました。
今回は、「より良い学級づくりを目指すために、おとなしい子や控えめな子たちをなぜ大切にするのか」についてお伝えします。
学級は多種多様な個性の集合体
学級の中には子どもの数だけさまざまな性格が存在しています。「意見の言える子」「ハキハキしている子」「リーダー性のある子」など、学級を引っ張るタイプの子がいます。そして、「意見を言うのが難しい子」「やる気はあるけれど引っ込み思案の子」「おとなしい子」など、自分の意見を言えなかったり、学級を引いて見ていたりする、控えめなタイプの子もいます。他にもさまざまなタイプの子どもがいます。
このように、学級とは多種多様で個性豊かな性格が集まってできた集合体とも言えます。担任として、これらの集合体をまとめることができるのでしょうか。どこから手を加えていけばよいのか。
これから語る話は、「すべての子どもたちに意識を向けて教育をしていく」という考え方を前提にしています。その上で、特に私が意識を向けるのが「自分の考えを言うのが苦手」「相手に合わせてしまう」などの控えめな子たちです。なぜ控えめな子たちを特に意識して学級づくりを行っていくのでしょうか。
控えめな子たちは学級づくりを支える重要人物
控えめな子をイメージしてください。授業中や休み時間に何をしていますか?
きっと皆さん同じイメージをしたと思います。「目立ったことを何もしていない」、別の言葉にすると「模範的な行動をしている」のではないでしょうか。
この子たちは授業をしっかり受けているはずです(授業に対する理解度はさまざまですが)。また、先生の話を真剣に聞いているはずです。つまりこの子たちは、「授業は先生の話をちゃんと聞くものという雰囲気をつくる」という学級づくりを行ってくれています。「先生の話を聞いてルールに則って活動することは大切なんだよ」ということを、言葉を出さずに伝えています。
そうです。この控えめな子たちは「何もしていない」「おとなしいだけ」ではなく、学級の雰囲気を支えるため、無意識に学級づくりを行ってくれている重要人物なのです。この子たちがいないと学級は成り立ちません。
もし学級全員が「意見の言える子」や「リーダー性のある子」だと、意見のぶつかり合いや自己主張が飛び交うことになります。そこに控えめな子が入ると、周りに流されずに落ち着いて周りの意見を聞いて判断したり、落ち着く雰囲気を無意識につくり出したりして、学級の空気の波を緩めてくれます。
実はこの子たちは、学級をつくる縁の下の力持ちという役割を担ってくれています。私たち教師はリーダー性のある子や目立つ子に視線や意識を向けがちですが、このような視点を持つべきだと思います。
しかし、より良い学級づくりを目指すために控えめな子たちがいればよいという話ではありません。ここからが本題です。
控えめな子たちは学級づくりの縁の下の力持ちという役割を担っています。縁の下にいるこの子たちが、学級を持ち上げる役割へと成長したらどうなると思いますか? これまで落ち着いて学習をしていた子たちが、周りに声をかけたり、自分の意見を言えたりできる子へと成長したらどうなるのか。考えるとワクワクしますね。
縁の下の力持ちとは「人には見えないところで力を尽くし、苦労する人」のことです。人には見えないところで力を尽くしてきた子が、人に見えるところで力を尽くすようになると、学級の雰囲気が急激に良くなります。音が聞こえるほど「グイッ!」と引き上がります。すると、学級の士気が上がり、目指すべき学級像が明確に見えて、より良い学級づくりへと一直線に走り出します。
このお話を読んでいる先生方もきっと、「自分のクラスのあの子たち」を思い浮かべ、「もし、あの子たちが学級のために動いてくれたらどうなるのだろう」と想像されたのではないでしょうか。
しかし、もともとおとなしい性格の子たちなので、多くを求めすぎないように気をつけてください。少しの成長で大丈夫です。この子たちにとっての少しの成長は、とても大きな成長と呼べるでしょう。それを理解してあげると、この子たちも幸せです。
では、どうしたらこの控えめな子たちを学級づくりのために成長させることができるのか。
信頼関係から始まる、より良い学級づくり
それは、先生が控えめな子たちに安心感を与えることです。担任がこの子たちの表情や行動などの様子から、表に出さない心の中や考え方を読み取り、支えてあげる必要があります。
この子たちの「言えない」「周りに聞けない」「譲りたくないけど譲っちゃう」などの悩みを、担任が気付き、読み取り、支えてあげることで、気持ちは救われます。読み取りが難しいようにも感じますが、日頃から児童観察を必須としている私たちです。特に意識を向けることで可能となります。
では、なぜこれがより良い学級づくりへと向かっていくのか?それは、この子たちが「先生が見てくれている。守ってくれている。安心できる」という信頼の気持ちを先生に抱くことができるからです。
この信頼関係の築きが学級の雰囲気を良くしていきます。「先生が自分たちの困り感に気づいてくれている」という考えが安心感を生み、「少し頑張ってみようかな」という気持ちを一歩前に出すきっかけとなります。
その気持ちを読み取り、担任から背中を押すアクションももちろん必要です。私たち大人だって、仕事やスポーツで信頼できる人から褒められたり応援されたりすると、頑張りたくなります。失敗してもフォローしてくれるという信頼感があると、前に踏み出すことができます。
そうして控えめな子たちは少しずつ心を前に出せるようになり、さまざまな子たちと関わりを持ち始め、子どもたち同士の人間関係ができていきます。すると、これまで話す機会がなかった子と話す機会が増え、「この子ってこんなことを考える子だったんだ」「意外と面白い考え方を持っている」「ただうるさいだけの子と思っていたけれど、頼りになるところがあるんだな」と互いに気付き始め、新しい友達の輪が広がっていきます。
こうして、学級全体の人間関係づくりが進むことで、子どもたち自身で学級をより良くしていこうという気持ちを高め合っていきます。控えめな子たちと担任との信頼関係づくりを始めることは、学級全体の人間関係にもつながり、より良い学級づくりへと向かっていくのです。
理想のように聞こえるかもしれませんが、実際に私が経験してきたからこそお伝えすることができます。これまでも、「学校が楽しくなかったけれど、いろいろな新しい人と話せるようになって楽しくなった。気にせず笑える場面が増えた」と語る教え子や、「これまでの学年ではこんなに全体が仲良くなかったけど、今年はすごく仲良く感じる。学級のメンバーは大きく変わらないのに、なんでだろう」と語る子もいました。
改めて、担任として特別なことをしているわけではないです。児童理解の重きを控えめな子にあてるだけです。ただ、その子の声に出さない心の声や考え方を想像して寄り添う気持ちを担任が持つことは、少し難しいところであり、とても重要なポイントとなります。
私はその子たちの心の声や考え方を理解するためにも、以前紹介したRブックに取り組んでいます。
縁の下の力持ちである控えめな子たち。この子たちを下で支える存在から、学級を上に持ち上げ、より良い学級づくりを目指す重要な子に成長させていきませんか。私は、この子たちの存在に敬意を持ち、心の中で感謝しながら日々の学級づくりに努めています。
何卒

石川 雄介(いしかわ ゆうすけ)
沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭
沖縄県の小学校教員として10年以上、子どもも担任も楽しむ学級づくりや授業づくりを研究しています。
私のモットーは「合いのある学級づくり」で、特に『思い合い、支え合い、学び合い』に重きを置いています。
また、授業や生活の中で他者尊重の心を育む仕掛けや子どもの興味を惹くアイディアを考えるのが大好きです。
効果的な掲示物の作成や子どもも担任も楽しめるアイディアなど、多種多様な教育場面について伝えていきたいと思います。
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