2019.01.28
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「授業のユニバーサルデザイン」の3要素⑥(第7回)

②人的環境のユニバーサルデザイン理論編~児童による双方向の支援体制の育成・前編~
☆ミニコーナー☆普段着UDその⑤「ラッキーセブン」ジャンケンで、温かい人間関係づくり

戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表 笠原 三義

人的環境のユニバーサルデザイン

人的環境のユニバーサルデザインも、第4回目です。

今回は、上掲の中の「C 制度、学校、教師からの一方的な支援だけでなく、子ども同士の双方向的な支援関係を積極的に育成する」について考えてみます。

T→C関係から、T→C→C・C⇔C⇔C関係を育成する

さて、クラスの中で、授業中に支援が必要な児童は、どのクラスにもいることでしょう。その児童に対して、どのような支援をおこなっているでしょうか。
私は若いころは、授業の中で机間指導を行う際について教えることがありました。しかし、ある年にクラスの中に学力的にしんどい子が多いクラスを持つことがありました。しかも、教室からいなくなってしまったり、場合によっては個別に対応を迫られる子もいて、自分が動くことが出来ないのです。そこで、自分の手では全く足りない現実に直面したのです。

そこで、考えたのは子ども達の力をかりることでした。教師が子どもを教えることから、徐々に教師が教えたことを理解した(している)子が、まだ理解をしていない子を教える関係や、子ども同士が互いに教え合う関係を育成することを考えたのです。
しかし、子ども達は放っておけば互いに教え合ったり助け合ったりするわけではありません。子ども達が教え合ったり、助け合ったりするためには、3つのことが必要です。

一つ目は、学び合いや助け合いが存在するための時間が必要なことです。これは当たり前のことですが、授業を先生主導で引っ張りすぎたり、内容を盛り込みすぎたりすると、そもそも子どもが自由に動くスキマがなくなってしまいます。授業には、ある程度子どもが自由にできるスキマを創ることが大切です。
二つ目は、学び合い、助け合うことの価値を伝え感じさせることです。子ども達の中に、教え合うことや教わることの大切さ、助け合うことのすばらしさをクラスの中でオーソライズ(標準化)し、価値づけることが必要です。
そして、三つめは学び合いや助け合いを実現するための方法を提示し、子ども達が使いこなせるようにすることです。
以下、二つ目と三つ目について、具体的な実践をご紹介します。

学び合い、助け合いを価値づける「ラーニングピラミッド」

学び合いや助け合いを価値づける方法として、私が活用しているのは、上掲のような「ラーニングピラミッド」と呼ばれるものを、改変した図です。改変した部分は、知識の定着率を省き、学習方略をインプット型とアウトプット型に分けて、双方の組み合わせで学ぶことによって「アクティブラーナー」になろうとしている部分です。
ラーニングピラミッドとは、アメリカ国立訓練研究所にて提唱された学習の方略による知識の定着度を表した円錐型のグラフです。この考え方に従うと、話を聞くことに比べて、人に教えることの方が学習の定着率が高いとされています。このラーニングピラミッド自体は、近年になって調査の信用性などに疑問が提起されていますが、多様な学習方略を用いて学習することで、理解が進むことを示すうえでは、非常に有効であると感じています。

私は、新しい学年を担任した初期の段階で、授業の中でこの図を示して、次のように語ります。
「学校での勉強は、みんなで勉強をすすめていくよね。その時に人によって分かったりできたりするのには違いがあります。でも、ここにいるみんなができるだけ授業の中で分かったり、できたりするようになってほしいと先生は思っています。だから、この図のように話を聞くだけじゃなくていろんな方法を使って勉強をしましょう。そして、自分が『これ、分かりやすい!』と思った方法や、『こうすればいい』という考え方を、周りに伝えていきましょう。特に、自分は少し人よりもわかることが早かったり、多かったりする子は、その幸せを周りに分けてあげましょうね」
この「幸せのおすそ分け」の発想は、授業のみならず様々な場面で子どもたちに伝えていきます。

学び合い、助け合いを組織する「3つのウオトーク活動

学び合い、助け合いをラーニングピラミッドで価値づけた後は、活動を組織していく必要があります。その方法として私が活用しているのが、「3つのウオトーク活動」です。このウオトークというのは、私の作った造語で、「ウオーク(歩く)」と「トーク(話す)」をかけあわせた言葉です。 
このウオトーク活動は、上掲の3つの活動で組織しています。これらの3つの活動は、順番や上下関係を表しているわけではありません。それぞれの活動を授業の中の展開に合わせて行っています。とはいえ、①が出来ないクラスでは、②は成立しにくく、②が出来ないクラスでは③はできにくいといった活動の容易さを表す順番を表している面もあることを付記させていただきます。

ギャラリーウオトーク

一つ目のギャラリーウオトークは、元々は川上康則先生(東京都立青山特別支援学校)が紹介している「ギャラリーウオーク」という活動です。私は、これに必要に応じて話すことも取り入れて「ギャラリーウオトーク」としています。この活動は、その名の通り授業中にギャラリー(美術館)を歩くように静かに立ち歩き、他の児童の活動やノートを見合うものです。特別支援教育の視点から見ると、以下のような4つの利点がある活動です。
この①から④の中で、とても大切な視点だと思うのは④です。支援を必要とする子は、普段から個別指導を受けることが多いです。教師としては必要なので行うのですが、子どもの視点から見ると個別支援をうけていることは、そのまま自分が出来ないことをみんなに伝えていることそのものです。それに対して、このギャラリーウオトークでは、周りの子ども達も活動を行っている中で支援を行うので、支援が目立ちにくくなります。

この4つに追加して、私は上掲の3つの良さも感じています。
例えば、何かの活動を行っているときに「困った人は、静かに他の人がどんな意見を書いているか見ておいで。頑張っている人は、もう少し頑張ってからでいいよ」とギャラリーウオトーク活動を指示したとします。そうなると、こどもはまず自分がどれくらい困っているのかについて考えます。その結果、「ヒントが必要だ」と考えるとギャラリーウオトークをしますし、「いや、もう少し考えてみよう」と判断することもできます。自分の中の課題に対する困りレベルを判断することで、適切なタイミングで助けを求める力を育成することができます。

また、ギャラリーウオトークを繰り返す中で、情報源についても子どもそれぞれの個性が出てきます。面白いのが、必ずしも仲が良い子のところへ行く子ばかりでないということです。子ども達の様子をよく観察していると、普段仲が良いわけではないのですが、ある子のところに必ず行く子がでてきます。その子に聞くと、「いつもユニークなアイディアを出していて面白いから」とのことでした。

また、結果として短時間で子ども達が周りの子たちの意見を知ることもできます。36名以上のクラスですと短時間に意見を交流させることは難しいです。でも、このやり方であれば子ども達は多くの意見を知ることが出来ます。その上で、教師が取り上げる必要を感じた意見を全体の前で発表させると、意見の交流とねらいの達成をしやすくなります。

次回は、「3つのウオトーク活動」の中の残り2つ、「フリーウオトーク」と「トライウオトーク」について、詳しくご紹介いたします。

☆ミニコーナー・普段着UDその⑤☆~勝ち負けなし!人間関係をふかめる「ラッキーセブン」ジャンケン

どんなクラスでも、やっている事、もしくは起こる出来事にUDの視点から一工夫すること。それを、私は「学級あるある」を活かした『普段着のUD』」として提唱しています。
今回、紹介するのは、どのクラスでも行う「ジャンケン」の一工夫です。ジャンケンはジャンケンでも、「ラッキーセブン」というジャンケンです。ルールは簡単です。教師は、ジャンケンと同じ要領で0~5本の指を立てて出します(つまり、グーチョキパー以外の1本指や3本指や4本指もあるということです)。

そして、自分が出した指の数を合わせて「7」になれば、「ラッキー」で勝ちになります。もちろん、相手に何を出すのか、言葉で予告するのは、禁止です。
私は、この活動を年度初めの子供達との出会いの際に、行います。
「さっそくだけど、みんな、先生の心の中がわかるかな?分かった人がラッキーです」などと言いながら、楽しい雰囲気で行います。
初めは、教員と子どもでやりますが、慣れてきたら子ども同士でも行わせます。こちらは、席替えの後などにおこなったり、休み時間の前に「ラッキーになったペアから休み時間ね」と行ったりします。
このラッキーセブンの良いところは、相手と一緒に7をつくるという共通の目標に対して取り組む経験を積むことが出来ることです。そして、この活動の一番良いところは、取り組んだ二人が同時に「ラッキー」になり、達成感を味わうことができることです。自然と、ハイタッチするペアも現れますので、それは「いいねえ!ラッキーなペアは仲もいい!」と認めていきます。
このラッキーセブンは、やってみると分かりますが、単に運に任せているとなかなかラッキーになりません。ラッキーを作るのがうまいペアは、途中から相手の雰囲気を感じ、次に自分が何を出すか目や表情でコミュニケーションを取り始めます。このように、相手の気持ちを探ったり、慮ったりすることは、ラッキー7を作ることだけにとどまらず、人間関係を深めていくことにつながります。

また、なかなかラッキーを作ることができないペアがいる場合は、できるまで見守ることが大切です。そして、見守る対象は、残っているペアではなく、早く終わっているペアです。早く終わっているペアの中には、自分たちが終わってほっとしたり、喜んだりしている子がいるのはもちろんですが、このなかなか終わらないペアの様子を見ている子たちがいます。その子たちを、じゃんけんが終わった後に「心配してくれていたんだよね。自分たちのことだけでなく、他の人のことも気にできるって素敵だね」と人のことも気にできる子を認めていきます。そのことによって、全員が終わった時に、自然と拍手がわくと、クラスの雰囲気が温かくなります。

かかる時間は1,2分でできる、学級開きや席替えの後など、人間関係をつくっていくアイスブレイクとしておススメの活動です。
ぜひ取り組んでみてください!

笠原 三義(かさはら みつよし)

戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表・同学会 国語部会事務局・日本学級経営学会 会員
埼玉県の公立小学校・在外教育施設派遣(オランダ・ロッテルダム)を経て現職。
UDの視点から主に授業づくり(国語を中心に)・学級と学年経営について研究・発表・講演をしています。
クラスに起こる「あるある」を活かす「普段着のUD」を一緒に考えていきましょう。

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