前回は、よりよい人間関係を作るために表現することを続けようとするモチベーションを保ち、成功体験の積み重ねによって「信頼」や「友情」という核を子どもの心に育てていくことが大切だという話をしました。今回は、「どうしてこんな面倒な場面に遭遇するのだろう?」とか、「相手との関係修復が難しくて困ったな」などと思ったとしても、その出会いは双方に意味があるのだということを考えてみたいと思います。
ソーシャルスキルを学ぶ上で最も大切な考え方を、「自分にもいい、相手にもいい」とか、「Win-winの関係を築く」などと表現します。専門家によると、「多様性の尊重と受容」というそうです。相手を受け入れ尊重することは、「言うは易く行うは難し」だと思います。しかし、相手を尊重するとはどういうことか、受容するためには何を知っていればいいのかといったことを学んでおけば、人は寛容になれるのではないでしょうか。
まず、漫画を見てください。これは、実際にあった話を元に描いてもらいました。ある医師が、とても落ち込んでいたそうです。仕事のことで壁にぶつかっていたのかもしれません。そんなときに遠くまで出かける必要があり、電車に乗り込んだのだそうです。間もなく、「子どもがドアに指を挟んで大泣きしているので、お医者様はいませんか」という放送が入ったそうです。彼は適切な処置をしたので、とても喜ばれました。こんな例は、他にもたくさんあるでしょう。しかし、お伝えしたいことは、その先にあります。その医師がこの経験を機に、「自分が必要としているときに出会いがあるのではないか」と考えたということなのです。
このような、お互いに意味のある出会いや出来事は頻繁に起こっているのかもしれません。私自身も一度教師を辞めましたが、きっかけがあって学校という職場に戻りました。そのとき、保護者から感謝の言葉をもらったのですが、感謝するのは私の方だと思ったのを覚えています。子どもたちとの生活を再開できたことは、何よりも嬉しい出来事だったからです。
逆に、ネガティブな気持ちになるような出会いであっても、意味のあることはたくさんあります。出会いが学びに繋がっているのです。教師を続けていてよく耳にするのは、親子関係の悩みです。親子の性格や特徴が極端に違う場合、親御さんが悩むことが多いようです。几帳面な親と片付けられない子ども、慎重派の親と楽天的な子ども、その違いにイライラする気持ちはわかります。でも、一度立ち止まって、子どもと出会った意味を考えてみてください。「そんなに几帳面でなくてもいいんだよ」とか、「たまには楽天的に考える必要もあるよ」というメッセージなのかもしれません。
荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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