2021.12.22
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国語科における文学作品の新たなカリキュラム設計~「逆向き設計」論に基づく「モチモチの木」の実践提案(第5回)

今回は、今まで紹介してきた「逆向き設計」論に基づいた授業案を紹介したいと思います。

明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治

「逆向き設計」論に基づいた具体的提案授業

学習指導案テンプレート

今回からは、今までの「逆向き設計」論に基づいた具体的提案授業を2回にわたって紹介していこうと思います。

文学作品を読む価値というのは、「本来、読書を通して、虚構の世界に入り込み、そこで未だかつて経験したことのないようなことを経験したり、異質な他者と出会い、その他者の心の変容に共感したりしながら人生を豊かにし、人格を形成していく」という点にあるという考えを根底にしている。

だからこそ、各々の発達段階を考慮に入れながらも、その各々の発達段階に応じた「本質的な問い」は、「人生を豊かにし、人格を形成していく」ものに直結していなければならない。従って、どの発達段階においても、学年全体を包括する「本質的な問い」は、「文学作品を読むことにはどのような価値があるか?」ということに設定する。

そこで児童各々が考えた「文学作品を読む価値」について表現し合うことで、自分なりの読書行為への価値づけができ、また読書行為そのものにおける価値をメタ認知でき、よりよい読書人になれる。それがひいては読書を通じて人生を豊かにし、人格の形成に寄与するものになる。

また、各々の単元構造を設計する際に、3年生全体を包括した「本質的な問い」に関連した「本質的な問い」が必要になってくる。そこで、ウィギンズらが提案している、「逆向き設計」論に基づいた単元設計用のテンプレートを参考にしながら、日常的に使用しやすいものを用いる。このことについて、奥村(2020)は、「日本の指導案では、多くの場合、観点別評価の視点で単元の目標が示されたり、簡潔に本時の目標が記述されたりする。しかしながら、『逆向き設計』論では子どもたちに『理解』を保障するために、『求められている結果』をゴール、『(永続的)理解』」と『本質的な問い』、知識と技能に分けて記述することが求められる。」[i]と述べている。続けて、「『本質的な問い』を設定することで、教師自身も教材研究などを通じて『永続的理解』を探究的に考えることが求められる。」[ii]とも述べている。

最初に「単元を貫く本質的な問い」や「永続的理解」「パフォーマンス課題」を決める

つまり、従来のように学習指導要領を基に「単元目標」を決め、評価基準を決め、単元構造を設計していくというよりは、最初に、「単元を貫く本質的な問い」や押さえるべき「永続的理解」「パフォーマンス課題」を決めておいた後に、具体的な単元構造を設計していくという方法である。この意味では、教師のしたいことと児童のするべきこととの間に生じるブレが少ない。本実践では、評価基準に関して信頼性、公平性を担保する為に、前回示したルーブリックを作成し、それを評価基準とする。前回でも述べたように、「パフォーマンス課題」は、標準テストのように、簡単に正誤を判断できないし、教師の感覚だけに頼ると公平性を大きく欠いてしまう恐れがある。しかし、このルーブリックにより、「主体的に取り組む態度」「思考力・判断力・表現力」「知識・技能」の3観点を測ることができる。

また、単元前後、そして、毎時間の振り返りには、OPPシートを活用することとする。活用目的は、OPPA論の提案者である堀(2018)が、「学習者の学習過程や履歴を中心にした『指導と評価の一体化』や形成的評価の重要性はたとえ説かれていたとしても、その具体的な研究は、ほとんど深められてきていない現実がある。それゆえ、学習者一人ひとりの実態をどう具体的に変容させ、確認するのかという視点が欠如していた」[iii]と述べている通り、現場では、学習者である児童自身が自分の学びの変容をメタ認知できるような自己評価方法を試みてきていない現状があった。評価基準を示したルーブリックも、教師や児童の総括的な評価基準であり、決して児童が自分の学びの変容を理解できるものとはなっていない。 

そこで、本実践では、このシートを用いることで、従来重要視されてきた形成的評価だけでなく、診断的評価や総括的評価も行うことができ、また、児童自身が変容をメタ認知できるようになっている。文学作品を読み、自分の考えの変容をメタ認知でき、成長を感じられると、次なる作品を読もうという意欲にも繋がる。

具体的な実践時には、単元学習当初にたてた「本質的な問い」について単元前後の自分なりの考えと毎時間の「一番大切だと思ったこと」「学習後の自己評価」の主に4点について記入できるようにしている。

次回は、さらに詳細な授業案について紹介できたらと思います。 

川上 健治(かわかみ けんじ)

明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。

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