
前回、私たちは仕草や言葉などを用いて、自分の思いや考えを表現しているという話をしました。そして、自分が社会の中で周囲の人たちとより良く関わって生きていこうとするならば、Win-winの関係を作ることが大事であること、そのような関係のあり方をアサーションと呼ぶことをお伝えしました。今回は、具体的な表現の仕方を、「作戦ゴリラ」を使って説明してみたいと思います。
「作戦ゴリラ」は、東京都立矢口特別支援学校の川上康則先生が考案された、謝罪表現の手順を表した合言葉です。ゴリラのゴは「ごめんね」、リは「理由」、ラは「ラッキーな提案」を表しています。私は「作戦ゴリラ」を、自分が関わってきた子どもたちにも、謝罪のスキルのひとつとして指導してきました。しかし、何度となく指導を重ねているうちに、この合言葉は謝罪の場面以外にも活用できることや、この表現方法がアサーティブな表現の根幹を成していることがわかってきました。
まず、 「ごめんね」というのは謝罪という狭い意味だけではなく、「クッション言葉」としての役割を担っていることにも気づかれると思います。「クッション言葉」とは、相手と自分の間にクッションを置くような、ふんわりとした雰囲気を作り出す役割を果たすものをいいます。普段は何気なく話していても、相手に依頼するときや断るとき、異論を唱えるようなときには、「クッション言葉」が効果を発揮します。「ごめんね」を「今、ちょっといいですか」とか、「この前は嫌な思いをさせてしまったね」のように言い換えることも可能ではないでしょうか。
先日、私はある方から、「自分の受け取り方が違っているのかもしれないけど」という前置きの後で、アドバイスをされたことがありました。いきなり意見を言われるよりも、私の気持ちに配慮してくれているんだなとか、批判ではなくて心からのアドバイスなんだなという印象を受けました。唐突に異論を唱えられたら、反発する気持ちが優位に立っていたかもしれません。クッション言葉としての表現のバリエーションがあるのは、意味のあることだなと実感しました。
次に「理由」についてです。私は相手に改まって考えや思いを伝えるときのコツは、「説明」だと考えています。「言い訳」ではなく、「説明」です。「でもー」とか「だって」とかといった言い訳ではなく、「こんな気持ちだった」という説明が大事なのです。受け止める方も、相手の説明にはしっかりと耳を傾けてほしいと思います。
最後に、「ラッキーな提案」です。これは、両者にとってラッキーであることが大切だと思います。「自分にもいい、相手にもいい」という言葉を思い出して、解決策を考えてみてください。
このように、「作戦ゴリラ」を、「クッション言葉」「気持ちや状況の説明」「互いにとってラッキーな提案」と捉え直すと、多くの場面で使っていけることに気づかれると思います。
では、実際の場面を想定した、漫画を読み直してみてください。まず、男性が上司に断る場面です。「すみません」、「今日は娘の誕生日なので、早く帰ってやりたいんです」、「30分ほどやって、残りは、明日早く出勤して終わらせます」。普段は無意識に使っている表現ですが、理に叶っていると思います。上司のセリフや電話でのやりとりにも、「作戦ゴリラ」が活用されています。
前回の漫画と比べると、関係が良好に保たれる可能性が、グンと広がっているのがおわかりになると思います。前回の漫画も、ぜひ読み直してみてください。
アサーティブな表現を難しいものと捉えずに、まずは「作戦ゴリラ」を活用してみてはいかがでしょうか。誰かに思いを伝えようと思ったときに、一度立ち止まって自分の気持ちを整理し、相手の気持ちも想像してみる。どうやったら相手を尊重しつつ、自分の考えを伝えられるのかを考えてみる。繰り返しやってみることで、Win-winな表現が身についてくると思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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