授業参観から考える 図工「絵に表す活動」
図工の授業を見ると技能面の指導は充実しているなといつも感じています。
では、「表したいこと」という思いの部分の指導はどうでしょうか?
目には見えにくいからこそ、見えるように工夫する必要がありそうです。
岡山県赤磐市立桜が丘小学校 指導教諭 古市 剛大
先日、5年生の図工の授業を参観しました。絵に表す活動で、きっと題材が「運動会での思い出」だったのでしょう、子どもたちはリレーのバトンパスの瞬間やソーラン節での自分の姿を選んで描いていました。
授業者の先生は、子どもたち一人ひとりと向き合いながら「顔の色ってどの色に近いかな?」「(色を混ぜている子どもに)だんだん実際の色に近づいてきたね」と声をかけ、学びを見取っていました。制作中の作品を見ると、背景の塗り方が子どもによって違っていてきっと技能に関する指導もしっかりされたのだろうなと感じていました。
ただ、同時に気になったこともあったんです。
表したいことって何だろう?
線からはみ出さずに色を塗っている、絵の具の塗り方を工夫している、それは活動中の子どもの姿から見取ることはできそうです。しかし、この子が何を表そうとしているのかは、私の推測でしかありません。「きっと躍動感を出そうとして腕の筋の線を加えているのだな」「やり切った達成感を表現するために、背景を明るくしているんだな」と想像することはできますが、実際に子どもがそう思っているのかは判断できません。
もちろん、授業者の先生はこれまでの活動の中で子どもの思いをしっかり把握しているのでしょう。また、制作中の子どもとの対話を通して見取っているのだと思います。その時間にだけ授業を見た私にとっては子どもの思いが見えなかったのです。
資質・能力を見てみると
学習指導要領解説(5・6年:技能に関する事項)には【絵や立体,工作に表す活動を通して,表現方法に応じて材料や用具を活用するとともに,前学年までの材料や用具などについての経験や技能を総合的に生かしたり,表現に適した方法などを組み合わせたりするなどして, 表したいことに合わせて表し方を工夫して表すこと】とあります。
表現方法に合わせて材料や用具を使ったり、これまで身に付けた技法を組み合わせたりなどの工夫について書かれていますが、大事なのは【表したいことに合わせて】だと私は考えます。つまり、表したいという思いがあってからの技能なのだと思います。ここでいう「表したい」は、「リレーの絵を描きたい」「ソーラン節の最後のポーズが描きたい」ということだけではないはずです。
「苦しい練習に取り組んで、本番を終えた時のすがすがしい気持ちを表現したい」
「緊張しながらも高学年として下級生の憧れになれるように努力した思いを絵にしたい」
などの、その絵を通して見る人に伝えたい思いが大事なんだと思います。
だから技能を発揮すると同時に、【どのように主題を表すかについて考えること】という思考・判断・表現の力も発揮しなくてはいけません。
いつでも振り返られるように
つい見栄えの良さに目がいってしまうこと、私も経験があります。上手な作品にしてあげたいと思う先生の気持ちも分かります。
しかし、子どもが育成すべき資質・能力を考えたときに「何を表したいか」という思いの部分を大事にしたいなと授業を見ながら感じました。単元のはじめに、題材だけでなく「どんな思いを表現したいか」ということを話し合う時間を設けたり、その思いを書いていつでも見られるようにしたり(思いが途中で変わっていくのもありだと思います)、できあがった作品や活動過程を振り返る際に表現したい思いが絵に表せたかどうかの視点で振り返ったり。
技術指導ももちろん大事です。自分の中に絵を描くための引き出しが少なければ思いを表現することはできません。しかし、「どんな思いを表現したいか」の部分も同じくらい大事です。そこを中心においた図工の授業は、子どもたちの心も育てていくのだと思います。
という思いを表現するために、私は文章にまとめてみました。私の思いは伝わったでしょうか?

古市 剛大(ふるいち たけひろ)
岡山県赤磐市立桜が丘小学校 指導教諭
「道徳の教科化」をきっかけに,道徳のおもしろさと難しさを感じながら,研究と実践を重ねてきました。子供の「知りたい」「話したい」を大事にした授業とは?道徳科における個別最適×協働とは?日々の授業から,そして指導教諭だからこそ見える・感じることを綴っていきたいと思います。
同じテーマの執筆者
-
兵庫県神戸市立桜の宮小学校 特別支援教育士スーパーバイザー(S.E.N.S-SV)
-
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
-
立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
-
兵庫県姫路市立坊勢小学校 教諭
-
岡山県教育委員会津山教育事務所教職員課 主任
-
福岡市立千早西小学校 教頭 今林義勝
-
大阪市立堀江小学校 主幹教諭
(大阪教育大学大学院 教育学研究科 保健体育 修士課程 2年) -
戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表
-
佛教大学大学院博士後期課程1年
-
西宮市立総合教育センター 指導主事
-
明石市立高丘西小学校 教諭
-
木更津市立鎌足小学校
-
北海道公立小学校 教諭
-
東京学芸大学附属大泉小学校 教諭
-
東京都東大和市立第八小学校
-
東京学芸大学附属大泉小学校 教諭
-
沖縄県宮古島市立東小学校 教諭
-
東京都品川区立学校
-
神奈川県公立小学校勤務
-
寝屋川市立小学校
-
北海道旭川市立新富小学校 教諭
-
沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭
-
仙台市公立小学校 教諭
-
札幌市立高等学校 教諭
-
東京都内公立中学校 教諭
-
目黒区立不動小学校 主幹教諭
-
東京都公立小学校 主任教諭
-
尼崎市立小園小学校 教諭
-
埼玉県公立小学校
-
大阪府泉大津市立条南小学校
-
岡山県和気町立佐伯小学校 教諭
-
合同会社Toyful Works 代表社員・元公立小学校教員
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)
この記事に関連するおススメ記事

「教育エッセイ」の最新記事
