2018.12.13
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「授業のユニバーサルデザイン」の3要素④(第5回)

人的環境のユニバーサルデザイン理論編~安心を基盤としたシステム設計~
☆ミニコーナー☆普段着UDその③~多様な視点を保証し、認め合う「席替え」の一工夫~

戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表 笠原 三義

人的環境のユニバーサルデザイン

前回に引き続き、②人的環境のユニバーサルデザインについて、その理論をご紹介します。

学級経営のユニバーサルデザインについて、上掲資料に示したように4つの視点をご紹介し、これらに敢えて優先順位をつけてみました。

今回は、「A 安心を基盤としたシステム設計」について考えてみます。

安心を基盤としたシステム設計=普段の生活(あるある)の中に指導内容を埋め込んでいく

システムとは、もともとは、「目的を遂行するための体系や組織」という意味があります。

つまり、安心を基盤としたシステムを学級の中に設計していくこととは、目的を遂行できるように安心できる場として教室を組織、体系立てていくこととなります。そして体系立てるということは、思い付きではなく予定をしながら、時期を待ち受けて指導を入れていくこととつながります。

私は、無理のない「普段着のUD」の立場から、毎年上掲の資料に示した10の場面で子どもたちに安心感を持たせるような指導を行っていきます。

今回は、この内の「休み時間」について本文で、「席替え」については、ミニコーナーで取り組みを紹介します。

自分の子どものころを思い出すと…。

皆さんは、ご自身が子どもの頃の休み時間を覚えていますか?

私は、いわゆる「キャプテン翼世代」のサッカー少年でしたので、全ての休み時間、たくさんいるサッカー友達とのサッカー一択でした。逆に言えば、遊び方に迷いがなく、遊ぶ相手が常にいる幸せな子供時代だったように今はおもいます。これに対して、中学校にあがってサッカーから離れてみると、自分が休み時間を過ごす選択肢のなさに驚き、休み時間の使い方を持て余したことを覚えています。ましてや多感な中学生。授業中に席に座っているのは当たり前ですが、休み時間に一人で席に座っているのは、即「私は友達がいません」と言っているような気がして恥ずかしかった覚えがあります。

この感覚は、多くの子どもたちが感じているようです。子ども達にとって、休み時間は楽しみであると同時に、居場所を自分で作らなければならない時間でもあるのです。特に、新しいクラスになった当初は、なかなか遊び相手が見つからず休み時間がつまらないという子もいます。

そこで、新しいクラスになった当初や、大きな休みや連休明けには、必ず「何して遊ぶ?」の時間を取ります。

時間をとるといっても、とてもシンプルなことです。中休み時間の前の授業を3分くらい早く終わらせて、「次の休み時間、何して過ごす?」と挙手をあおいで聞くのです。「サッカー」「ドッジボール」「鬼ごっこ」「縄跳び」など外遊びの意見が多く出てきます。たくさんの意見が出てきたところで、「遊びたい子は、その子のところに集まって一緒に行くといいね。」と声をかけ、休み時間を終えるのです。そして、休み時間空けにはどんな遊びを、だれとしていたのかを聞いていきます。これを、1週間ほど繰り返すのです。しばらくすると、教室に残っている子も他の児童に誘われて少しずつ減っていきます。大抵の場合は、これでクラスの90パーセント位の子たち(低学年では100パーセントの時も!)は外に出ていきます。

この取り組みをしてクラスに残った子たちには、「何してすごすの?」と声をかけていきます。ここで、遊びに乗り遅れてしまった子には、その遊びのリーダー格の子どもに、「〇〇さんも、遊びたいみたいだから、今度誘ってあげてね」と声をかけておきます。それでも、クラスに残る子もいます。大抵は外遊びが苦手な子や読書が好きな子が残りますので、「あなたたちの好きなことはわかったよ。でも、クラスレクやみんなで力を合わせる時には、ぜひ協力してね」と約束をした上で、その子らしい過ごし方として尊重します。こういった子たちは、普段は話す機会が少ない子たちが多いので、「最近どう?」など話したりする貴重なコミュニケーションの場にもなります。こういった子はクラスのことをよく見ていることも多いので、生徒指導上の貴重な情報を教えてくれることもあります。

毎日必ずある「休み時間」という機会を使って、子ども同士をつなげて、安心できる場を作っていくことも、学級経営のUDを進めていくうえで大切な土台になると考えています。

次回は、「B 学級経営において、困り感をもつ子どもにはないと困る支援であり、どの子どもにもあると便利な支援を標準装備する」「C 制度、学校、教師からの一方的な支援だけでなく、子ども同士の双方向的な支援関係を積極的に育成する」について、詳しくご紹介いたします。

☆ミニコーナー・普段着UDその③「席替え」☆

どんなクラスでも、やっている事、もしくは起こる出来事にUDの視点から一工夫すること。それを、私は「学級あるある」を活かした『普段着のUD』」として提唱しています。前回紹介したのは、健康観察の一工夫でした。

今回、紹介するのは、どのクラスでも行われている「席替え」の一工夫です。みなさんの学校では、席替えはどのように行っていますか?

私の周りでは、学期はじめは出席番号順に男女ペアで並ばせているようです。

その後は、先生が決める、くじ引き、子どもと相談などが多いようですね。中には、林間学校の前や球技大会など行事の前にはその行事に臨むグループで席を組んでチーム力を高める工夫をされている先生もいます。

私は、以下の3点に小さな工夫を入れながら席替えを行っています。

①席替えの意図をはっきりと伝える

さて、席替えを行うねらいとは、何でしょうか?

視力や身長差など、身体的な違いの調整を行う視点があります。

また、学力に配慮して学習効率を高めることも多くの学級でされていることでしょう。

私にとって、席替えをする意図は、「勉強をしやすくするため」そして、「いろんな人の良さを見つけるため」です。

子どもに対しては、以下のように席替えの意図を伝えます。

「学校は、まず勉強をするところだから、それをしやすくするために席を調整します。その上で、先生はこっちがとっても大切だと思うのだけど、せっかくこのクラスになったのだから、お互いのいいところを見つけることが出来るといいね。悪いところって、見つけなくても目に飛び込んできます。でも、良いところは近くにいるからこそ気が付くこともあるよね。その席の間に、周りの人の良いところをたくさん見つけて、次の席替えの前にはそれを教えてください。良い所見つけセンサーを育てて、他人の良さに気づく素敵な人になってくださいね。」

②席替えの時期を選ぶ

席替えの時期(頻度)もクラスによって様々です。

月に1回行う方もいますし、日直が1周したらという方もいます。

私は、最近平均2か月に1回。以下の時期に行っています。(私の勤務校は前後期制です。)

①年度当初(4月半ば~後半)

②運動会後(6月前半)

③夏休みに入る前(7月後半)

④前期が終了する直前(10月前半)

⑤冬休みに入る前(12月末)

⑥終業式1か月前(2月中旬~後半)

気を付けているのは、大きな行事や区切りの最中や、長期休み明けに行うことを避けていることです。

これらの時期に、人間関係の変化を伴うのは、教員側、子ども側両方にとってメリットが少ないと考えるからです。

①の年度当初は、はじめの1~2週間で今年の子ども達の様子を把握したうえで行うため、比較的早めです。

③、⑤は、休みに入る前に休み明けの体制を作ってしまうことで、長期休み明けの子ども達の不安感を低減できると考えているからです。

高学年で子どもたちが育ってきている場合には、⑥の席替えは、子ども達に任せてみる時もあります。

③席替え前後の一工夫

席替えの時期が近づくと、子ども達に週末の宿題として「班の子の良いところ」を連絡帳などに書かせます。最初は見つけられない子も、観点を与えたり相手の子をよく知る子にアドバイスもらったりすると、たいてい見つけることができます。

ここで、「連絡帳にメモさせる」というのが、ポイントです。連絡帳は、基本保護者の方もかならず目を通しますから、「自分の子どもの良いところも、他の子が見つけてくれている」ということを知り、これが、保護者の班の子に対する安心感にもつながります。

そして、席替えを翌日に控えた日に、「班の人へ言葉のおくりもの」の活動をします。

これは、以下のようなシートに、班のメンバーの良いところを書いて回していき、最後に本人にプレゼントするものです。この活動をすると、もらった本人は、何とも言えない良い顔をするのです。中には、「自分ではそんなことを思ったことなかった」という声も聴かれますので、「自分の知らない良いところを見つけてもらえてよかったね」と声をかけてあげます。

そして、「次の班でも、新しいメンバーの良いところをたくさん見つけることが出来るといいですね」と投げかけて、席替えを行います。

このシートは、家に持ち帰り、保護者の方にも見ていただいて一筆入れて返却をしてもらいます。また、個人面談などの際には、資料として使用します。そして、年間をかけてためて、年度末に本人に返却します。席替えを繰り返していくと、同じ良さばかり書かれる(「キャラ」が固まってしまう)子が現れますので、「ここにはない〇〇さんの良さを発見してあげよう」と促すときの材料にもしています。

毎回かかる時間は15分程度。前回ご紹介したスピーチ活動と同じように、班としての終わりを温かい雰囲気で行うことができるおススメの活動です。

冬休み前、また冬休み明けの席替えの際に、ぜひ取り組んでみてください!

笠原 三義(かさはら みつよし)

戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表・同学会 国語部会事務局・日本学級経営学会 会員
埼玉県の公立小学校・在外教育施設派遣(オランダ・ロッテルダム)を経て現職。
UDの視点から主に授業づくり(国語を中心に)・学級と学年経営について研究・発表・講演をしています。
クラスに起こる「あるある」を活かす「普段着のUD」を一緒に考えていきましょう。

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