国語科における文学作品の新たなカリキュラム設計「パフォーマンス課題」(第3回)
今回は、前回紹介した「本質的な問い」に迫るための課題である「パフォーマンス課題」について紹介する。
明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治
1.「パフォーマンス課題」について
「本質的な問い」を考え、原理や一般化についての「永続的理解」を明文化しても、子どもたちが、それを理解してできるようにならなければ意味がない。
そこで、西岡(2008)は、「子どもたちが『本質的な問い』を問わざるをえないような文脈を設定した課題を設定することになる。」 [i]と述べ、これがパフォーマンス課題に繋がっていくのである。
このパフォーマンス課題とは、様々な知識やスキルを総合して使いこなすことを求めるような複雑な課題のことである。そして、このパフォーマンス課題は、単元で学んだことを総合して取り組む課題もあれば、同じ課題に対して繰り返しレベルアップを図りながら取り組む課題や最初にパフォーマンス課題に取り組ませそれを洗練させていく折衷型の課題もある。
ここで重要なことは、このパフォーマンス課題が「真正性」を含んだものであるかどうかということである。この「真正性」とは、評価するべき課題や活動が日常生活に根差したリアルなものでなければならないということである。つまり、今後子どもたちが、社会に出た時にでも使える礎のような汎用性の伴った力を身につけさせられるような課題であるべきである。
2.「パフォーマンス課題」の作成ポイントと留意点
そういった力を育成させられるような真正性を伴ったパフォーマンス課題を考えるにはどうしたらよいのだろうか。
ウィギンズらは、パフォーマンス課題をつくる際の手助けとなるよう頭字語GRASPSを用いた設計用ツールを作り出している。 GRASPSはゴール(Goal=目的があるか)、役割(Role=役割があるか)、相手(Audience=相手があるか)、状況(Situation=状況の設定があるか)、完成作品、実演と意図(Performance=完成作品は何か)、スタンダード(Standards=観点を設定しているか)のそれぞれの頭文字をとったものである。ウィギンズらは、これらの要素を盛り込むことで、よりその課題は真正性を伴うものになると述べている。
但し、パフォーマンス課題をじゅうぶんに行うためにも、その基盤となる「知識・技能」の定着も疎かにしてはいけない。
これについて、石井(2011) [ii]は、学力の質と評価との対応関係を示し、学力の質には違いがあるということを述べている。一番低次にあるのが、「知っている・できる」レベルのものであり、これは、漢字を読み書きできるや指示語の指示する内容が分かる等のスキルであり、従来の出版会社から出ている客観テストなどで評価できるものである。次に、「分かる」レベルのものになると、例えば、「豆太の気持ちはどういうものでしょう?」などの問いに対して、児童が登場人物の気持ちなどを自由に記述するというものである。そして、「使える」レベルになると口頭発表や複雑な文章題などのパフォーマンス課題を用いることが有効とされている。
ただ、「知っている・できる」の課題、つまり客観テストで良い成果を残すことができたとしても、それが「使える」レベルの知識には至ってはいないという意識をもつことも重要である。逆に、「使える」レベルに至るまでには、「知識の獲得と定着」や「知識の意味理解と洗練」の段階が必要であり、この低次のレベルを疎かにして、いきなり、パフォーマンス課題を児童に課したとしても「使える」レベルの学力を育てることができない。
3.まとめ
以上のことからも、パフォーマンス課題を設定する際にも、従来の三読法に則り、基本の文章の読み方の知識、読みとり方等を押さえた上で、パフォーマンス課題を課す必要があるということが理解できる。
そして、このパフォーマンス課題を用いた授業において、田中(2011)は、「①リアルな問題状況に対して、どの知識・技能が使えそうかを判断する(モデル化)、②既有の知識・技能の間に新しい結びつきを作り出し、問題状況に応じた解法を考案する(総合)、③一連の問題解決を他者と対話・協働しながら遂行し、そのプロセスと成果を他者に向けて表現する(コミュニケーション)といった『使える』レベルに相当する、より高次の認知プロセスを子ども自身が遂行する機会を授業過程に盛り込むことが求められる。」 [iii]と述べている。
このことについては、石井(2015)も「『自分たちにとって意味ある問題を、学んだ知識を総合して解決できた』という目的意識的な活動が成立することを大切にしなくてはなりません。各教科の知識・技能を使って考えざるをえない、自然と場面に引き込まれ思わず考え込んでしまうような文脈を教室に成立させられるかどうかがポイント」[iv]であると述べている。つまり、二人の見解からも長期的な視点から児童を「使える」レベルの学習活動を組織する重要性が見出される。
しかし、その反面これらの意識を置き去りにしてパフォーマンス課題にばかり指導の焦点を当ててしまうと、前述したように「活動あって学びなし」という状態に陥ってしまう。
現に、PISA2003調査の結果から平成20年度版学習指導要領では、「言語活動の充実」が取り沙汰され、スピーチや手紙、新聞などの多様な言語活動例が示され書籍が書店にも多く並べられ、「単元を貫く言語活動」がその当時の教育の流行になった。また、言語活動を行う際に使えるものとして、「主題の読みとり方」「気持ちの変容の捉え方」など読解の技術に重きを置く指導が中心となっており、正解到達主義に陥っているのが現状である。
その結果、本文の読み取りも不十分なまま外発的動機づけによって意欲を向上させながら言語活動に進んでしまう「活動主義」になることにも繋がった。
つまり、言語活動をすること自体に価値が置かれ、本来の文学作品の深い読み取りが軽視されてきたという歴史がある。そうならないためにも、パフォーマンス課題を設定しつつも、例えば「知識」や「スキル」の獲得と定着を促したり、「転移可能な概念」の理解、「複雑なプロセス」をも重視したりする指導過程を作成する必要がある。
[i] 西岡加名恵『「逆向き設計」で確かな学力を保障する』明治図書、2008年、p.22
[ii] 石井英真『パフォーマンス評価をどう実践するか』田中耕治「パフォーマンス評価 思考力・判断力・表現力を育む授業づくり」ぎょうせい、2011年、p.20
[iii] 石井英真『パフォーマンス評価をどう実践するか』田中耕治「パフォーマンス評価 思考力・判断力・表現力を育む授業づくり」ぎょうせい、2011年、p.20
[iv] 石井英真『今求められる学力と学びとは―コンピテンシー・ベースのカリキュラムの光と影―』日本標準、2015年、p.41
川上 健治(かわかみ けんじ)
明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。
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