「深い学び」は初発の感想にヒントあり!(第3回)
今回は、前回に引き続き物語文の教材から授業づくりについてより具体的に考えていこうと思います。まずは、「初発の感想」についてです。
明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治
「サーカスのライオン」
今回は、「サーカスのライオン」の実践をより具体的にみていきたいと思います。
教材研究で単元計画をたてるときに、どの先生方も最初は子どもたちに初発の感想を書かせると思います。今回の「サーカスのライオン」の単元も例に漏れることなく、子どもたちに初発の感想を書かせました。それをどう生かしていくかの私なりの考えを紹介したいと思います。
1.初発の感想は何のために・・・?
皆さんは、「初発の感想は何のために書かせているの?」と問われたらどう答えるでしょう?「どんな感想をもったかを知りたいから」「昔から書かせているから」「子どもたちがどこに強い関心があるのかを確かめるため」「先輩に言われて何となく……」「指導書にそう書いてあったから」等々、国語に対する価値観や経験年数によっても大きく変わってくることでしょう。そして、「これが正解」というのもないのかもしれません。ただ、教師が子どもたちに活動させるからには、教師側の「意図」というものが必ずなければなりません。「ただ、何となくやらせる」だけでは、一生懸命その活動をした子どもたちに何も還元されないまま終わっていってしまいます。
では、初発の感想を私はなぜ書かせているのか。それは、「魅力的な課題」をつくるためです。ここでいう「課題」というのは、毎時間のいわゆる「めあて」のことです。このめあてが魅力的であればあるほど当然子どもたちは授業を主体的に受けられることでしょう。子どもたちが主体的になればより対話的になります。対話的になれば、より深い学びにいきつきます。つまり、深い学びを達成できるかどうかの土台となるのは「課題作り」だと考えています。課題の作り方には何パターンかあると思いますが、子どもたちにとっての1番の「魅力的な学習課題」は、もちろん子どもたちから発せられた疑問を学習課題にするパターンだと思います。だからこそ、私は子どもたちがどこに疑問をもっているのかを初発の感想で必ずチェックします。
2.初発の感想の書かせ方は・・・?
ただ、漠然と「じゃ、一読もしたし、今日読んでみた感想を書いてみようか」と言っても、子ども達は、抽象的な感想しか書けません。それは、指示が抽象的だからです。それで出た感想から、魅力的な学習課題を探すのは大変です。だから、私は学年の最初の物語教材で初発の感想の観点を3つ与えます。
○「面白かった(ひきこまれた)ところはどこか。」
?「不思議だなと思ったところはどこか。」
!「驚いたところはどこか。」
という3つの観点です(これは桃山学院教育大学教授・二瓶弘行先生を参考にさせていただいています)。一読した後に、この3つの観点を書くことを知っている子どもたちは、その目をもって文章を読むことができます。そして、二瓶先生の言葉を借りるなら「素晴らしい作品は、一読しただけでも強く心に語りかけてくることがある」のです。それは、やはりクライマックス部分ではないでしょうか。だから、特に指示はしなくとも、この3つの観点を示して、感想を書かせれば、自然に子どもたちは、クライマックス部分周辺の内容に対して感想を書いてきます。クライマックス部分周辺に感想をもつとなると、教えたい内容とも合致するような疑問に出合える可能性が高くなるのはお分かりいただけると思います。
3.では、本単元では・・・?
本単元の「サーカスのライオン」では、特に「じんざが男の子を助けてなくなる」場面に悲しさを感じたり、「なんで助けに行ったのか?」という疑問を持ったりする子が多くいました。だとすると、この場面を授業のクライマックスにもっていくことで、子どもたちの思考は活性化するのではないかと考えました。これをもとに私が考えた第2次の最後の時間は、「じんざは幸せなライオンだったのか?」という課題です。
結論から書きます。この授業は、この原稿を書いている2日前に終わったところなのですが、約35分間ノンストップで子どもたちは、話し合いをしました。ある子は「じんざは自分の命を捨ててまで好きになれる男の子と出会えて幸せだった」と言えば、ある子は「でも、死んじゃったんだよ?」と言い、それに応戦する形で「男の子のために5つの輪をくぐり抜けてやろうとやる気レベルがマックスになったのに、それを見せられなかったからやっぱり幸せとは言えないよ」と言う子もいました。また、「大好きな家族とも離れてマイナスからスタートをして、男の子と出会えたのは、一瞬良かったけど、すぐになくなっちゃったから幸せじゃなかった」と最初の場面から考える子もいれば、それに対して「今一瞬って言ったけれど、それは教科書の文字の話で実際は毎日やってきたと書いているから一瞬でもない」と教科書の言葉に戻って考え出せる子も出てきました。
私は、途中からチョークを置いて、話し合いの交通整理だけに専念し、子どもたちの意見をただただ聴いているだけでした。最初は、チョコレートをもらって大好きになったから幸せだったと考えている子も、友だちの「自分の命を投げ出すくらい愛をもっていた」という発言を聞くことで、読みが浅かったことにも気がつけました。これが私の言っている「魅力的な学習課題」は子どもたちを「深い学び」に連れていってくれる可能性があるということです。この日の子どもたちの振り返り日記には「私は、今回参加できなかったけれど、次は自分も参加して話し合いだけで授業を終わらせてみたいと思いました」などの意見が見られました。
しかし、無知識でただ話し合いだけしていても「深い学び」とは言えません。今回も、第2次の最後の時間にいきつくまでに「魅力的な学習課題」を毎時間提示しながらやってきました。次回は、そのあたりの話を紹介できたらと考えています。
川上 健治(かわかみ けんじ)
明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。
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