2021.04.23
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河合隼雄のこころ

第2回は、河合隼雄(1928-2007)。氏の心に触れてみます。
巨人の肩に乗り、そこから見える前後の景色をみなさんと共にする連載。「温故知新」の2回目です。
先人の言葉を引用しながら、現代の教育課題のヒントを探っていきましょう。

高知大学教育学部附属小学校 森 寛暁

不登校の「処方箋」

現代の教育課題の一つに、「不登校児童生徒の増加」があります。文部科学省、令和2年12月4日第128回初中分科会資料1「令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」によれば、令和元年度の小・中学校における不登校児童生徒数は181,272人。前年度から、16,744人増加しています。1,000人当たりの不登校児童生徒数は、平成10年度以降、最多となっています。

そこで、河合氏の『子どもと学校』(岩波新書)を覗いてみましょう。
目次3「教える側、教わる側」(不登校の「処方箋」)とあります。
どんな処方箋なのだろう、と興味津々で読み進めていくと、こう書かれていました。

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画一的な方法がない
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氏は、不登校の多様な種類、いろいろな原因を述べた上で、この言葉を書いています。何度も繰り返して登場します。それだけ強調したいのです。

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繰り返しになるようだが、不登校にはいろいろな種類があるのでそれに対処する画一的な方法がない、ということは非常に大切である。叱りつけたから登校したとか、そっとして放っておいたら登校したとか、という場合があるのは事実ではあるが、それを誰にでも適用しようとするのは間違っている
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「登校刺激を与えるべきか、否か」などと一般論をしてもはじまらない
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ドキッとする言葉です。職員会で、児童理解や不登校対応の話題はどの学校でもあがると思います。そこで必ず上がる話題の一つが、「登校刺激の可否」ではないでしょうか。

氏は、それは無意味だとはっきりと言っています。耳が痛いですね。では、どうすればよいのか。不登校の「処方箋」とは一体何なのか。疑問が湧いてきます。

何が欲しいのか

河合隼雄の不登校の「処方箋」をまとめると以下のような5つになります。

 ① 不登校児童の理解
 ② 心理的要因を訊いても無駄
 ③ それ相応の苦しみがある
 ④ 特効薬はない
 ⑤ 何が欲しいのかを考える

この中で私が、特に関心があったのは、②と⑤です。一般的に、不登校児童に「何が悩みはない」と訊くことがあります。しかし、心因といっても、だんだんと変化するというのです。家に閉じこもっているうちに、昼夜逆転の生活になったり、家庭内での暴力性が高まったりすることが多くあると言っています。しかも、それらのほとんどの場合、精神病ではないというのです。

そして、⑤。結局、不登校児童が何を欲しいのか。欲しがっているものを考えることが必要と言っています。

ここで注意したいことは、2つあります。ここからは筆者の考えです。

 ① 不登校児童の真のニーズを探ること
 ② 児童自身が明確に意識していないことがあること

「新しいゲームや洋服が欲しい」と児童が物欲を表出するケースは、とてもよく耳にします。しかし、多くの場合、本当は「親の愛情」を確かめることが多いです。
つまり、児童は「物」よりも「愛情」が欲しいのです。我々教師や親は、子どもの欲求や要望を全て鵜呑みにするのではなく、もう一歩奥にある真のニーズを探る必要があります。そして、前提として、真のニーズを子ども自身が明確に意識していないことがあることです。

お金ではなく、心を使おう

しかしながら、真のニーズを探ることは簡単ではありません。特に高学年や中学生になると、より難しくなります。

そこで大切にしたいことは、目の前の子どもから逃げないことだと氏は言っています。教師や親が子どもと対峙することから逃げてしまってはならない。もし、親がお金を使って物を買ってしまい、心を使うことを逃れようとする態度がある限り、子どもはその物をもらっても嬉しくない。そう言っています。このことは、我々教師にも当てはまることだと思います。

心を使うという意識。肝に銘じたいです。

河合隼雄の心には、徹底的に子どもの立場から考える、深いやさしさが、海のように広がっていました。

次回は、本校算数研究室に眠る、とっておきの古書を紹介したいと思います。

森 寛暁(もり ひろあき)

高知大学教育学部附属小学校
まっすぐ、やわらかく。教室に・授業に子どもの笑顔を取り戻そう。
著書『3つの"感"でつくる算数授業』(東洋館出版社

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