2025.12.01
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なぜ算数を学ぶのか?「立場を変えて考えるため」協働的な学びが育てる思考力(12)

算数を研究して18年間。さまざまなテーマで研究をしてきましたが、学校教育で算数を学ぶ意義は何なのかは、私なりの大きなテーマでした。これまでの研究を通しての私の見解を10個に整理し、ここに実際の算数指導とともに紹介させていただきました。
第10回の今回が最終回になります。テーマは「立場を変えて考えるため」です。

東京都品川区立学校 平野 正隆

立場を変えて考える算数

算数の学習を通して「立場を変えて考える力」を育むことができると考える理由は、2つあります。

①他者の意見に「なるほど」と気づく

算数は「正解が一つに定まる」ことが多い一方で、その解き方や表現の仕方は多様です。友達の考えと自分の考えを比べる場面で、「なるほど、そういう考え方もあるのか」と気づくことができでしょう。また、自分だけでは気づかなかった方法を理解する過程で、自然と相手の立場に立つ練習ができます。

②相手に寄り添った説明

算数は習熟度に差が出やすい教科です。だからこそ、協働的に算数の学習を進めることで、何がわからないのかを伝えたり、分からない子の立場に立って説明したりという学び合いが生まれます。

普段の生活でも自らの立場を伝えたり、相手の立場を想像したりするのはとても重要です。自分の価値観が「普通」とは限りません。全ての人にとっての「普通」は存在しないかもしれません。ある価値観が正解かどうかについては、主観的な判断になります。だからこそ、他人の視点を考慮することで、自分の価値観と異なるものを尊重し、他者を理解することができるのです。

つまり、算数を協働的に学習することで、相手の立場(わからない部分、つまずいている部分など)に立って、それを解決するために共に考えることができるようになるのです。

学習場面と指導の工夫

①発表と比較の場面

同じ答えでも、異なる解法があり、その共通点や相違点を見つけながら比較する場面。

【工夫】「どうしてそう考えたの?」「この方法だとどんなよさがある?」と問うことで、立場を移して考える力が育つ。

②非標準的な解法や誤答を扱う場面

子どもが自分なりに工夫した解法や、理解のズレ、誤概念からくる誤答を取り上げる場面。

【工夫】友達の間違いを単に否定するのではなく、「どういう考え方でそうなったのか」を考える。間違いにも筋道や理由があることが分かると、他者理解や多面的思考が深まる。誤答の背景を探ることで、理解のズレや誤概念をみんなで修正できる。

③グループでの問題解決場面

学び合うなかで、お互いの意見を聞きながら最適解を探したり、解決方法が分からない子へ教えたりする場面。

【工夫】自分の方法を押し通すのではなく、相手の意見を聞きながら進めるように促す。「自分ならこうだけど、相手の考えも取り入れるともっと良くなる」という経験を積ませる。

実践「あまりのあるわり算」(第3学年)

●題材:「56÷6」

【子どもの考え】

・Aさん:答え 9 あまり2(正解)
・Bさん:答え 8 あまり8(誤答)
・Cさん:答え 10 あまり4(誤答)

【やりとりの流れ】

①板書に3人の答えを並べる

教師:今日はAさん、Bさん、Cさんの答えをみんなで考えてみましょう。どの考えも、一生懸命に計算した結果です。

 A 56÷6=9あまり2
 B 56÷6=8あまり8
 C 56÷6=10あまり4

(この段階で「答えが違う」「たしかめ算をすれば、どれが正解か分かる」という話になる。)

②誤答に光を当てる

教師:Bさんはどうして「8あまり8」にしたの?

B:6×8=48だから、残りは56−48=8。たしかめ算をすると6×8+8=56で、ちゃんと合っていると思った。

教師:なるほど。Bさんは、たしかめ算を使って考えたんだね。

→班での話し合い(学び合い)の時間をつくる

(子どもたちの間で「たしかに合っている!」という声が出る。)

③非標準的な解法を扱う

教師:Cさんはどうして「10あまり4」にしたの?

C:6×10=60で56を少し超えるけど、60−56で4余ると思った。

教師:おお、逆の考え方だね。ぴったり割れないときに、先に大きい方を考えたんだね。

→班での話し合い(学び合い)の時間をつくる

(子どもたちの間で「"あまり"じゃなくて"たりない"を使えば合ってる」「10たりない4だ」という声が出る。みんながこれに納得する)

④立場を変えて考える問いかけ

教師:じゃあ、Aさん・Bさん・Cさん、それぞれの考え方を友達に説明するとしたら、どう説明する?

(児童が自分以外の立場で説明しようとする。)

教師:もしBさんの考え方を自分がやるなら、どう言えばよいかな?

(「たしかめ算が合っているけど、“あまり”は6より小さくないといけない」という発言が出る。)

教師:では、Cさんのは?

(「たりない」を使えば、ある意味合ってるけど、「あまりのあるわり算」とい単元の学習だから、「あまり」にした方がいいかなという発言が出る。)

⑤ルールに到達

教師:そうだね。“あまり”は必ずわる数より小さくなる、というきまりがあります。そして、「あまりのあるわり算」という学習だから、「あまり」を使おう。

→板書にまとめる。「“あまり”はわる数より小さい」「"たりない"ではなく"あまり"を使う」

まとめ

誤答を「間違い」ではなく「考え方の一つ」として扱い、正解と誤答を比べながら、それぞれの立場に立って説明させ、気づきを言語化することで、誤答を通じて新たな学びを生むことができます。

あえて誤答を取り上げることは、「なるほど、そう考えたのか」と友達の立場の追体験となり、「自分が説明するとしたら」と置き換える活動が、立場を変えて考える力の育成につながります。

平野 正隆(ひらの まさたか)

東京都品川区立学校


研究会での実践報告や校内での若手教員育成などの経験を通して、自分の経験や実践が広く皆様のお役に立てるのではないかと考えております。大人・子どもに関わらず、「明日から頑張れそうです」「明日が来るのが楽しみです」と言ってもらえるのが私の喜びです。

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