2024.11.30
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新聞記者から学ぶ

毎年、震災を取り上げた授業実践を行っています。学びの場.comの「震災を忘れない」のコーナーでも、毎年の実践を紹介させていただいています。今年も能登地震をはじめ様々な災害が各地で起こりました。自分の身は自分で守ること、そして命の大切さを本気で感じることを目標に活動を計画しました。担当する子どもたちももうすぐ中学生になります。これまで3年間教えてきた子どもたちへの最後のメッセージのつもりでこの授業を計画しました。

さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当 菊池 健一

写真記者をゲストに

 

関口記者の記事の掲示

ゲストに招聘したのは、読売新聞社編集局写真部の写真記者・関口寛人氏です。関口記者を招聘したいと思ったのは、福島県の東日本大震災・原子力伝承館で行われた写真展で関口記者の写真を見て感動したからです。

「天国に行ったお姉さんに『風の電話』からメッセージを送る少女の写真」
「亡くなった娘が残した小学校の名札を胸に、東京五輪の聖火ランナーに臨む男性の写真」…

これまでも、新聞記事を教材に使う際、記事につけられている写真を使ったことはあります。しかし、写真をメインに扱ったのは初めてです。すぐに新聞社に依頼をして、オリンピック取材等で忙しい中、関口記者の派遣を手配していただきました。記者からどんな話が聞けるか大変楽しみでした。また、児童にとっても記者との出会いが貴重なものになると確信しました。

写真記者関口さんのお話を聞いて

授業当日、関口記者との出会いが大変待ち遠しい子どもたち。関口記者が教室に来るとおもむろにリュックから何かを出しました。震災の取材やオリンピック取材などに使った大きいカメラでした。これまでも記者の方から話を聞いたことはありましたが、その記者さんとは違いカメラマンとしての度合いが強そうで子どもたちは大変興味津々。

「震災後、丸1日以上かけて被災地に入りました」
「震災の2日目から石巻に入って取材をしました」
「周り一面ががれきで、町の形がどうなっているか分かりませんでした」と、関口記者。

関口記者の話を聞きながら、児童はハッとしました。記者ならではのものの見方の鋭さに驚いたようでした。関口記者は震災以降ずっと継続して東日本大震災の被災地の取材をされてきています。その中で撮影した写真を示しながら児童に話をしてくださいました。児童は関口記者の写真に見入っていました。

「すごい写真だな!」
「関口記者さんはどんな気持ちで撮影しているんだろう」と考えながら話を聞く児童たち。

関口記者の写真は迫力があるので、言葉がなくても児童の心に突き刺さります。そして、「どうして・・・」「これから・・・」と子どもたちはそれぞれの頭で考え始めました。そして、関口さんの話に真剣に耳を傾けています。

さらに関口さんはこう述べます。
「被災地の方に、取材だからではなくそれ以外でも足を運ぶようにしています。被災地の方の人生に足を踏み入れた責任だと思っています」

子どもたちはその言葉をそれぞれにかみしめていました。この後、関口記者が取材を続けている石巻の佐藤さんからもお話を伺います。娘の愛梨さんについて、そして震災について、命の大切さについてお話していただきます。子どもたちとともに学びを深めたいと思います。

私自身も学んだこと

今回、関口記者の話を聞いて、私自身も被災地の状況について詳しく知ることができました。震災から十数年たっても完全に復興とはなっていないこと、そして、被災地に暮らす方々の心の傷はいえることがないことなどを学びました。とても重要な学びになりました。

関口記者は、取材の時だけではなく、プライベートの時にも被災地に足を運び、取材をしてきた方々との交流をしているとのことです。私自身も今受け持っている子どもたち、そして今いっしょに働いている同僚、そして家族…たくさんの人に支えられています。その人たちのためにできる限りのことをするのが私の「責任」ではないかと考えました。そして、この14年間震災学習に取り組んできていますが、私にたくさんのことを教えてくれた被災地の方のためにも子どもたちと震災について、そして防災について学んでいくことが「責任」なのではないかとも思いました。

児童とはこれから「命」の大切さについての意見文を書いていきます。もちろん国語科の授業の一環のため、文章を書く技能を高めることが目的ですが、それ以上に命について、自分の生き方についてもう一度見直す契機にしていきたいと考えています。子どもたちがどんな意見文を書くか今からとても楽しみにしています。

菊池 健一(きくち けんいち)

さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当
所属校では新聞を活用した学習(NIE)を中心に研究を行う。放送大学大学院生文化科学研究科修士課程修了。日本新聞協会NIEアドバイザー、平成23年度文部科学大臣優秀教員、さいたま市優秀教員、第63回読売教育賞国語教育部門優秀賞。学びの場.com「震災を忘れない」等に寄稿。

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