2017.03.02
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不登校の子どもたちと(NO.10 「修学旅行 珍道中」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 今年度も残すところひと月、時間の流れが一段と早く感じます。体調に気を付けて乗り切っていきたいと思います。

 さて今回は、不登校の子どもたちと宿泊を伴った旅行に出かけたときのレポートです。緊張感の高い子どもたちが全員参加できたのは、周囲の人たちの善意があってのことでした。この場を借りて、改めて感謝申し上げます。

 私が彼らと出会った学校は小中一貫校であったため、6月に入ると中学部の担任たちから、修学旅行の話題が聞こえてきました。それで、6年生も修学旅行に出かけようということになったのです。ただ、普段の学校生活であっても、短時間の関わりの後はリラックスするような遊びを入れているような状況だったので、長い時間をみんなと過ごすことができるのだろうかという不安が私の中にありました。

 別の例ですが、少し前に友人から、「スキー旅行に誘われたけど、断った」という話を聞きました。理由を聞くと、泊まりがけの長い時間を、人と一緒に過ごす勇気がなかったのだといいます。確かに、仕事で人と関わるといってもせいぜい10時間程度。ところが一泊するとなると、30数時間を共にすることになります。それに、同じ部屋に寝泊まりする場合は、とても気を遣います。苦手な人にとっては、宿泊を伴う旅行は難しいのだろうと改めて考えさせられました。

 大人であってもそうなのですから、子どもたちにとって、宿泊旅行は緊張を伴う人生の一大イベントであることはいうまでもありません。本当に全員が参加できるのだろうかと、私はしばらくの間悩んでいました。

 そこで、行きたいと思うのかどうか、行くならどこに行きたいのか、はじめの一歩から子どもたちと相談することにしました。幸い、仲良くしてもらっていた旅行会社の人が、いくつかの案を作ってくれることになりました。

 相談初日から、子どもたちは何の根拠もなく、「行く」と言い出しました。見栄をはっていて、自分だけは行く自信がないと言い出せなかっただけなのかもしれません。何はともあれ、とにかく行くことで盛り上がったようなので、西湖の近くに出かけることに決めました。子どもが7人に大人が4人というメンバーなので、バスを頼むことはできません。電車を乗り継いで民宿近くの駅まで行き、駅までは民宿のバスが迎えに来てくれることになりました。


 出かけたのは、9月の初めです。残暑が収まったころの、秋晴れの時期でした。

 民宿は、総勢11人だけの貸し切りでした。民宿を経営されている方が住まわれている建物とは、別の棟を使わせてもらうことになっていたのです。旅行会社の人が、子どもたちに配慮して、別棟のある民宿を探してくれました。子どもたちは、広い座敷でのんびりと過ごし、ときには大騒ぎもしていました。ですが、大声を出しても誰にも気を遣う必要がなかったので、とてもありがたい心遣いでした。

 さて、初日は民宿に荷物を置いて、青木ヶ原樹海の探検に歩いて出かけました。新学期早々、山歩きをしたときには大暴れをされたので、目的地を決めて出発しました。そして、目的地まで歩くことができたら、ソフトクリームを食べることができるという約束をしたのです。

 しかし、物事はそう簡単ではありませんでした。歩き始めてしばらく行くと、一人の子どもが泣き出しました。しかも大声を張り上げて泣くのです。他の子どもたちは、それでなくても人づきあいが苦手なので、泣いている友達に関わる余裕はありません。知らん顔をして、どんどん歩いて行ってしまいます。仕方なく、私が慰めながら一緒に歩きました。樹海の中で泣かれても、タクシーを呼ぶ訳にもいかないので、ともかく目的地まで歩かせるしか方法がなかったのです。

 
 宿にはバスで戻り、しばらく休んだあとで、明るいうちに子どもたちと肝試しコースの点検をしました。町の中を一周するだけの簡単なコースです。そして、夜になってから、肝試しをしました。最初のうちは平気な顔をしていたようですが、何しろ街灯も少ないところなので、途中からは暗闇の恐怖を味わったようです。宿に戻ってからは、花火をしました。

 就寝前、トランプをするなどしてのんびりと過ごしているときに、民宿の方が赤ちゃんを連れて遊びに来てくれました。そのときの様子は、とても衝撃的でした。子どもたちは赤ちゃんが大好きだったのです。いつもは思春期の反抗期真っ最中のような険しい顔つきをすることも多いのに、そのときばかりはニコニコ顔で赤ちゃんと遊んだのです。小さい子どもに関わるというのは、この年齢にとって大切なのだなと思いました。

 当時、小学部には1〜3年生の子どもがおらず、4〜5年生も数人でした。6年生の彼らは、どちらかといえば大勢の中学生から、「小学生」というひとくくりの扱いをされていたのです。低学年の子どもたちとの関わりがあったなら、もっと違った環境が作れたのではないかなと思いました。

 
 無事に夜を過ごし、翌日は染め物体験をしました。白いハンカチを輪ゴムで絞って、絞り染めをやらせてもらったのです。その後、公園にあった固定遊具で遊びました。球の形をしたジャングルジムのようなものを、回して遊ぶタイプのものです。その遊びにはまってしまい、とにかくみんなで乗ってまわしては、キャーキャーと騒いでいました。そして、案の定、気分を悪くしていました。

 お昼になって、民宿の方がほうとう作りを教えてくれました。私は小麦粉をこねて作る本場のやり方を教えてもらえることが嬉しくて、夢中でやりました。しかし、子どもたちは目が回ったままで、座敷にゴロゴロしていました。夕顔の入った美味しいほうとうを、ほとんど食べられなかったのはいうまでもありません。そのせいで、帰りの電車の中では、お腹が空いたと文句が始まりました。途中の駅で電車を乗り継ぐときに、立ち食い蕎麦を食べさせてほしいとグズグズ言っていたのを、今でも思い出します。

 
 珍道中でしたが、子どもたちにとってはとても楽しい旅行だったのだと思います。二十歳になった彼らと再会したとき、またあの民宿に行こうという話になりました。でも、まだ約束を果たせていません。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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