2019.02.15
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「授業のユニバーサルデザイン」の3要素➆(第8回)

②人的環境のユニバーサルデザイン理論編~児童による双方向の支援体制の育成・後編~

戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表 笠原 三義

②人的環境のユニバーサルデザインについての第5回目です。

以前に、学級経営の7ユニバーサルデザインについて、上掲の4つの視点をご紹介し、これらに敢えて優先順位をつけてみました。

今回は、上掲の中の「C 制度、学校、教師からの一方的な支援だけでなく、子ども同士の双方向的な支援関係を積極的に育成する」についての後編(最終回)です。




学び合い、助け合いを組織する「3つのウオトーク活動」

学び合い、助け合い活動を組織していく方法として私が活用しているのが、「3つのウオトーク活動」です。この「ウオトーク」というのは、私の作った造語で、「ウオーク(歩く)」と「トーク(話す)」をかけあわせた言葉です。このウオトーク活動は、上掲の3つの活動で組織しています。前回は、この中の「①ギャラリーウオトーク」を紹介させていただきました。

今回は残りの2つ、「②フリーウオトーク」と「③トライウオトーク」を紹介します。

フリーウオトーク~多様性の気づきと、異質性への耐性・説得力の育成~

フリーウオトークは、筑波大学附属小学校の桂聖先生が授業や研修会などの中で紹介されている活動に、わたしが名前を付けたものです。この活動は、授業の中などで意見が割れる発問をした際に使うことができます。

今回は、例えば「夏休みと冬休みと春休み、どれが一番楽しみか」と問いかけたとします。ひとしきり自分で考えさせた後に、それぞれの意見をグー、チョキ、パーにカテゴライズして自分がどの意見かを表明させます。

例えば、夏はグー、冬はチョキ、春はパーなどです。発問の内容によっては、迷っているこのために別のハンドサインを付け加えることもあります。

意見を表明した後は、席を立って、グーやパーを出しながら自由に歩き回って(ウオーク)、意見を交換(トーク)します。私が行う際には、まず同じ意見同士で話をさせて、その後に自分とは違う意見の子の話を聞いてきなさいなどと指示を出すことが多いです。

この活動の良さは、意見を決めていても、決めていなくても話し合いの活動に全員が参加できることです。移動しながら話をします。そして、意見がはっきりしながらも理由がはっきりしない子にとっては、たくさんのヒントを得ることができます。もちろん、話し合いが円滑にいかない児童に対しては、寄り添って声掛けをすることも必要です。

同じ意見を聞き合う際には、意見は同じでも、その理由やあげる具体例、表現の根拠が異なることに注意を促しながら活動に参加させます。こどもの言葉にするなら、「同じグーでも、わけが違うときがあるよね」「例えばっているときの、例えが違うときもあるね。」「言い方や、参考にしたページが違うときがあるよね」「それら、自分と違うところを探してくるんだよ」と声掛けをします。この活動を通じて、子どもたちはクラスの中に、意見では同じでも、違うことがあるという多様性に気づくことができます。

違う意見を聞き合う際には、同じく理由、具体例、根拠を知ることによって、異質な意見へ耳を傾ける耐性を身に着けていきます。それと同時に、「え、なんで?」と問い返したり、「でも、それって…」と相手の意見の矛盾をついたりしながら、「それならば…」と自分の意見をもって相手を説得する力も養っていきます。

この活動を通したうえで、全体で意見の交流を行うと、自分の意見により自信をもって話すことができるようになっている子が多くなります。また、「この子の意見が面白かったな、自分と違ったなという子を紹介してくれない?」と問いかけることで、普段あまり発表をしない子に活躍の機会を与えたり、私が把握できていなかった面白い意見が出てくることもあります。

こういった活動を、普段から何度も積み重ねることで、クラスの中に多様な意見を許容する雰囲気や、異論をまずは聞く構えが醸成することができます。この効果は、授業内にとどまらず、学級経営の面からも支持的雰囲気を作っていく上で非常に有効です。

トライウオトーク~支援要求スキルの育成と多様性への対応と対話の力の育成~

「トライウオトーク」とは、端的に言えば子ども達同士の教え合い活動のことです。この活動では、子ども達が自分の課題を終えた子が「トライさん」となり、周りのヒントや助けが欲しい子である「お客さん」たちのところへ向かいます。子ども達は、この制度を「トライさん」と呼んでいます。子ども達にとっては、元ネタが、某家庭教師会社のイメージほうがイメージしやすいようです。しかし、私としては、以下の4つのことへ「トライ」するものだと考えています。

・学力のしんどい子にとっては、学習に対して「トライ」

・学力のある子にとっては、より高い目標に「トライ」

・ユニバーサルデザインの視点からは、教室内の中に当たり前に存在する発達や理解の偏りを組み合わせて、学習効果や効率を上げていくことに「トライ」

・学級としては、授業をすればするほどよりよい人間関係ができていくことに「トライ」

この4つの「トライ」の意味が込められた、「トライさん制度」と考えています。

この、トライウオトークには、下のような2つのルールと1つのマナーがあります。

まず、「こまってる?orがんばってる?」ルールです。これは、トライさんとなった子が、お客さんに対して聞く言葉です。もしも、「困っている」のなら、そのお客さんに関わってオッケーです。でも、もしも、お客さんが「頑張っている」のであれば、それは「頑張ってね!」でスルーをするルールです。これは、一見困って手が止まっているように見える子でも、実際には必死で考えていることがあります。また、人のヒントをもらわずに自分の力で取り組みたい子もいます。そういった子たちを余計な支援から解放してあげるために設定しています。

学力が低位である児童の中には、自分が今どれくらい困っているのか自体を感知することが苦手であったり、困っているのに様々な理由から支援を要求する、平たく言えば助けを求めることが苦手な子がたくさんいます。

こういった子にとっては、この「こまってる?orがんばってる?」ルールは、自身の困り感を感知するトレーニングになります。もちろん、低学年と高学年では、自己認識に関する発達の差がありますので一概に有効とは言えない学齢もあるかと思います。しかし、自分で「今自分は困っているか、頑張っているのか?」を考えることは、自身の立ち位置を考えることにつながり、自分をもう一人の自分で見つめる力である「メタ認知能力」を高めることにもつながります。

また、「こまってる!」といえることは、「支援要求スキル」を育成することにつながります。

子ども達には、次のようなたとえ話をして、この制度への理解を図ります。

「もしも、何かの問題や課題が分からないまま黙っているのって、プールに例えたら泳ぎ方が分からなくておぼれているのと同じだよね。おぼれているときって、黙って静かに沈んでいきますか?そんなことはないよね。バタバタ手足を動かしたり、『助けて!』って声をあげたりするよね。だから、周りの人も気づいて『助けよう!』ってなるんだよね。」

「同じように、教室の勉強でも分からないときには、助けを求めていいんだよ。必ず、誰かが助けに行くからね!」

「支援要求スキル」は学習の場にとどまらず、人生の様々な場面でも必要であると思います。子ども達が成長した際に、もっと大きな困難などに立ち向かうとき、また何かに挫折したり、絶望したりした時にこの「困っているときには助けを求めてよいんだよ」ということを思い出して欲しいです。そして、「助けを求めて良かった」という経験や、「真面目に取り組んだうえで助けを求めれば誰かが助けてくれる」という確信を積ませることは、学力の保証と同じように、また教室の中のしんどい子たちにとってはより大切なのではないでしょうか。

次に、「お客さんファースト」ルールです。これは、どのトライさんにヒントをもらったり教えてもらったりするかは、お客さんがきめて良いというルールです。子ども達は、よくわかっていますので、理解力があっても、教え方が下手だったり、言葉がきつかったりする子などからは、教えてもらおうとあまりしません。そこで、トライさんも教え方や言葉の使い方に気を使い、より上手にかかわることが出来るようになっていきます。

また、教わる子どもにも分かり方のタイプがあります。丁寧に教わる方が良いタイプもいれば、ヒントをもらってあとは黙っていてほしいタイプ、分からない時だけ聞きたいから見守って応援してほしいタイプなど様々です。それらの分かり方の多様性に応じた学び方をできるのも、この「お客さんファースト」ルールの良さです。

「学者には学者の言葉で、樵(木こり)には樵の言葉で語れ」という格言があります。私は、この言葉は学者と樵に上下関係があるのではなく、そもそも使う言葉や、大切にするスタイル、価値観が近い者から聞いた話の方が、良く分かるということだと理解しています。子どもも、学者タイプもいれば、木こりタイプもいます。子どもや5年生などという一つのステレオタイプで括らずに子ども任せることは、自分自身で自分が良く分かる方法や言葉を知ること、ひいては自己理解の萌芽となると考えています。

上記2つに関しては、どちらも主導権が教える側であるトライさんにあるのではなく、あくまで教えてもらう側のお客さんにあるというのがポイントです。

その上で、トライさんになることが多い子には「売れっ子トライさんへの道」というマナーを教えます。

これは、上手な教え方のレベルを示したものです。

こちらでも、最高の教えるレベルは相手に応じていくということを教えていきます。

このことによって、トライさんとお客さんの対等性を保証していきます。

このような教え合いは、一般のクラスでも、「ミニ先生」という名称で行われていることが多いようです。私自身も、低学年を担任していた際には、「ミニ先生になって教えに行ってあげて~。」などと、指示をしていました。

しかしながら、この「ミニ先生」という言葉にはちょっとしたひっかかりを感じるのも事実でした。「先生」という言葉は確かに分かりやすいのですが、先生と生徒という上位と下位の位置づけは、少なくとも子ども達同士の間で用いるのは教育的ではないように感じます。そもそも、教えと学びの関係は、固定的なものではなく、教えている側も、教えながら学び、学んでいる側も、学びつつ教えているという相互に働き合う関係が生じているのではないかと思うのです。そういった意味では、「トライさん」となる側と、「お客さん」となる側は本来対等であるべきですし、その関係を促進していく仕組みを作る教師が「ミニ先生」という名称を使うことは、避ける根期ではないかというのが、今のところの私の考えです。

ですので、最近はトライさんに対して「教えに行ってあげて」というよりも、「自分の幸せを分けに行ってあげましょう」と促すことが多いです。「教える」よりも「幸せを分ける」の方が、私のクラスの子ども達はやる気になるようです。課題が終わったやんちゃ君が、「じゃ、先生、幸せを分けてきます!」とビシッと敬礼しながらトライウオトークに入る姿をみると、なんだか幸せな気持ちになります。周りの子たちもその様子を見て微笑んでいたり、「こっちに幸せプリーズ!」と呼んでいたり楽しそうです。

こういった方策などをもって、学級経営を充実させることが授業を充実させるためには重要です。これらの土台の上にユニバーサル化された授業が展開されることで、多くの子ども達が参加できる授業が実現していきます。

次回からは、授業のユニバーサルデザインの理論と実践について、具体的な教科指導の場面に即してご紹介していきます。

(今回は本文が長くなったので、ミニコーナーは1回休みです)

笠原 三義(かさはら みつよし)

戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表・同学会 国語部会事務局・日本学級経営学会 会員
埼玉県の公立小学校・在外教育施設派遣(オランダ・ロッテルダム)を経て現職。
UDの視点から主に授業づくり(国語を中心に)・学級と学年経営について研究・発表・講演をしています。
クラスに起こる「あるある」を活かす「普段着のUD」を一緒に考えていきましょう。

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