2022.03.14
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国語科における文学作品の新たなカリキュラム設計~より有効的な「パフォーマンス課題」のあり方~(第9回)

今回は、「パフォーマンス課題」の有効的なあり方について紹介したいと思います。

明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治

今期の最後の投稿は、より有効的であると考えられる「パフォーマンス課題」の設定の仕方について紹介しようと思います。「パフォーマンス課題」については、前回までに「パフォーマンス課題」の定義であったり、具体的実践ではどういったものが考えられるかであったりを紹介してきました。今回は、具体的実践をする上で、より有効的な「パフォーマンス課題」を設定するにあたり、留意すべき点を述べたいと思います。

「パフォーマンス課題」は、児童の生活から自然発生的に生じるものではなく、教師側が意図している限り、「目的」や「相手」が、どうしても「虚の場」になりやすい特徴があります。つまり、教師側から仕組んだ学習課題であったとしても、特に「目的」や「相手」の観点を考慮しながら児童に「実の場」であるように思わせるような課題である必要があります。では、児童が導入部から「腰が立ち上がる」学習課題はどのようなものであればよいのか。

ここからは、心理学の知見を参考にしたいと思います。櫻井(2020)[i]は、学習場面における動機づけのプロセスを「情報(環境、記憶など)」→「心理的欲求」→「学習意欲(目標設定)」→「目標達成行動」→「目標の達成」→「満足や心理的欲求の充足、さらには報酬」→「心理的欲求」…と循環するということを示しています。このことについて、櫻井(2020)は、「授業(おもに導入部分)による情報や子どもがすでにもっている知識等によって、子どもの知的好奇心や、もっとわかるようになりたい・学びたいという有能さへの欲求が喚起されて、自発的・積極的に学びたいという気持ち(動機:内発的な学習意欲や達成への学習意欲)が生じます」[ii]と述べています。  

また先ほど述べたプロセスの中の一つにある「心理的欲求」[iii]には、①知的好奇心②有能さへの欲求③向社会的欲求④自己実現の欲求(小学校高学年以上)ーーの四つに分類されるとしています。櫻井(2020)は、例えば、「未知のことや珍しいこと、詳しいことを探究したい」[iv]という「知的好奇心」や「もっと賢くなりたい」[v]という「有能さへの欲求」が「内発的な学習意欲を喚起し、具体的な目標に沿って学習活動が展開されます」[vi]としています。

一方で、鹿毛(2007)は、子どもが主体的に学ぼうと意欲をもつときのことについて「学びと自分の接点が存在し、学びが自己に意味づくとき、人は『こだわり』をもって、切実さを感じて自ら進んで学ぼうとする」[vii]と述べています。
そして、当人が何にこだわるかは「内容こだわり型意欲」「関係こだわり型意欲」「条件こだわり型意欲」「自己こだわり型意欲」の四つに分類できるとしています。鹿毛(2007)は、「認識すべき重要なことは、四つのうちのどれか一つだけによって『自ら学ぶ意欲』が生じているわけではない」[viii]と述べています。
しかし、「パフォーマンス課題」を考える上では、鹿毛の言う「内容こだわり型意欲」(~を学びたくて~を学ぶ意欲)を特にもたせたいところです。つまり、「パフォーマンス課題」が提示されて、それを達成するために「学ぶ腰が立つ」というものであることが望ましいと考えられます。この「内容こだわり型意欲」は櫻井の分類によると「内発的な学習意欲」に相当するものである考えられます。従って、「内容こだわり型意欲」をもたせる前段階として、「知的好奇心」や「有能さへの欲求」を活性化させられる「パフォーマンス課題」であるべきです。

ただ、市川(2004)は、テレビゲームや携帯電話の普及により「楽しさにはまってしまうと、なかなか学校でやっているような課題に集中して取り組んでくれません。いくら楽しい授業を工夫しても、でもその先はもっとやり続けてくれるだろうか」[ix]と述べています。この懸念は、YouTubeやオンラインゲームの普及により、現在は一層顕著になっていると考えられます。
そこで、市川(2004)は、日本の学校でも「学習が目標となる学習活動の手段として内容的必然性をもっている」[x]ことが求められていると述べています。加えて、その活動を行う際には「他の人にも役立つものとして機能して、そこにやりがいを感じていくというような場面づくり」[xi]が重要であるとしています。
つまり、これは、櫻井の分類によるところの「向社会的な学習意欲」に相当するものであり、そのベースとなる「向社会的欲求」(他者や社会のために役立ちたい、貢献したいという欲求)を活性化させられる課題であるべきであることを示唆しています。

以上のことからも、「パフォーマンス課題」を考える際には、櫻井の分類による「知的好奇心」や「有能さへの欲求」「向社会的欲求」のいずれかを活性化する必要があります。そうすると、「目的」や「相手」の観点を考慮しながら児童に「虚の場」ではなく、リアルな「実の場」であるように思わせるような課題になりうると考えられます。
「パフォーマンス課題」を設定する際は、以上のようなことに留意してみると、児童の意欲を喚起できる課題となりうるのではないでしょうか。

今期の連載はこれで終了となります。なかなか紙幅の都合でじゅうぶんに伝えきれていないことが多々あり、申し訳ございません。これをご覧になられている先生方の何かの役に立てられていたら幸いです。今期もお付き合いいただきありがとうございました。

[i] 櫻井茂男『学びの「エンゲージメント」主体的に学習に取り組む態度の評価と育て方』図書文化、2020年、p.27
[ii] 同上書、p.42
[iii] 同上書、p.28
[iv] 同上
[v] 同上
[vi] 同上書、p.29
[vii] 鹿毛雅治『子どもの姿に学ぶ教師―「学ぶ意欲」と「教育的瞬間」―』教育出版、2007年、p.15
[viii] 同上書、p.19
[ix] 市川伸一『学ぶ意欲とスキルを育てる いま求められる学力向上策』小学館、2004年、p.24
[x] 同上書、p.38
[xi] 同上書、p.63

川上 健治(かわかみ けんじ)

明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。

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