国語科における文学作品の新たなカリキュラム設計~「逆向き設計」論に基づく「モチモチの木」の実践提案2(第6回)
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
さて今回は、『モチモチの木』の実践提案の第2弾を紹介したいと思います。前回と合わせて参考にしていただければ幸いです。
明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治
「モチモチの木」の具体的実践提案
今回は、第2弾として「モチモチの木」の具体的実践提案を紹介します。
「逆向き設計」論に着目して実際に単元構造を設計していく際には、「WHERETO」に着目することで、効果的に単元構造を設計することができる。この「WHERTO」とは、「Where」の「どこへ向かっているのか?単元の目標・評価法・評価基準」、「How」の「どのように児童の関心をつかみ、維持するか?」、「Explore」の「探究をさせるには?」、「Revise」の「児童にどのように再考させ、改訂させるか?」、「Evaluate」の「どのように自己評価させるか?」、「Tailor」の「どのように自己調整させるか?」、「Organize」の「どのように学習を組織するか?」という頭文字をとったものである。具体的には、表に示したものがある。単元構造を設計する際にこの七つの視点をもちながら設計していくことで、より効果的に「本質的な問い」や「永続的理解」に迫ることができる。
また、「教育内容」を理解するためには、本文の深い読み取りが必要不可欠である。田近(1984)も、「感動体験の成立をめざす文学の読みの指導においても、作品のことばの知的な分析を欠かすことはできないであろう。分析の結果が、感受性を刺激し、感動を高めるということが確かにあるからだ。」[i]と述べており、古今東西問わず、本文の読み取りで変容・深化を促すような読みが必要であったことが伺える。
従って、感動体験を呼び起こすような、自身の中でものの見方・考え方を変容し得るような読みを引き起こすために、本授業では、阿部(2019)が提案している「構造よみ―形象よみ―吟味よみ」[ii]の三読法の指導過程を援用しながら作品を読み深めていく。この指導過程について阿部は次のように述べている。「はじめに『構造よみ』で作品の構造・構造を読む。次にそれを生かしながら『形象よみ』で各部分の『鍵』となる語や文に着目し、形象や形象相互の関係を読み深めていく。その際に様々な技法(レトリック)や仕掛けに着目する。その延長線上で主題をつかむ。最後にそれらの読みを生かしながら『吟味よみ』で作品を再読し吟味・評価を行う。(中略=論者)それぞれの指導過程ごとに、様々な読むための方法を学ばせ習熟させていく。それにより子どもたちに読む力を育てていく。」[iii]
これらの指導過程を実際の「モチモチの木」に当てはめてみていく。まず、第1段階にある「構造よみ」である。ここでの指導過程は、「導入部―展開部―山場―終結部」などの「構造」に着目させる読みと山場に着目しながら事件の大きな方向性やつながりを俯瞰していく「構成」の読みの二つがある。「構造」で捉えた時に「モチモチの木」は、四部構造になる。
この構造を俯瞰的に捉え、クライマックスを検討後に、次は、「形象よみ」の段階に入る。ここでは、「導入部」から順に、「豆太の勇気」に焦点を絞って捉えていく。ここで、豆太の「勇気」をグラフにして視覚的に捉えられるようにする。そうすることで、物語終結部分に豆太の「勇気」が導入部と同じレベルにまで下がると捉える児童が出てくる。そこから、「吟味よみ」の段階で「勇気」の質に焦点を当て、「本当の優しさとは?」という本質的な問いに迫ることができるであろう。
単元最後は、パフォーマンス課題に取り組ませる。本単元では、パフォーマンス課題を「あなたは、明石市主催のビブリオバトルに参加することになりました。そこで、『モチモチの木』『八郎』等の作品を描いた斎藤隆介さんの本を一冊紹介することになりました。その作品の魅力を伝えるために、選んだ作品に描かれている「優しさ」、そして、読後の自分の考える「優しさ」についての発表原稿を書きなさい」ということにする。本校がある明石市は、「平成 27 年度に、トリプルスリーの目標の一つとして『本の貸出冊数年間 300 万冊』を掲げ、いつでも、どこでも、だれでも、手を伸ばせば本に届く『本のまち 明石』の実現に向けたさまざまな施策を、昨年1月以降、あかし市民図書館を核にして、学校や民間企業等とともに展開」[iv]しているとしており、ビブリオバトルも中学校から重点的に取り組まれている。そういう意味でもビブリオバトルは、児童にとって身近な活動であり、これをパフォーマンス課題の中心に添えることは、より学びをオーセンティックなものにする。そして、このパフォーマンス課題は同時に虚構世界での「優しさ」を現実世界にシフトする作業でもある。「優しさ」についての概念を文学作品という虚構世界のことだけでなく、自分事として思考させることで、現実世界にも転移できることを実感させる。
また、評価に関しては、パフォーマンス評価とOPPシートによる自己評価を組み合わせたものとする。パフォーマンス評価に関しては、ルーブリックを評価基準とする。また、OPPシートに関しては、「優しさ」に関する記述語から「知識・技能」を見取るものとする。同時に、文学作品を読む価値を見出し、文学作品を読んだ前後で、見方・考え方が変容したことをメタ認知させることができる。この積み重ねの結果、紙幅の都合で載せることは出来ないが、OPPシートに「なぜ本を読むのか」と単元前後に記述する項目をつけているのだが、単元開始前は、この質問に対して「分からない」が学年全体約60人のうち20人、約3割の子が否定的な回答をしたのが、単元後には、同じ質問項目に対して「分からない」と答える児童が0人になっていた。このことからも、一定の効果があった。
[i] 日本文学協会国語教育部会『講座/現代の文学教育【第2巻】 小学校【中学年編】』
田近洵一「文学教育の理論―読みの方法論の構想―」新光閣書店、1984年、p.23
[ii] 阿部昇『物語・小説「読み」の授業のための教材研究』明治図書、2019年、p.15
[iii] 同上書、p.16
[iv] 明石市役所『「本のまち明石」の取り組みについて 資料1』p.1
川上 健治(かわかみ けんじ)
明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。
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