国語科における文学作品の新たなカリキュラム設計「パフォーマンス評価」(第4回)
今回は前回紹介した「パフォーマンス課題」に対しての評価である「パフォーマンス評価」について紹介します。
明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治
1.従来の評価と「パフォーマンス評価」との違いは
平成29 年改訂小・中学校学習指導要領総則においては、学習評価の充実について新たに項目が設置され、そこでは、「学習評価は、学校における教育活動に関し、児童の学習状況を評価するものである。『児童にどういった力が身に付いたか』という学習の成果を的確に捉え、教師が指導の改善を図るとともに、児童自身が自らの学習を振り返って次の学習に向かうことができるようにするためにも、学習評価の在り方は重要であり、教育課程や学習・指導方法の改善と一貫性のある取組を進めることが求められる。」[i]とされている。
つまり、学習評価は、児童の学習状況を評価するものだけでなく、児童自身が学習を振り返り、次の学習に活かすことができるようなものでなければならない。また、「資質・能力のバランスのとれた学習評価を行っていくためには、指導と評価の一体化を図る中で、論述やレポートの作成、発表、グループでの話合い、作品の制作等といった多様な活動を評価の対象とし、ペーパーテストの結果にとどまらない、多面的・多角的な評価を行っていくことが必要である」[i]とされ、ここでも、所謂「パフォーマンス評価」についての重要性が言及されている。
では、この「パフォーマンス評価」とは、従来の評価法とどういう違いがあるかを次にみていく。まずは、従来の評価法とは、単元末に多くの教師が行っている出版会社が作成した「標準テスト」による評価が一般的であろう。この「標準テスト」は、「目標に準拠した評価」が採用されている。この「目標に準拠した評価」については、学習指導要領に示す目標がどの程度実現したか、その実現状況を見る評価のことを指す(いわゆる絶対評価)と定義されており、2001年までの「集団に準拠した評価」(いわゆる相対評価)から改訂された指導要録で採用されたものである。「目標に準拠した評価」が採用された主な理由に表の5つを挙げる。
この5つの理由から、田中(2011)[ii]は、「集団に準拠した目標」よりも、①学力保障を促すこと②学習における協同の条件が生まれること③どのような学力が形成されたかを明らかにできること④評価結果を踏まえて教師の教育活動の反省と子どもたちへの学習への援助を通じて、学力の保障を図ろうとする点に本来の教育表の復権を目指したと言えると述べている。しかし、この「目標に準拠した評価」は、同時に標準テストを用いて結果を重視する評価の仕方の問題提起に繋がることにもなる。この標準テストでは、図2-2にあるような低次のレベルである事実的知識や個別的スキルを評価できても、永続的理解に繋がるような力を評価できない。また、あまりにも日常と乖離した問題に対して出来不出来が決まるものであり、学校内でしか通用しない特殊な低次の力しか評価できていないといった問題が提起されることになった。
2.「パフォーマンス評価」とは
そこで、着目されるようになったのが「真正の評価」論に基づくパフォーマンス評価である。このパフォーマンス評価について、西岡(2018)は、「思考する必然性のある場面(文脈)で生み出される子どもの振る舞いや作品(パフォーマンス)を手がかりに、概念の意味理解や知識・技能の総合的な活用力を質的に評価する方法」[iii]であると述べている。様々な知識やスキルを総合して使いこなすことを求めるような複雑なパフォーマンス課題は、日常生活に根差したリアルな課題に取り組ませることができる。それを評価することで、永続的理解に至ったかどうかという評価も可能となるであろうし、また、学校内を超えた高次の力をも評価できるであろう。
一方、パフォーマンス評価は、標準テストのように、簡単に正誤を判断できないし、教師の感覚だけに頼ると公平性に大きく欠けてしまう。この信頼性、公平性を担保するには、やはり客観性を伴った「質的な」評価が必要不可欠である。この質的な評価を実現するには、ルーブリックを用いた評価基準表を作成することが望ましい。このルーブリックとは成功の度合いを示すレベルの尺度とパフォーマンスの特徴を記した記述語で作成される。
このルーブリックを作成し、単元当初や単元中盤に児童と共に確認しておくことで、信頼性や公平性を担保でき、尚且つ、児童自身が自らの学習を振り返って次の学習に向かうことができるような契機ともなり得る。また、パフォーマンス課題に取り組んだ結果のパフォーマンスについては、様々な知識やスキルを総合して使いこなすことを伴っているため、3観点の中の「知識・技能」については、従来の標準テストで測り、このパフォーマンス評価については、「主体的に学習に取り組む態度」「思考力・判断力・表現力」を測ることが妥当である。
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川上 健治(かわかみ けんじ)
明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。
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