若い先生たちに伝えたいこと「いじめを防ぐために」(NO.5)
いじめが原因で不登校になったり、命にかかわるような事件が起きたりすることに、心を痛めています。
いじめを防ぐためには、教師が子どもをしっかりと観察すること、教師が子どもへの関わり方の手本となることが、とても大切なのではないでしょうか。
特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子
【子どもの変化を見逃さない】
「いじめは絶対に許さない」「許されることではない」という、強いメッセージを子どもたちに伝えていってほしいと思います。いじめは、自分がいじめたかどうかという問題ではなく、相手が嫌な気持ちになったかどうかが基準になります。その関係性についても、子どもたちが理解できるように伝えていきましょう。
いじめに関する苦い思い出をお話しします。
だいぶ前に高学年を担任していたときに、子どもたちが「○○くんがいじめられている」という話をしてきました。それで、その○○くんが欠席した際、私はクラス全員に対し、いじめについて話をしました。○○くんの名前を出すことはなかったのですが、一部の子どもたちは神妙な顔つきをしていました。この話を通して、いじめの芽は小さいうちに摘むことができたのではないかと感じました。しかし、それで話は終わらなかったのです。
その数日後に行われた保護者会で、○○くんのお母さんが、「先生はうちの息子がいじめられていると誤解している」と発言したのです。いじめを防ごうと四苦八苦しているのに、苦情を言われるなんてと泣きたい気持ちになりました。
ありがたいことに周囲にいた保護者が、「うちの子どもも心配しているわよ」と伝えてくれたので、大きな問題にならずに収まりました。些細な喧嘩が起きたときでさえ、「うちの子はいじめられているのではないか」と質問される保護者が多い一方で、こういうこともあるのだと勉強になりました。
この例は学校という、誰もが見たり感じたりできる場で起きていたものですが、SNSを介したいじめは闇に包まれがちです。子どもの生活の全てを把握する必要はないし、把握できるわけではないのですが、ちょっとした表情の変化や意欲、食欲、睡眠などの様子に目を配ってほしいと思います。そして、こういった変化をいち早くキャッチするために、保護者とは密な連携を取れるよう、日頃から信頼関係を築いていってほしいのです。
【子どもの手本となるような関わり方をする】
「子どもは大人の背中を見て育つ」「子どもは親のコピーである」などと言われることがあります。そんなことを言われると、自分の振る舞いにどきっとすることがあるのではないでしょうか。
もちろん大人だって完璧ではありません。ただ、教師や親、そして子どもを取り巻く大人の振る舞いを、子どもは手本としています。そして、子どもの手本となるべきシチュエーションは、数えきれないくらいあるのです。
その中でも、発達障害のある子どもたちへの関わり方が悪かったために、いじめに発展した例をご紹介します。
何年も前に、ある先生のクラスでいじめが起きました。Aさんに対して、周囲の子どもたちが馬鹿にしたような言動を取るという話でした。それで、保護者会も開かれました。とても理解のある保護者たちだったので、帰宅したら自分の子どもに厳しく話をすると言ってくださった方が多かったのを記憶しています。
しかし、私の心には何とも言い難い思いが残っていました。それは、担任がAさんに対して、注意することが多いのを知っていたからです。「早く作文を書きなさい。いつまでやっているんですか?」「何度言っても、あなたはできないんですね」などといった、厳しい表現を聞いたこともありました。
Aさんは、文章を書くことが苦手なタイプの子どもでした。定型的な文章を示してやるとか、書きたくなるような材料を提示してやるといった支援が必要だったと思います。それなのに一方的に叱る姿を見て、私はとても悲しくなったのです。
この話をご紹介したのは、この担任を批判するためではありません。もちろん熱心に指導していたし、いじめがわかると知ると保護者会まで開いたのですから。ただ、担任の関わり方が、子どもに影響を与えていたことは否定できないと思うのです。Aさんに対し支援をしたり、優しい言葉をかけたりしていたら、周りの子どもたちもそれに倣ったでしょう。
荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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