2020.12.18
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気持ちの変容の読み取りは・・・?(第5回)

今回は、気持ちの変容を読み取る際に有効だと感じた手立てを紹介します。

明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治

今回は、気持ちの変容の捉え方を「サーカスのライオン」の実践をもとに考えていきたいと思います。前回は、2場面から3場面にかけての少々広い範囲の中から気持ちの変容を読み取る必要があります。ただ、漠然と「この2つの場面から探して、そこだと思う部分に線を引っ張って」というような課題を出してもクラスの1~2割程度の学力優秀な子どもしかできないことは何となく想像できるのではないでしょうか?

では、どう気持ちの変容を捉えさせるのか?それは、筑波大学附属小学校の桂聖先生が提唱している「Which型課題」が有効であると考えました。

1.教材研究での分析

まずは、教材研究です。この教材研究で、上記の「そこだと思う部分に線を引っ張って」という発問を仮にしたら、子ども達は、どこを引くのかを考えます。今回だと、「ぐぐっとむねのあたりがあつくなった」「来てやっておくれ。きっとよろこぶだろうよ。」「じんざの体に力がこもった。目がぴかっと光った」「火の輪を五つにしてくぐりぬけてやろう。」の4つを選択肢の候補として挙げました。子ども達は、物語の基本のフレームを知っているので、最初はマイナスだったからどこかでプラスになっていくだろうという意識で読みます。すると、ある程度プラスの言葉が目に留まります。従って、今回は、プラスになる言葉の部分を選び、子ども達に提示しました。ただ、ここもただ単にプラスの言葉を選び選択肢を作るのではなく、2つのことを意識します。

まず一つ目は、理由が書きやすい部分であるかどうかです。選択肢を作った際は、ただ選ばせるだけでなく、理由を書かせることが肝心です。従って、選択肢を決めた後には、必ず「自分でここを選ぶとしたらどんな理由が考えられるか」を一度、書いてみることが必要です。案外、大人でも書きにくい部分を選んでいる場合があります。二つ目は、教師側が、その選択肢を何のために選んだのかの意図をもつことです。ここでは、全部子ども達が意見を出し尽くした後に、「だんだんとプラスの気持ちが強くなっている」ということに気が付いてほしかったので、プラスレベルがだんだんとあがっている部分をピックアップしました。

以上、ここまでの手順をまとめると、

(1)教材研究で子ども達が考えそうな部分を選択肢としてピックアップ
(2)選んだ選択肢から選んだ理由を考え、子どもが書きやすいかどうかを考える
(3)選んだ選択肢の意図は何かを考える(その選択肢から意見を求めて子ども達に何に気付かせたいのか)

です。

2.選択肢から選ばせる際は、「理由」を明確に

選択肢を設けることで、折角、自己決定し、意見に対立が生じたにもかかわらず、正解か不正解かに意識を向けさせるだけでは、思考の深まりは得られません。そこで、選択肢を選ばせると同時に、当然「なぜ、その選択肢を選んだのか」を書かせる必要があります。確かに、選択肢を設けることで、クラスの中で学習が苦手な子どもでも0から思考する必要がなくなったので、課題に対して取り組みやすくなります。そういう意味では、クラス全員が参加しやすくなります。

ただ、そこで終わっていては、学力の高い子どもにとっては、物足りなくなります。だからこそ、考えを書くところまでをワンセットにします。考えを書かせると、同じ選択肢を選んだにもかかわらず、理由となる部分が違っていたということは多くあります。それがあって、初めて、子どもの中でも、「同じ意見なのにそういう意見もあるのか」という新たな視点が得られます。

例えば、気持ちの変容を捉えさせる時間ではないのですが、同じ教材で「じんざは幸せだったのかどうか」という学習課題で授業をしました。同じように「幸せだった」と選んだ子どもの中にも、「大好きな男の子が助かったから」という理由を書く子もいれば「男の子の役に立てたから」という理由を書く子もいました。また、反対の立場の「幸せではなかった」という選択肢を選んだ子どもの中には、「なくなってしまってサーカスができないから」や「男の子が助かったのはいいけれど、自分が死んでしまったらもう大好きな男の子に会えないから」というような意見が出ました。

ちなみに、この時は、このクラスで初めて授業時間45分のうち30分以上、子ども達の全体交流で終わり、私は、意見の交通整理をするだけでした。今年のクラスの子達が、特に活発に意見をいうわけではありません。それでも、私抜きで30分近く意見交流をできるのは、選択肢を「自分で」選び取って、なぜなのかを考えられたからだと思います。そこに自分なりのこだわりが生まれ、譲れないという気持ちが生まれたのです。

以上、ここまで気持ちの変容の読み取り方を説明してきましたが、気持ちの変容を読み取るときだけでなく、気持ちを考えさせる際にも、この選択させる手立ては、クラス全員を巻き込み、参加させるのに非常に有効であると感じています。是非、お試しください。

川上 健治(かわかみ けんじ)

明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。

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