「授業のユニバーサルデザイン」の3要素⑤(第6回)
②人的環境のユニバーサルデザイン理論編~困り感を持つ子への支援アイディア~
☆ミニコーナー☆普段着UDその④行事のふり返りで、クラスの「素敵な当たり前」づくり
戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表 笠原 三義
人的環境のユニバーサルデザイン
②人的環境のユニバーサルデザインについても第3回目です。
学級経営のユニバーサルデザインについて、上掲の4つの視点をご紹介し、これらに敢えて優先順位をつけ、ご説明しています。
今回は、この中の「B 学級経営において、困り感をもつ子どもにはないと困る支援であり、どの子どもにもあると便利な支援を標準装備する」について考えてみます。
「問題行動」=その子なりの「適応行動」
さて、クラスの中で困り感を持っている子と聞くと、皆さんはどんな子を思い浮かべるでしょうか。
また、そのような子どもたちが、一番困ることは何でしょう。
クラスの中の困り感とは、その場にあった行動ができないということです。そのような状態が続くと、子供は段々「居場所」がなくなっていきます。すると、その「居場所」を確保しようと様々な行動で何とか「適応」しようとします。
例えば、授業中に立ち歩いてしまう子がいるとしましょう。この行動は、教員側から見ると、「問題行動」です。しかし、その子にとっては座席に座っていることという苦手な行動を続けるための気分転換という「適応行動」である場合があります。また、すぐに友達とのトラブルを起こす子がいたとします。教師から見るとそれは、明らかな問題行動です。その一方、その子にとっては、友達とのコミュニケーションの一つという「適応」行動である場合もあるのです。
子どもの行動は、「問題行動」に見えても、その多くが状況に対する「適応」行動だと考えると、その子がなぜそのような行動をしようとしているのかが分かりやすくなります。
「適応行動」で、負のループにはまる子どもたち
そんな、困り感を持っている子どもたちが、自分たちなりの「適応行動」を続けていると、自然と叱責を受けることが多くなっていきます。また、トラブルが多発し続けると、自然と周りの子どもたちの視線は厳しくなります。そうなると、その子たちにとってはますます「居場所」が減り、その居場所を確保しようとますますその子なりの「適応行動」を繰り返していき、さらに「居場所」が減る…という負のループにはまっていきます。この負のループは、人間関係が深まれば深まるほどその子だけその関係から疎外されたり、問題行動が起こる頻度が加速度的に上がっていったりして、解決が難しくなっていきます。
もちろん「問題行動」に対しての対応として叱責することが無駄だということではありません。大きなけがにつながることや、心を傷つけることに関しては、私も躊躇なく厳しく指導を入れることがあります。ただ子どもたち、特に困り感をもつ子どもたちにとっては、そもそもその行動がその子にとっての「適応行動」なので、一時は低減するかもしれませんが、繰り返していくことが多いです。
正の「適応行動」を「居場所づくり」の組織を通じて支援する。
では、子どもを負のループから救うにはどうすればよいのでしょうか。
様々な支援が考えられますが、私の場合には、まずその子の居場所をつくることから始めます。
しかし、困り感のある子にとって自然に過ごしていると、どんどん居場所は減っていきます。ですので、教師がその子が輝けるように、「プロデュース」していく発想が必要となります。プロデュースの基本は、「強みの最大化」と「弱みの最小化」です。このうち、私もよくやってしまうのは、「弱みの最小化」つまり、問題行動を減らすという指導です。もちろん大切な指導ではありますが、よほどじっくり取り組まないと難しいです。
これに対して、「強みの最大化」は、場合によっては即効性があります。かみ砕いていくと、「強みの最大化」を行うために、その子の良さを見つけ、広め、周りからも認められる機会を計画的、組織的に行うということなのです。とはいえ、その子の良さを自分の目だけで見つけるのは、時に難しいものです。前年度の担任をした先生が残っていれば、直接聞くこともできますが、今は教員の転任も多く(私の勤務校では、毎年40パーセント以上の先生方が入れ替わります)、引継ぎが十分にできないこともあります。
そこで、その子と関わっている人の力(リソース)を活用します。それは、保護者の方と、子どもたちです。
その子の良さを見つける「個人シート」
私は子どもたちの良さをプロデュースするために、保護者の方に「個人シート」を書いていただきます。これは、年度当初、ゴールデンウィークを利用して書いて提出していただきます。そして、このシートは、のちに個人面談をする際に、このシートを保護者と一緒に見ながら話をする際の共通資料としても利用します。
さて、この個人シートには、以下の項目があります。
①子どもの長所(6つ以上)
②子どもの課題(2つまで)
③習い事
④クラスニックネーム(子ども本人がクラスで呼ばれた呼び名)
⑤その他伝えたいこと
これらそれぞれに、意味があります。
まず、①の長所を6つ以上とするのは、このシートの目的があくまで子どもの良さをプロデュースするための材料集めだからです。面談の際に保護者の方からは、「先生、3つ目くらいまではポンポン出てくるけど、その後が結構大変でした~」という声を聞きます。そこから、「子どもをよく見てこんなこともあるかな…とひねり出しました!」という方もいれば、「ちょうど連休で父親もいたので、父親とも考えました」という方、「1つ目、2つ目を別の言い方に変えてみました…」「課題だと思っていたことも、裏返してみると長所かも…と思いました」などという声を聞くこともあります。
これらは、保護者の方に以下のことを行っていただくことになります。
・子どもの良さについて、改めて考えてもらう機会をつくる(美点凝視)
・普段、あまり子育てにかかわらない方にも、関わってもらう機会となる(親のコミュニケーション)
・言いかえや、裏返して考えてみる(別視点からのリフレーミング)
これらを行うことによって、子どもに対する見方を広げていただきたいという想いもあります。
次に、②の短所を2つに絞るのは、自分の実感を確かめるため、また年間に取り組める課題を広げないためです。
私のこれまでの経験でいうと、保護者の方は「よくお子さんを見ているな~!」ということが多いです。長所についてもそうですが、特に課題についてはほぼ正確に把握されていることが多く、率直に書いてきていただくことが多いように感じます。そこで、「実は学校でも気になる時はあって…」と話を継ぎ、学校と家庭共通に取り組んでいく課題として、確認をします。もちろん、学校でそこまで気にならないことの場合もありますので、そこは正直に伝えながらも、「学校でも気を付けてみていきますね」と伝えていきます。
③習い事については、その子の家庭での状況を把握するためです。
今の子どもたちは、驚くほどたくさんの習い事をしている場合が多いです。
習い事の掛け持ちは普通ですし、子供によっては3つ~4つの習いごとのハシゴをしている子もいます。
④のクラスニックネームについては、いじめの芽を見つけるためです。
子どもたちは、いろいろな呼ばれ方で呼ばれています。その呼ばれ方と、クラスニックネームとして書かれている名前に齟齬があった場合には、その子の立場が何がしかの変化にさらされていることがあります。その場合には、周りの子どもたち呼んでその呼ばれ方に何か負の意図がないか、バカにされていないかなどを確認します。そして、その上で、本人を呼びその名前で呼ばれていることについてどう思っているのかを聞き、場合によっては、周りの児童へ指導を行います。
⑤に関しては、保護者の思いを早めにキャッチするために用意します。内容によっては、面談の機会を早めにもったり、お電話をして内容を確認したりします。
この個人シートでその子の長所確認をすると、不思議なもので実際にそういった場面が目に飛び込んでくるようになります。それは、教師の側に、その子を理解するための視点や増えたからではないかと思います。ですので、その場面にあった時を逃さずに誉めたり、認めたりすることが出来るようになります。逆に、短所が目に飛び込んできても、かっとならずに、粘り強く働きかけていこうという気持ちを持ちやすくなるという効果もあります。
そうして、その子の良さを周りに広げることをくり返しながら、「○○なAさん」というポジションをクラスの中で確立していきます。これが、わたしの言うところの「プロデュース」の第一段階です。この第一段階がうまくいくと、周りの子供達も、この視点でその子を見るようになります。すると、「先生、Aさんがこんなことをして助けてくれたよ」などと、良さを教えてくれるようになります。また、私の学級では、「良いところ探し」を帰りの会で行っていますので、そこで全体に対して発表してくれます。また、前回ご紹介した席替えごとに行う「班の人への言葉のおくり物」活動とも連動させていくと、効果は倍以上になります。
毎年必ずある「個人面談」という機会を使って、困り感をもつ子どもの良さを見つけ、プロデュースし、正の適応行動のループを創り、子ども同士の認め合いを通じて強化していく。こういった活動を計画的、組織的に行っていくことは、困り感を持つ子だけでなく、クラスのすべての子どもに有効な支援です。この活動も、学級経営のUDを進めていくうえで大切な土台になると考えています
次回は、「C 制度、学校、教師からの一方的な支援だけでなく、子ども同士の双方向的な支援関係を積極的に育成する」について、詳しくご紹介いたします。
☆ミニコーナー・普段着UDその④☆~行事のふり返りで、クラスの「素敵な当たり前」づくり~
どんなクラスでも、やっている事、もしくは起こる出来事にUDの視点から一工夫すること。
それを、私は「学級あるある」を活かした『普段着のUD』」として提唱しています。
今回、紹介するのは、どのクラスでも行われている「行事のふり返り」の一工夫です。
みなさんは行事が終わった後のふり返りを行っていますか?
行い方は、口頭での発表や振り返りカードへの記入など様々でしょう。
私の場合は、次のように行います。
まず、行事を前に、次のように伝えます。
「この行事を通じて、みんなには学級目標を達成するようにしてほしい。その中で、これからも続けたい当たり前を創っていこうね。」
そして、行事後に、その行事中に見つけた学級目標に関わって達成できたことを、全員が黒板に板書します
上掲の板書は、ある年の運動会後のふり返り板書です。
この時の学級目標は、「切り替えができるクラス・協力ができるクラス・素直なクラス」でしたので、この中の一文字ずつをとって「えがお」というのが、子どもたちのつくった言葉でした。
ふり返りでは、この黒板をみながら、この行事が終わっても「当たり前」にしたいことを聞きます。そして、子どもたちと、「すてきな当たり前」としていつもできるようにとしていきます。
行事に対して個人での取り組みを振り返るとともに、クラスとしての行事における成長も確認することで、学級としての成長を子どもたちと感じることができます。
また、主要な行事のあとにこの振り返りを繰り返していくことで、クラスの中に「すてきな当たり前」が少しずつ増えていきます。この素敵な当たり前をクラスとして維持、更新していくことがクラスの本当の意味での成長ではないかと考えています。
事前に予告した上で、朝登校した子から黒板に書いていかせれば、毎回かかる時間は20分程度。行事の終わりを温かい雰囲気で終わるだけでなく、成長の実感を与えることもできるおススメの活動です。
主な行事の後などに、ぜひ取り組んでみてください!

笠原 三義(かさはら みつよし)
戸田市立戸田第二小学校 教諭・日本授業UD学会埼玉支部代表・同学会 国語部会事務局・日本学級経営学会 会員
埼玉県の公立小学校・在外教育施設派遣(オランダ・ロッテルダム)を経て現職。
UDの視点から主に授業づくり(国語を中心に)・学級と学年経営について研究・発表・講演をしています。
クラスに起こる「あるある」を活かす「普段着のUD」を一緒に考えていきましょう。
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