2021.10.26
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国語科における文学作品の新たなカリキュラム設計「本質的な問い」(第2回)

今回は、「逆向き設計」論の中でも重要な概念である「本質的な問い」について紹介したいと思います。

明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治

「逆向き設計」論の核となる「本質的な問い」について

人間の情報処理モデル

今回は、「逆向き設計」論の核となる「本質的な問い」について紹介していく。

そもそも、どういった問いを「本質的」と呼び、どういった問いを「本質的」でないと呼ぶのだろうか。
ウィギンズらは、「本質的な問い」について、「最良の問いは、特定のトピックについて単元内容の理解を促進するのに役立つだけでなく、関連づけを引き起こし、一つの設定から他の設定へと観念が転移するのを促進するものである。私たちは、そのような問いを『本質的』と呼ぶ。」[i]としている。
また、奥村(2020)は、ウィギンズらが提起した「本質的な問い」について、「子どもたちが『理解』に至るような教科の探究や『看破』を促す問いである。『看破』とは、(中略=論者)深く掘り下げることで子どもたちが自ら『永続的理解』に至ることを意味する。『本質的な問い』があることで、教師が教え込むのではなく、子どもたちが追及の結果『永続的理解』に至るような学習を生み出す設計が可能となるといえる。」[ii]と述べている。
つまり、一問一答で答えられるような問いやただ活動をさせるためだけの問いは本質的な問いとは呼べず、既有の知識を駆使し、試行錯誤した結果、その単元が終わっても、永続的な理解をもたらすような問いを「本質的な問い」と定義している。

また、ここでいう「永続的理解」について、西岡 (2019)は、「将来、それぞれの教科内容の詳細を忘れてしまったとしても身につけておいてほしいような重要な『理解』」[iii]のこととしている。そして、この「永続的理解」を「知の構造」として詳しく示している。

「事実的知識」と「個別的スキル」

この「知の構造」の最も低次にあるのが、「事実的知識」と「個別的スキル」である。例えば、国語科の文学教材の学習において、「事実的知識」とは、「表現技法」や「文章の音読、朗読」等は「事実的知識」にあたるものであろう。
対して、東京書籍の「内容別単元一覧」[iv]にある「言葉の力」で示されている、例えば、5年生の「読むこと」領域における「読む(文学)」に記述されている「人物像を想像する」や「物語の構造をとらえる」等は「個別スキル」に分類されるであろう。
もちろん、「事実的知識」も「個別的スキル」も知っておかなければならない。知識があって、初めて思考できるからである。しかし、これだけでは、現実に出合う問題に対して使いこなす力にはなっていない。そこで、より重要な知識、スキルとして「転移可能な概念」と「複雑なプロセス」がある。
例えば、「要旨の把握」「登場人物相互の関係性を捉えること」などの概念や「内容を説明したり、自分の生き方などについて考えたことを伝え合ったりする」プロセスなどがこれらにあたるであろう。
そして、西岡(2019)は、「知の構造」から、「さらに、それらの概念やプロセスを統合して理解しておくべき『原理や一般化』がある」[v]と述べている。
これが「永続的理解」にあたるものであり、例えば、「文学作品を読むことで、自分には今までなかった見方・考え方を広げてくれるものである」といった理解が考えられるであろう。この「原理や一般化」についての「永続的理解」は、国語科の文学作品を読むにあたっての「本質的な問い」を問うことで、それまで学習してきた知識やスキルを出発点として、概念やプロセスが統合され、「永続的理解」に繋がるのである。

心理学の視点から

また、心理学の視点からアプローチを試みてみる。
市川(2004)は、下図のように認知心理学という視点から人間の情報処理モデルを示した。これは、人間は、目や耳から取り込んだ情報を、持っている知識を使って内容を記憶したり思考したりして、理解するのである。そして、それらを必要に応じて、言葉に関する知識を使いながら表現しているというのである。
市川は、続けてこの図を示しながら、「知識を大切にしながら、それを子どもにただ蓄えさせるのではなくて、どう活用させて学習活動を組み立てていくか、ということこそが、これからの授業で考えるべき大きな問題になろうかと思います。」[vi]と述べている。
つまり、「本質的な問い」をもとに「永続的理解」に至らせる授業設計は、この市川の認知心理学の視点から見出された見解からも有効であることが分かる。
そして、これらの考え方は、知識基盤社会を生きる児童に対しては、教科内容であるコンテンツを押さえながらも、コンピテンシー・ベイスで考えていくという考え方にも近似しているのである。

参考文献

[i] ウィギンズ, G.、マクタイ, J.(西岡加名恵訳)『UbD訳本』日本標準、2012年、p.129
[ii] 奥村好美・西岡加名恵『「逆向き設計」実践ガイドブック 『理解をもたらすカリキュラム設計』を読む・活かす・共有する』日本標準、2020年、p.14
[iii] 西岡加名恵・石井英真『教科の「深い学び」を実現するパフォーマンス評価「見方・考え方」をどう育てるか』日本標準、2019年、p.3
[iv] 東京書籍[領域別単元一覧up用.indd (tokyo-shoseki.co.jp)](2021年8月9日最終確認)
[v] 西岡加名恵・石井英真『教科の「深い学び」を実現するパフォーマンス評価「見方・考え方」をどう育てるか』日本標準、2019年、p.16
[vi] 市川伸一『学ぶ意欲とスキルを育てる いま求められる学力向上策』小学館、2004年、p.30

川上 健治(かわかみ けんじ)

明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。

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