憧れの先生、無着成恭先生
先日、生活綴り方教育の文集「やまびこ学校」の編者で、TBSラジオの「子ども電話相談室」の名回答者としても知られている無着成恭先生がお亡くなりになりました。
さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当 菊池 健一
無着先生をおたずねした新任教師のころ
無着先生は教師を退職された後に、曹洞宗のお寺の住職を務められました。私は大学時代に教職の勉強をしていて、無着先生の実践に心を打たれ、無着先生のような教師になりたいと思っていました。そして、教師の時に無着先生のお寺を訪ねたことがあります。学生時代、「子どもたちの心に残る本物の教育がしたい!」と心に誓って、無着先生の実践をお手本にしてきました。そのことをお伝えしたくて無着先生の元を訪ねました。
もしかしたら教師としてスタートを切り、張り切っている私に温かいお言葉をかけてくださるかもしれない…そんなことを考えていたのですが、お話をしているうちに「あなたは何も知らない!」と厳しいお言葉をいただきました。教師としてもっともっと勉強していかなければならないと思った瞬間でした。
しかし、その後、無着先生から、
「子どもたちは真実を見せられた時に目を輝かせる。それはどんな子どもでも同じだ」
というお言葉をいただきました。
そのお言葉を胸にこれまでの教員生活での授業づくりを行ってきました。25年間の教員生活でいろんな取り組みを行いましたが、常に無着先生のこのお言葉が頭の中にありました。今子どもたちに教えていることが将来どんなふうに役立つかを常に考えてきました。そして、「いつか一流の教師になってもう一度先生とお会いしよう」と心に誓いました。
無着先生の訃報を受けて
そんな無着先生が先日、96歳でお亡くなりになりました。突然の先生の訃報を受け大変寂しい気持ちになりました。お通夜にも参列させていただき先生の遺影にお礼を言うことができました。前日までお元気でいらっしゃったところ、急に体調を崩されてそのまま亡くなられたとのことでした。
「もう一度自分が一流の教師として自信を持つことができたら無着先生に会いに行こう!」とずっと思っていました。残念ながら一流の教師になって再会をすることはできませんでしたが、心の中で無着先生にこれまで頑張ってきたこと、そして大失敗をしたことなどを報告させていただきました。もし、いまの自分が無着先生にお会いできていたら、先生は私を認めてくださっていただろうか…と考えてしまいました。
以前、無着先生に、現在新聞を活用した学習(NIE)に取り組んでいるという話をしたことがあります。
その時に無着先生から、
「まだ思想が出来上がっていない子どもたちに新聞を読ませてもそれは意味がない」
と言われたことがあります。
確かに新聞社の思想が入っているので、子どもたちがそれをうのみにしてしまうかもしれないということがあるのかもしれないと思いました。しかし、新聞は学習の素材を自分で選べること、そして子どもたちが自分の考えを形成するヒントがたくさんあることなどをぜひ授業の中で確かめ、無着先生にお話をしたいと考えていました。
一度、私が新聞を使って授業を行った実践が雑誌に掲載されたので、無着先生にお送りしたことがありました。その時に、「あなたのレポートよかったです」と、初めてお褒めの言葉をいただいた記憶があります。無着先生からいただいた様々なお言葉や励ましが、今の自分の教師としての思いを支えてくれているように思います。
「子どもたちに真実を見せる」ための取組を
無着先生からいただいた「子どもたちは真実を見せられた時に目を輝かせる」というお言葉を胸に、これまでも授業づくりを行ってきました。今回まずチャレンジしたいのは、日本の「食料自給率」の問題です。この問題について様々な教科や給食の時間の学習を通して学んできました。
「えっ、今の日本の食料自給率は38%しかないの?」
「もし、外国から食料が入ってこなくなったらどうなるのだろう…」
「外国との関係は本当に大事なんだね」
「日本の農家がどんどん減ったら、自給率が0になる日が来るかも…」
「どうして自給率がこんなに減ってしまったのかな」
「どうして日本では農業をする人が減ってきているのだろう…」
など、いろんな感想を述べていました。
子どもたちにとって自分たちの食べている食料の問題に対峙することで真実を見ることができているのではないかと思います。この問題を様々な教科で生かして児童と教科のねらいを達成しながら、食についての考えも深めていきたいと思っています。
授業の取組について、尊敬する無着先生にご報告する機会はなくなってしまいましたが、きっと、私自身の想いは伝わるのではないかと考えています。そんな気持ちでこれからも教師の道を精進していきたいと思っています。来年、無着先生の1年忌の時にはそんな姿をお見せできればと考えています。教員生活も25年を迎えましたが、もう一度新たな思いで進みたいです。
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菊池 健一(きくち けんいち)
さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当
所属校では新聞を活用した学習(NIE)を中心に研究を行う。放送大学大学院生文化科学研究科修士課程修了。日本新聞協会NIEアドバイザー、平成23年度文部科学大臣優秀教員、さいたま市優秀教員、第63回読売教育賞国語教育部門優秀賞。学びの場.com「震災を忘れない」等に寄稿。
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