2016.11.14
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不登校の子どもたちと(NO.4 「授業の始まり その2」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 前回は、「気づいたらみんなで活動をしていた」という流れで授業をしようとスライム作りやパフェ作りをやってみたものの、手触りや匂いが苦手な子どもたちが途中で逃げ出してしまったという苦い経験をお伝えしました。

 実のところ、気持ちが萎えるような経験を、私たち教師とスタッフは毎日のように味わっていました。ある中学校の授業では、出席をとったときにはほとんどの生徒がいたのに、授業を始めようとして教師が黒板に向かった途端に逃げ出されたという話も聞きました。

 私が受け持ったクラスの子どもたちが逃げ出した回数がどれくらいであったのかを、はっきりと覚えているわけではありません。しかし、嫌なことがあれば逃げるという習慣を立て直すことは、とてつもなく困難なことではないのかと、長い時間悩んでいたのは確かです。

 不登校になった理由は一人一人異なっていましたが、一部の保護者は学校や教師の対応が悪いと思っていたと推察されます。そして、保護者の相談に乗っていた人たちの中にも、教師が原因であると思われるケースが少なからずありました。ですから、子どもたちの胸中には、「自分たちが嫌な気持ちになるのは、教師が悪い」という思い込みがあったのだと思います。その結果、逃げ出すことは当然のことだと思わせてしまっていたのでしょう。

 そのような中で、教師は大きなストレスを抱え、自分の生活を揺るがすようなこともありました。休日になるとぼーっとしてしまって、何もやる気にならないといった悩みを口にする同僚もいました。私自身も例外ではなく、身体が締め付けられるような苦しみを感じたり、本を読むことさえできなくなったりしていました。

 それでも、授業をやめるわけにもいかず、進めようという努力が黙々となされていました。今回は、そのようなときに中学校の教師が受け持ってくれた授業についてご報告しようと思います。国語や算数と似たり寄ったりだと想像される方がいらっしゃるかもしれませんが、実は中学校の教師が教えてくれた内容はとても興味深かったのです。

 
 まず理科です。私が最も印象に残っているのは、燃焼実験でした。スプーンの上に砂糖を乗せて、それをガスバーナーであぶるとどうなるかという授業でした。小学校の教師は、子どもたちとカラメル焼きやべっこう飴を作ることが多いので、最初はそんな遊びをやってくれるものと思っていました。しかし、スプーンの上の砂糖は真っ黒こげになりました。砂糖を燃やすと炭になるのだということを、改めて知ることになりました。中学校の理科ってすごいなと、びっくりしました。ただし、この時も焦げた匂いが嫌だと、子どもたちは理科室を逃げ出してしまいました。

 もうひとつ覚えているのが、糸電話で遊んだときのことです。これも小学校の教師なら、糸は凧糸を使うことが多く、せいぜい2〜3mの長さで実験させます。しかし、そのときの実験では、糸の種類も多様でした。荷物を縛るポリエチレン性の紐や、針金なども使わせました。糸の長さもとても長く、子どもたちは4階にある理科室から校庭まで糸を垂らして、話すことができるかどうかも実験していました。大胆なことをさせるものだと驚く一方で、私の方がとても勉強になりました。

 次に音楽です。これも中学校の音楽の先生が授業を行いました。歌うことをやろうとしない子どもたちと、どうやって授業をするのだろうと思っていましたが、最初はとても面白い経験をさせてもらうことができました。数人のグループに1台の録音器を持たせて、学校の中の音を採取させたのです。面白い音を探してくるように言われた子どもたちは、意気揚々と活動していました。友達の集めてきた音を聞いて、みんなで笑うことができました。その後、身近にあるもので音作りをし、それも録音して発表し合いました。

 それから体育や図工も他の教師に授業をしてもらいました。皆工夫を凝らし、友達とかかわる活動を取り入れてくれていました。最初のうちは、逃げ出せば楽になれると考えていた子どもたちも、次第に友達と一緒に活動することが楽しいと思うようになってきたと感じました。

 体育では、相変わらず氷鬼やドロケイをやっていました。それに加えて、平均台の上で二人が押し合いをして一方を台の上から落とす活動も、子どもたちに人気がありました。広い部屋ではよく卓球をしていましたし、体育館が使えるときには、バドミントンをしていました。最初のうちは、体力がないように感じた子どもたちでしたが、毎日走り回るような活動をしているうちに、身体を活発に動かせるようになってきました。すると、私の技術では卓球でもバドミントンでもかなわなくなってきました。

 
 この時期のことだけではなく、教師人生を振り返ってみると、子どもたちが運動をよくやるように仕向けるのは、とても大切なことだと思います。それは、運動能力や体力の向上のためという理由にとどまりません。身体が動くようになれば、人と関わろうとするエネルギーも生まれてきます。勉強しようかなという気持ちにもなるのです。

 授業が成り立たないのを、強制や管理の力で抑え込むのではなく、鬼ごっこやバドミントンなどの運動を通して身体作りからアプローチできたことは、結果としてとてもよかったのだと思っています。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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