2017.03.21
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

不登校の子どもたちと(NO.11 「キャリア教育への挑戦」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 不登校の子どもたちと過ごした学校では、体験活動が重視されていました。手話や囲碁・将棋など、クラブ活動としていろいろな講座が開かれることもありました。地元の方々に来ていただき、熱心に教えていただいたのです。多くの皆さんの協力があってこその講座だったと、今でも感謝の気持ちでいっぱいになります。洋服店の方が工業用ミシンを持ち込んで、本格的に洋服の作り方を教えてくれたこともあり、私自身もミシンに夢中になってしまいました。不登校を経験していた子どもたちには、本物との触れ合いが必要だったのかもしれません。

 そんな中で、6年生独自でも体験活動ができないかと考え、2学期からは地域の方に支えてもらいながら、活動を取り入れることにしました。ひとつは、パン屋さんでパン作りをやらせていただくこと、もうひとつは保育園で小さな子どもたちと遊ぶことです。これは、週に1回、1〜2時間程度行いました。

 地元のパン屋さんは、学校にもパンを届けてくれており、障害のある若者も数人働いていました。それに、子どもたちもしょっちゅうお邪魔していたこともあり、店主が体験を快く引き受けてくれました。彼らは、パンの生地に飾り付けをしたり、焼きあがったパンを並べたりする仕事に一生懸命に取り組んでいました。一人前になったような気分であったのか、いつも真剣な顔で仕事に向かっていました。

 保育園もパン屋さんの近くにありました。朝から数時間、小さな子どもたちの相手をすることは、とても楽しかったようです。修学旅行のときに、民宿のお宅の赤ちゃんを可愛がった姿と、重なって見えました。

 
 それに加え、時間割を工夫することによって、毎週金曜日の昼食は作って食べることを決めていました。家庭科や総合的な学習の時間として確保しておいたのです。それから、その学校では給食がなかったので、週末に作って食べることで、保護者の負担を軽くしようとする意図もありました。

最初は、料理をすることを通して友達と関わることができればいいくらいの、軽い気持ちで取り組ませていました。何しろ、1学期にパフェを作らせたときには、子どもたちは片づけもそこそこに家庭科室から教室に逃げ帰ってしまったという、教師にとっては苦い経験があったからです。

 それで、学校生活に慣れてきたころからは、子どもたちと相談して何を作るのかを決めるようにしました。作る喜びだけではなく、計画をしたり材料を揃えたりするところから、やらせたいという思いが私にはあったのです。その結果、彼らの思いが形になったのが「闇たこ焼き」です。「闇」とつく食べ物シリーズの始まりでした。タコの代わりに、チョコレートやワサビやらを入れて、食べてもおいしいとは思えないようなものを作りたがりました。材料は、みんなでスーパーに買い出しに行き、予算内で買うことも覚えさせました。

 たこ焼きの次に考えた「闇お好み焼き」のときには、柿の種とかわさびとかを混ぜて作り、副校長先生に食べさせていました。一方、自分たちは食材を工夫して、まともなものを作っていました。そのあたりは、悪知恵が働いていたようです。その頃は、大人が彼らの気持ちを受け止めてくれるのかどうかを、探っていた時期だったのだと思います。あのお好み焼きを、ニコニコ顔で完食してくださった副校長先生には、頭が下がります。

 闇シリーズ以外でも、ホットケーキを作ったり、素麺を茹でて食べたりしました。回数を重ねるごとに、買い物の仕方も工夫できるようになり、料理の腕も上がって、片づけをすることも嫌がらなくなっていきました。

 
 2学期も終わりに近づいたころ、私は彼らにもうひとつの課題を出しました。学校で働く若手のために昼食を作って、それを売るというミッションです。彼らは木曜日になると、早速手分けをして注文を取りに回りました。みんな計画に賛同してくれて、前払いで材料費を提供してくれました。それで、その資金を元手に、商売を始めることができました。

 職員室前の廊下に鍋やお皿を並べ、若手の食欲に応じて盛り付けをしていきました。子どもたちは、懇意にしている若手にだけ、トッピングを気前よくつけてしまうので、周囲が苦笑いする場面もありました。少しずつ儲けを出して、それで次の材料を仕入れて作るという活動は、6年生が終わるまで行うことができました。

 
 ここにご紹介した内容は、とりわけ特別な環境で行われたものです。ですから、全国の学校でこのままを真似ることはできません。しかし、今の学校現場でも、体験的な学習は重視されてきましたし、キャリア教育を視野に入れた取り組みも行われるようになってきています。時間や人材を工夫することによって、子どもたちにとって魅力ある学校となるよう、努力していこうと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

同じテーマの執筆者
  • 松井 恵子

    兵庫県公立小学校勤務

  • 松森 靖行

    大阪府公立小学校教諭

  • 鈴木 邦明

    帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師

  • 川村幸久

    大阪市立堀江小学校 主幹教諭
    (大阪教育大学大学院 教育学研究科 保健体育 修士課程 2年)

  • 髙橋 三郎

    福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop