前回までで、「授業のユニバーサルデザイン」の3要素のうち2つまでご紹介しました。
第9回と第10回では、「授業のユニバーサルデザイン」化を目指した国語の実践紹介とその解説をいたします。この2回は、連続して読んでいただくと、授業の意図がより明確にわかるはずです。
また、この回は誌上で授業をしているように(ライブの雰囲気で)書いていきますので、子どもの気持ちになって、時折読むのを立ち止まって考えていただけるとありがたいです。ぜひ、お付き合いください!
(なお、この授業は前筑波大学附属小学校教諭(現明星大学常任教授)の白石範孝先生の実践をベースにUDの手法を入れて特に導入と後半部を改変したものです。)
1 何がでてくる?
まず、以下のようなスライドを提示します。

「このA~Dの下には、みんながよく知っている生き物の写真があります。」
「何が出てくるかな?」
「どこを開けてみたいですか?」
「選びたい人?」
そういうと、子どもたちは、わっと挙手をしてくれました。
こういった活動では、普段挙手発言が苦手な子も、手を挙げてくれることが多いです。

1枚開けるたびに、子供からは「んん?」「何だろう!」「あ、分かった!」などとつぶやきが生まれます。
A~Dのうちの3枚程度を広げたところで、「どこから、分かったかな?」と聞きます。
すると、子供達はさまざまなヒントを出してくれます。そして、
「春に咲く花です」
「かれると白くなります」
「黄色い花です」
「綿毛があります」
などと、いうヒントを確認する中で、「たんぽぽ(の綿毛)」の写真であることを確認します。
ここでのポイントは、子供を引き付け、本時の教材と本時の学びに向かう姿勢をつけることです。
子どもの心に、本時の学習への興味を掻き立て、心に錨(アンカー)をかけるイメージです
そして、次のように言います。
「このたんぽぽの綿毛が主人公になるかわいい詩があるんだけど、知ってる?読んでみたい?」
その後、以下のように教材を提示していきます。
2 詩を視写しよう

上掲の詩は、川崎洋の「たんぽぽ」を改変したものです。
実際には、この詩を少しずつ黒板に書き、子どもはノートに視写していきます。
「おーい たぽんぽ」
「おーい んぽぽた」
このあたりを、書いていると、子供から「変なの~」などと、笑い声が上がります。
そのまま、「おーい ぽんたぽ」を書いた後で、
「ああ~、この先何だったかな?先生忘れちゃった!」といいます。
当然、子どもからは、「ええ~!」「なんで!」とツッコミが入りますが…。
3 名前おみくじ

「でも、安心して、先生は忘れないようにメモを『おみくじ』にしてきました。」
と、A~Cの3つの短冊を黒板に貼ります。
これも、子ども達に引いてもらいます。
挙手指名でも良いですし、「今月が誕生日の人に引いてもらおうかな?」などと引いてもらうのも良いでしょう。
「さあ、引いてもらうよ。みんなで読もう。せーの!」
A 「たろう」
子ども達は、「ええ~!」「これどうだろう?」「おかしいな!」と声をあげます。
「どうして、そう思ったの?教えて?」と聞くと、「人の名前みたい!」「さっきまでと名前の感じがちがう」などが出てきます。中には、「さっきまで全部4文字だったのが、これだけ3文字でおかしい」という意見が出てきます。
このように、名前のどこに着目したかを確認してルールを発見して黒板に板書していきます。残り二つを開けます。
B 「たんぽんた」
C 「たぽたぽ」
「この中に綿毛の仲間の名前はあるかな?」
「ペアで相談しましょう」
子ども達からは、「『たんぽんた』はかわいいから仲間にしてあげてもいい!」「でも、4文字ルールにあってないよ。」などの声が上がります。
「では、たぽたぽは、仲間にしてあげてもいいかな?」と聞くと、「うん、オッケー!」「いいね」などの意見の中で、首をかしげていたり、「いや、ダメ!」といっている子がいるはずです。
そこで、こう聞きます。
「どうしてかな、あなたが着目したことを、教えて。」
「前に出てきて、教えてくれないかな」
すると、子供は「たんぽぽにならないから」などといいます。
前に出てきてもらうのは、実際に文字を指さしながら確認するとより分かりやすいからです。
子どもの中には、「アナグラムじゃないから」などと教えてくれる場合もあります。
実は、光村図書の教科書の中には、このアナグラムを紹介している説明文教材があります(「言葉で遊ぼう」という教材です)私の勤務校は光村を使用していましたので、子供から自然と「アナグラム」という言葉が出てきて、周りの子達も「ああ!」「本当だ」と納得していました。
「言葉の一文字一文字を並び替えて、別の言葉にすることをアナグラムと言ったね。」
「綿毛の名前にはアナグラムのルールがあるのだね。」
4 わた毛は、何人?

「あれ、じゃあ、先生のおみくじの中には、当たりがなかったね」
「こまったなあ、じゃあ、みんなでルールにそって綿毛の仲間を探してくれないかな?」
と、子どもたちに投げかけます。
そして、次のように言います。
「あと何人くらい綿毛の仲間はいそうですか?」
これに対して、「何人かな?」「もう3人出てるから、1人はいそう」「良く分からないや」などと声が上がります。
「あてずっぽうでいいから、あと何人くらいになるか手の指で教えて、せーの!」
と、子供に、指で出してもらいます。
すると、多くの数を出している子がいました。
「どうして、そう思ったの?」と聞いてみます。
「綿毛はたくさんあるから、たくさん仲間もいると思った」という意見や、「仲間が少ないとかわいそうだから…」というかわいらしい意見がでてきました。その一方で、「5人以上!」「計算したら、12人」などという意見も出てきます。ここでは、確かめずに、おおよその上限を考えて見積もっておくのが大切です。
「では、探してノートに書き出してみよう」
「隣同士で、一人新しい仲間を見つけたら、自分で進めてみましょう」
と、伝えてからスタートします。
時間を区切って、発表させていき、短冊に書き出していきます。
「んだぽぽ」「んぽぽた」「んぽたぽ」「ぽぽたん」
「ぽんぽた」「ぽたんぽ」「ぽんたぽ」「ぽぽんた」「ぽたぽん」
この9つに加えて。最初に板書した「たぽんぽ」「んぽぽた」「ぽんたぽ」を加えた12人が正解となります。
子どもの中には、「たんぽぽ」という子もいるかもしれません。
私は「たんぽぽ」は「綿毛」ではないのでなしにしてしまうことが多いです。
でも、これはクラス判断でも構わないです。
5 ふさわしい名前は?
「たくさんの綿毛の仲間が集まったね」
「でも、詩に登場させられるのは、あと一人だけなんだ」
「誰を登場させるのが、一番ふさわしいかな?」
こう聞くと、子供からは、様々な意見が出てきます。
「ぽたぽんがいい。ゆたんぽみたいで面白いから」
「ぽぽんたがいい。なんか、タヌキみたいでかわいいから」
こういった、語感に着目した意見も認めたうえで、以下のように聞きます。
「そうかあ。それもいいね」
「でも、綿毛の名前にルールがあったみたいに、これがもっとふさわしいというのはないかな?」
このことで、子どもたちは、もう一度名前のルールに立ち返って、考え始めます。
私のクラスでは、「先生、はじめからずっと気になっていたんだけど…。名前だけじゃなくて、こっちにもたんぽぽがある」と意見を言ってくれるA子さんがいました。

「何に気が付いたの?前に出て短冊を使って説明してくれない?」と、うながします。
すると、A子さんは「ぽたぽん」を前掲の3つの綿毛の脇にはりました。
そして、「名前の中にたんぽぽがあるけど、ここを横に読むと…」といったところで、このように言います。
「ストップ!このあと、A子さんがこの後言いたいことを、ペアで話してみましょう」
これには「ええ?」「なんだろう」という声が上がりました。でも、しばらくすると「ああ!」「本当だ!」「わかった、わかった!」「すごいすごい!」という声が上がりました。
結論から言えば、「ぽたぽん」では、全ての横で囲んだ列が、「たんぽぽ」のアナグラムになります。
「だれか、前に出てきて、分かりやすくしてくれないかな?」というと、写真のように赤で横に文字を囲んで強調してくれます。
読んで確かに「ぽたぽん」がふさわしいと確認したところで、1時間の授業は終了です。
5 名前アナグラムづくりで遊ぼう

(ここから先は、翌日などに行ったことです。)
「アナグラムってを使った、面白い詩だったね。」
「とっても、面白いから、先生も真似をして詩をつくってみたんだ」と言って、写真のような詩を提示します。
「おーい」の先の部分が提示されると、子供は、「あ!これ○○くんだ!」や「○○さんかな?」などと推理し、中には書き写して並び替えて確かめている子もいます。
「この中の、黄色の部分に自分の名前を入れて、最後のメッセージは、1年間いっしょにすごしたクラスの友達への思いを込めた3年〇組の詩をみんなでつくってみない?」と伝えます。
とはいえ、3年生の発達段階ではアナグラムを理解することはできますが、実際に作るのは難しいもの。「笠原三義(かさはら みつよし)→紙皿は強し(かみざらは、つよし)」など、先生が自分自身の名前を組み替えて提示し、濁点をつけたり消したり、音を伸ばしたりなどは大目に見て作らせると、規制が弱まったり、モデルをみて作り方を理解することが出来ます。
その後に子どもたちに作らせると、子どもたちから面白いアナグラムを作ってくれます。
以下は、私が担任した子が作ってくれたクラスの子の名前アナグラムです。
元の名前は、伏せさせていただきますが、分かるでしょうか?
A男君「友情彼方(ゆうじょうかなた)」
B子さん「ラッコ産み頃(らっこうみごろ)」
C子さん「僕留守の日(ぼく、るすのひ)」
D子さん「花火ダーン(はなびだーん)」
どれも、本当に子どもたち自分の名前を組み替えて作った名作(迷作?)です!
6 クラスのみんなの詩をつくろう!
子ども達が作りあげた名前アナグラムは、「3年〇組の詩」として学級通信の最終号全員分紹介しました。
その当時に担任学年と同じ小学3年生だった自分の息子に、「クラスの子供の名前全員知ってる?」と聞いたことがあります。息子は「当たり前だよ。全員知ってるよ!」と言ってましたが、よくよく聞いてみるとフルネームで言えたのは、およそ半分の子の名前だけでした…。
先生は、仕事上全員の名前を(もちろん)知ってますし、呼べます。でも、子どもたちは、クラスの中で仲の良い子や同じ班になった子については、名前も良く知ってますが、それほど接触がない子は、名字だけだったり、ニックネームで呼び合っていて、フルネームは言えないんだな…と驚いたものです。もしかすると、年間で何回も名前で呼び合ってないクラスメイトもいるかもしれません。
「これって、教師の立場からすると、淋しいなあ…」
この思いが、授業づくりのスタートにありました。
奇しくも、私の勤務校も、息子の通う学校も学年で5クラス、200名近い子どもが在籍するのマンモス校だったことも、もちろん影響している事でしょう。でも、1年間過ごしたクラスメイトの名前は憶えていて欲しい。そう思いませんか…。
さて、今回は授業UDの考えや技法を使った1時間の授業をご紹介しました。
次回は、最終回としてこの授業を例にして、授業UDの現在のところの理論や国語の授業における主だった技法をご紹介いたします。

笠原 三義(かさはら みつよし)
戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表・同学会 国語部会事務局・日本学級経営学会 会員
埼玉県の公立小学校・在外教育施設派遣(オランダ・ロッテルダム)を経て現職。
UDの視点から主に授業づくり(国語を中心に)・学級と学年経営について研究・発表・講演をしています。
クラスに起こる「あるある」を活かす「普段着のUD」を一緒に考えていきましょう。
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