2018.11.27
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「授業のユニバーサルデザイン」の3要素③(第4回)

人的環境のユニバーサルデザイン理論編~リーダーシップのUD化①~
☆ミニコーナー☆普段着UDその②~支え合い、気づかい合う「健康観察」の一工夫~

戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表 笠原 三義

学級経営のユニバーサルデザインに敢えて重要度をつけるなら…

画像①

前回に引き続き、②人的環境のユニバーサルデザインについて、その理論をご紹介します。

学級経営のユニバーサルデザインついて、以下の4つの視点をご紹介しました。

いうまでもなく、この4つは、全てが密接に絡み合う視点です。

 A 安心を基盤としたシステム設計

 B 学級経営において、困り感をもつ子どもにはないと困る支援であり、どの子どもにもあると便利な支援を標準装備する

 C 制度、学校、教師からの一方的な支援だけでなく、子ども同士の双方向的な支援関係を積極的に育成する

 D 教師のリーダーシップをUD化する

赤坂真二第2回日本授業UD学会全国大会 講演資料「学級経営のUD」より(文責 笠原)

しかし、これらに敢えて優先順位をつけてみると、私は上(画像①)のようになると思います。
この中の、D 教師のリーダーシップをUD化するについて考えてみます。

教師のリーダーシップのUD化=ビジョンの明確化

画像②

そもそも、教師のリーダーシップとは、どんなものなのでしょう。
リーダーシップとは、日本語に直せば「統率力」です。
その「統率力」には、上(画像②)のような3つの意味があります。
どれも、大切ですが、この中でもビジョンの作成が、一番大切だと考えます。
学級におけるビジョンと聞くと、たいていは「学級目標」を一番に挙げますね。
でも、その学級目標は、子供たちの中で「生きている」でしょうか?
意外に、4月に決めてからそのまま額に入っているものになってしまっていることも多いように感じます。
それもそのはずです。年度当初には、まだクラスに対する思いや願いが実感を伴っていないからです。

そこで、理想のクラスを語り合うことも悪くはないでしょう。昨年のクラスを元に、話し合うこともできますね。
でも、私なら、「今年のクラスってこういうクラスだ」と実感を伴った上で、目標を子ども達と設定していきたいと考えます。

そこで、行うのが、「自分のクラスを一文字で表す」という活動です。

「自分のクラスを一文字で表す」

画像③

クラスが始まって、1か月ほどたったところで、このように子どもたちに話します。

「このクラスが始まって、1か月くらいたつのだけど、このクラスを漢字一文字で表すとどんな文字になるかな?自分の周りを見て感じることや、これから続いてほしかったり、こうなってほしいという思いを込めても良いです。それを、ノートに書いてきてみてね。できれば、良いところに注目してプラスの意味の漢字にしてくださいね。どうしてもマイナスの漢字にしたいときは、先生に個人的に教えてくださいね。」

 
その結果、子供たちから集まった一文字の一部が、右(画像③)のようなものでした。

この活動は、年に3回ほど行っていますが、協力の「協」、優しいの「優」などは初期から子供たちからよく出てくる一文字です。

それに対して、「狼」(一匹でも強いけど、協力して狩りをすると、とても強くなる)や「水」(その気になれば、どんなもものにでもなれる)など、少しひねった文字を書いてくる子もいます。

「十」(みんな十人十色だから)「虹」(みんながいろいろな色をしていて、それが合わさってきれいだから)などの文字が出てくると、「ああ、このクラス運営も少し軌道にのってきたかな?」とうれしくなります。

これらを子どもたちと共有して、クラスのビジョンを定めていきます。
ですので、学級目標は年度途中で変わったり、言葉は変わりませんが、目指すイメージがバージョンアップしたりしていきます。

このように、「リーダーシップ」と聞くと、教師がぐいぐいと引っ張っていくイメージを持つ方が多いですが、私のもつリーダーシップ像は違います。子どもの思いをくみ取りながら、徐々にクラス全員で目指していく姿を明確にしていく。その過程に関わり、促進(ファシリテート)していく。これこそが教師にしかできないリーダーシップを確立していく大切な手続きでしょうし、学級経営の醍醐味ではないでしょうか。

次回は、「A 安心を基盤としたシステム設計」について、詳しくご紹介いたします。

☆ミニコーナー・普段着UDその②「健康観察」☆

どんなクラスでも、やっている事、もしくは起こる出来事にUDの視点から一工夫すること。
それを、私は「学級あるある」を活かした『普段着のUD』」として提唱しています。
前回紹介したのは、朝のスピーチ活動への一工夫でした。

今回、紹介するのは、同じく朝に行う健康観察です。みなさんの学校では、健康観察はどのように行っていますか?良く行われているのは、「Aさん」「ハイ元気です」という、教師と児童による「呼名―返事型」の健康観察です。私も、年度当初など子どもの顔と名前を一致させていくことが必要な時には、このやりかたを行います。

しかし、1週間ほどたつと、次のような3つの工夫をしています。

①健康観察は、班ごとに班長が行い、全体の前で教師に報告する。

②班ごとの健康観察の言葉は、子供らしい言葉を許容する。

③時折、報告した内容について、確認をする。

一つづつ、詳細を説明します。

①健康観察は、班ごとに班長が行い、全体の前で教師に報告する。

健康観察になると、「班長さんお願いします」と班長に健康観察をお願いします。そして、班長は、自分の班のメンバーに体調を聞いていき、全員確認したら起立します。

班長が全員起立したところで、私から、「〇班からお願いします」と聞いていきます。「Aさんは、風邪気味で、それ以外の人は元気です」「Bさんは昨日熱があったそうで、それ以外は元気です」などと伝えてきますので、少し気になる子には、その場で直接体調を尋ねます。時には、「Cさんは、手を骨折しているので、今日の音楽の時に荷物を持ってくれる人を募集しています!」などと伝えてくれる気が利いた班長もいます。

②班ごとの健康観察の言葉は、子供らしい言葉を許容する。

班ごとの健康観察のルールは、必ずメンバー一人ひとりの顔を見て聞くことです。そのことにより、いつもより体調がよくなさそうだな…など、子ども同士が気づき合うことができます。聞き方の話型は、特に定めません。「元気ですか?」と聞く子もいますが、「ばっちり?」「風邪気味?」などとくだけだ言葉で聞く子もいます。返事も、「元気です」もあれば、「ばっちり!」「スーパー元気!」など、子供の個性が出るのが面白いところです。

③時折、報告した内容について、確認をする。

班長による全体での確認が終わったところで、「今日のAさんの体長はどうだったかな?」「Bさんは昨日どんな体調だったかな?」などと問いかけます。時には、ミニクイズ大会のようにもなりますが、聞いてくれていることがわかると、当の本人はうれしそうです。これにより、朝一番からしっかり聞くことと、「相手の体長を気づかうことが出来るのって素敵ですね」と、お互いを気づかい合う大切さを伝える場面でもあります。

健康観察という場を利用して、話し手と聞き手や聞き手同士の関係を育てることにより、子ども同士の関係をつなぎ、気づかい、支え合う大切さを伝えていきます。それが、教育のUDの基盤を支える支持的な学級風土を育てることとなっていくと思います。

全体でかかる時間は1分以下。前回ご紹介したスピーチ活動と同じように、朝から温かい雰囲気で一日をスタートできるおススメの活動です。

ぜひ、取り組んでみてください!

笠原 三義(かさはら みつよし)

戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表・同学会 国語部会事務局・日本学級経営学会 会員
埼玉県の公立小学校・在外教育施設派遣(オランダ・ロッテルダム)を経て現職。
UDの視点から主に授業づくり(国語を中心に)・学級と学年経営について研究・発表・講演をしています。
クラスに起こる「あるある」を活かす「普段着のUD」を一緒に考えていきましょう。

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