2023.09.13
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

書籍からの学びの具体~"鈴木正気の実践"(4)

今回は「書籍からの学びの具体その4」ということで、小学校の実践家として1960年代~1980年代に活躍された鈴木正気氏を取り上げます。鈴木氏の理論と実践が語られている『川口港から外港へ』(1978)草土文化、や『学校探検から自動車工業まで』(1983)あゆみ出版、などが著名です。特に『川口港から外港へ』は、地域の教材を扱った「久慈の漁業」(5年)、「うおをとる」(2年)、「いさばや」(3年)、「川口港から外港へ」(4年)など、鈴木氏の代名詞のような実践群となっています。個人的には社会科実践家として著名な有田和正氏よりも泥臭く、「社会科らしさ」を感じる実践の数々だという印象があります。今回は、前回の若狭実践と同様に先行研究や先行分析が多々ある中で、私なりに「鈴木実践の魅力」という視点で書かせていただきます。

大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作

大切にされていること

まず、鈴木実践の代名詞となっている「川口港から外港へ」(4年)ですが、概要だけですが以下のような実践になります。

①屋上から旧川口港・現漁港・日立港の全体を鳥瞰して、位置や規模を確認する
②一斉に見学をして漁港と川口港の施設をしらべる。
③さらにグループで川口港を調べる
④川口港の復元図をつくる
⑤中間報告会をする
⑥川口港から久慈漁港によるテーマで話し合う
・共通性と相違点 
・漁業をみえるようにするための漁業に必須な施設の確認と久慈漁港の近代化
・なぜ外港をつくらねばならなかったのか。外港をつくらざるをえなかった必然性を自演条件、社会条件からとらえる
・地域住民の地域産業の振興、地域発展の願いをとらえる

また、3年生の実践「いさばや(水産加工場)のひみつ」は
①水産加工品集め
②いさばやさがし(オリエンテーリング)
③みりんぼしづくり
④いさばやのひみつについて話し合う
⑤にぼしづくりと一斉見学とまとめ
となっています。

この2つの実践計画だけ見ても、鈴木実践で大切にされていることが見えてきます。

それは、
(1)日常の世界である地域教材にこだわっていること
(2)「疑似的生産労働」と名付けている「ものとの対面」「ものをつくる」「調査」という学習活動を行うこと
(3)「狭義の授業」と名付けている話し合う活動が単元終盤に位置付けられていること
だと考えます。

適切な表現かどうかわかりませんが今でいう「体験活動」「見学活動」を徹底的に行い、事物(ものともの、ものと人、人と人)を詳細につかんでいきます。実践記録には書かれていませんが、膨大な時間がかかり、子どもも試行錯誤があったことが想像できます。(特に復元図をつくるなど)教師も粘り強くつきあうしかありません。その圧倒的な「疑似的生産活動」の蓄積によって話合いが充実したものになります。個人的にその泥臭さが好みです。

日常の世界から科学の世界へわたらせる

日常の世界から科学の世界への「わたり」

教材は違えど鈴木実践に類似性が感じられるのは、鈴木氏に明確な理論があるからです。鈴木理論の神髄「日常の世界から科学の世界へのわたり」です。子どもの「目にみえる」日常の世界から「目にみえない」事物の連関の「科学の世界」に行くためには一定の幅の溝がある。その溝をわたる「わたり」の場が社会科授業であるということになると思います。
目に見える「日常の世界」の事物を丁寧に見ることで、そのうらにある連関(関連性や意味)が見えてくるという社会科の教科性が十分発揮される理論だと思います。
日常の授業におきかえても、社会的事象を調べ、「なぜ」とその背景や意味を問うことは大切にしていることなので、個人的にはすっと納得できました。
鈴木氏が作成した図をもとに自分なりに作り直してみたのですが、この「わたり」は現行の指導要領のキーとなっている「社会的な見方・考え方」もあてはまるのでは思っています。
「目に見える事実を、位置や空間的な広がり、時期や時間の経過、事象や人々の相互関係という視点で、比較・関連・総合という思考方法を使うことで、科学の世界が見えてくる」という感じです。(図参照)

支え合う分業

このように授業で子どもが「日常の世界」から「科学の世界」へわたることによって、社会が人と人との支え合いによってつくられていることに気づいていきます。鈴木氏はその社会の成り立ちを「支え合う分業」と表現し、以下のように表現しています。

-------------------------------
子どもたちは、科学の世界と日常の世界の結節点に身をおき、複眼でものをみ、わたりながら発達していく。だからこそ私たちは、科学の世界から何を切り出していけばよいのか、 ―それが、「支え合う分業」であったー また。子どもの日常としての学級や学校、地域や社会をどう創り上げていかねばならないのかを、子どもたちとともにさぐっていかなければならないのである。
-------------------------------

これは子どもの日常の世界が、人と人が支え合うものになることを目指すという鈴木氏のメッセ―ジのように感じます。

二面性

個人的には鈴木氏の実践の魅力は、時間をかけて試行錯誤しながらじっくりやっていく泥臭い面と「わたり」のような整理・構築された洗練された面の二面性が同居しているところだと思います。『学校探検から自動車工業まで』(1983 あゆみ出版)の序文を書いている古井伸哉氏は鈴木氏のことを以下のように表現しています。

-------------------------------
鈴木さんは矛盾する二つの顔がある。一つは理論的冷たさであり、二つは人間的やさしさである。(中略)しかし、この二つは矛盾することなく相互に“支え合って”いる。
-------------------------------

「何事もバランスが大事だ」と一言でかたづけることは簡単ですが、2つの面が支え合うことを頭の片隅にいつもおいています。

参考資料

石元 周作(いしもと しゅうさく)

大阪市立野田小学校 教頭


ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop