国語科学習の創造~つけたい力を意識した言語活動の設定~(VOL.2)
前回、言語活動を設定するときの視点として「内から読むか 外から読むか」ということを記しました。私は、初任から10数年、毎単元で言語活動を設定してきましたが、なかなかうまくフィットする活動が創れません。何がフィットしないのか?
それは、「教材の特性」と「つけたい力」と「子ども観」です。今回は、その中でも「つけたい力」を軸に言語活動の設定について記していきたいと思います。
明石市立鳥羽小学校 教諭 友弘 敬之
地域によっては、気温が40度を超えるところもあるようです。
皆様におかれましては、この猛暑の夏をいかがお過ごしのことでしょうか。
さて、今回は、前回に引き続き「言語活動の設定」について記したいと思います。
初任のころの思い出
内容に入る前に少し思い出話をさせてください。
初任のころ、講師の先生をお招きして研究授業をさせていただいたことがありました。当時の単元は、2年生の物語文を教材として、「クレイジーフォー・ユー展をしよう!」という学習を設定しました。当時、ミュージカルで公演されていた「クレイジーフォー・ユー」をなぞり、狂おしいほど愛しい中心人物の愛を教材としたわけです。事後研を終えて当時の教頭先生からひと言「活動あって中身なしになったらあかんよ」と、ぐさりと刺さる一言をいただきました。
もうお分かりの方もいらっしゃることでしょう。今考えましても、「なんだこの単元は?」「意図はなんだ?」「子どもに、それも2年生にクレイジーフォー・ユーがわかるのか?」というつぶやきが聞こえてきます。当時は、活動先行で言語活動を設定し、言語活動に教材や子どもを合わせようとしていたのです。
しかし、思い起こせば現場ではこういった混乱は少なからず起こっていたのではないでしょうか?「単元を貫く~」が言われだしたとき、その本質的な部分よりも「リーフレット」や「本の帯」がはやり、どの文献でも紹介されていたことを思い出します。つまり、国語科の単元をデザインする際に、多くの若手が通る教師としての成長過程の1つのフェーズであると考えることができると思うのです。では、どうやってそのフェーズから1段階レベルアップすることができるのでしょうか? そのヒントが、「つけたい力」だと思います。
「つけたい力」を見定める
教材として扱う文学作品の初めのページにはこの単元で扱う「つけたい力」が明記されていることが多いと思います。例えば、「人物相互の関係をとらえましょう!」「読んで理解したことをもとに自分の考えをまとめよう!」などです。これらの文言は学習指導要領にも学習内容として整理されている実はとても大切なことばなのです。
同じAという教材であっても、「表現の効果を考える」という学習内容と「人物像をとらえる」という学習内容とでは、着目させたいことばに大きな違いが生じます。もちろん、表現の効果によって人物像が際立つ描写もあるでしょうから、わざわざ切り離して考えることはないでしょう。しかし、「表現の効果を考える」際に行う言語活動と、「人物像をとらえる」際に行う言語活動とでは違いがあるのではないでしょうか。
「つけたい力」に合わせた言語活動
例えば、「表現の効果を考える」際の言語活動でした図1のような活動が考えられます。
これは、5年生の単元で用いたレーダーチャートです。このレーダーチャートを用いて、引用した一言に対していくつかの観点で評価をする言語活動になるわけです。
そうすることで、気になった表現を見つけ、それらを同じ観点で評価することができ、同じ表現を選んだ児童同士で読みの違いを交流しあうことができるのです。
また、「子ども観」に合わせて提示されるときには、「○○攻略本を創ろう!」や「△△図鑑を創ろう!」と、提示することができるかと思います。
5年生はゲームの攻略本を持ち歩くほど近しい関係ですので、すぐに活動の意図が理解される児童が多いかと思われます。
一方、「人物像をとらえる」際の言語活動でしたら「名刺を作って交換しよう!」という活動が考えられます。
これは、大人が使う「名刺」を教材化して、名前と短い自己紹介を組み合わせて記述できるようにしたものです。
読んだ登場人物を短い言葉で表現し、それらを友達と交流しあう中で共通点や相違点について対話できる活動として設定するわけです。
終わりに
上述した活動はほんの一例ではありますが、どういった力をつけたいのかによって言語活動を選択していくことが大切であるというわけです。その選択ができると、「リーフレットや本の帯は、読書の幅を広げるときに活用できる!」「観点を工夫するとレーダーチャートは人物像をとらえるときにも使えそうだ!」と、単元の幅を広げていくことができるわけです。
そのためにも、日頃から次の単元のつけたい力を意識しながら街中を歩いてみてください。実はいたるところに言語活動の種は落ちているものです。「つけたい力」が明確であると、「あっ!これ教材化できるやん!」と、いろいろなものを教材化していくことができていきます。
大村はま先生は当時の雑誌の中にあった「鉛筆の広告」を教材化されて実践されています。そういった生活と密接につながった言語活動こそ単元学習の本質なのかもしれません。
追記
今回は、読みを深めていった際のアウトプットとしての言語活動を中心に記述しました。しかし、現在は読みを深めていく場面とそれらをアウトプットしていく場面との2段階での言語活動の設定が必要であると感じています。
今後は、「2段階の言語活動の設定」をテーマに実践を記述したいと思います。しばらくは、国語の内容は落ち着き、体育や学校創りについて記していきたいと思います。
友弘 敬之(ともひろ たかゆき)
明石市立鳥羽小学校 教諭
「単元学習」をテーマに学び続けてきました。その中で、「学習デザイン」「実の場」「問い」と、興味を広げてきました。今は「そもそも学びってなんだろう?」という問いと向き合っています。それは、子どもの学びだけではなく、教師としての、また大人としての学びも含みます。この学びの場を通して、私の問いを解決していきたいです。
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