2025.07.08
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なぜ算数を学ぶのか?「物事を効率的にすすめるため」(5)

算数を研究して18年間。
様々なテーマを研究してきましたが、「学校教育で算数を学ぶ意義は何なのか」は、私なりの大きなテーマでした。
これまでの研究を通して得られた私の見解を10個に整理し、実際の算数指導とともに紹介します。
第5回は「物事を効率的にすすめるため」です。

東京都品川区立学校 平野 正隆

はじめに

教師は「なぜ算数を学ぶのか」という学習の意義を理解したうえで、授業を組み立てていく必要があります。そうすることで、「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」も重視した授業改善をすることができます。
また、児童自身も学習する意義を実感しながら、学び進める必要があります。しかし、現実には点数や偏差値、順位といった他者との比較ばかりを気にして、本来身に付けるべき方向性を見失っている子どもも少なくありません。
果たして算数は、難しい問題を解いたり、テストの点数を取れたりすれば、それでよいのでしょうか。もちろん、様々な問題を解く力は重要です。しかし、生きてはたらく力を育むためには、その過程で身に付く力があることも忘れてはいけません。

物事を効率的にすすめるための算数

算数の学習には、「どうすればより少ない手間で正確に解けるか」を考える側面があります。
速く、簡単に、そして正確に解くための効率化について、次の3つに分類してみました。

①統合する効率化

掛け算の九九は、繰り返し加算するよりも、九九を使えば一瞬で計算でき、効率的です。また、大きな数の計算でも、筆算を用いることで、同じように速く正確に計算することができます。三角形の面積の求め方も、「底辺×高さ÷2」という公式に統合され、すべての三角形の面積を求めることができます。

②分類・整理する効率化

問題の場面を図や表、式などで整理して表すと、考えが整理されてわかりやすくなり、効率よく考えることができるようになります。こうした表現によって、問題の仕組みや数量のつながりが視覚的に見えるようになり、理解が深まったり、関係を確かめたりしやすくなります。

③工夫する効率化

算数では、ときに問題解決のために異なるアプローチを模索することがあります。一つの問題に対して、複数の方法で解決策を見つけられるようになるのです。そして、その中から、より速く、簡単で、正確に解ける方法がどれかを考えていきます。

効率的に物事を進めようとする考え方や態度は、算数科だからこそ育てられる力なのではないでしょうか。

指導の工夫

算数の学習を通して、物事を効率的にすすめようとする態度を養うためには、教師が「教える」のではなく、子どもたち自身が「気付く」ことが大切です。 
「①統合する効率化」では、今までに学習したことを生かせないか、これからも同じように考えられないか、といった視点を子どもたちが持てるようにします。
「②分類・整理する効率化」では、多くの情報から、きまりはないか、必要な情報を一目でわかるようにするにはどうしたらよいか、関連性はどこにあるか、といった考え方ができるようにします。 
「③工夫する効率化」では、より簡潔に問題を解く方法はないか、という見方ができるようにします。 
教師は、子どもたちが問題を解けることを最終的な目標にするのではなく、こうした数学的な見方や考え方ができるように、子どもたちの気付きをサポートをすることが大切です。
習熟度によってサポートの仕方は変わりますが、私の場合は自力解決とグループでの話し合いの時間をあえて分けず、子どもたちに委ねるようにして「気付き」から生まれる学びを大切にします。

実践「たし算とひき算」(第3学年)

足し算

教師:298+120の計算の仕方を考えよう。
児童:先生、筆算してもいいですか。

教師:筆算をすれば、みんなできそうですね。でも、今日は筆算をしないで答えを出してみましょう。 
児童:えぇ〜!!?

【めあて】くふうして計算する方法を考えよう。

教師:できそうな人はいませんか。 
(しばらく間)

教師:難しいようなので班で協力して考えてもいいです。 
(班での学び合い)

教師:では、工夫して計算する方法を紹介してください。 

児童A:298を300として考えました。300+120‎ = 420です。最後に、最初に増やしてしまった2を引いて、418となりました。 
児童:私もAさんと似ていて、298を300として考えました。そのあとは少し違って、増やした分の2を120から引いて、118にしました。最後に、300+118をして418になりました。 

教師:筆算をしなくても、工夫すれば簡単に和を求められましたね。
児童:筆算をしなくてもいいから、楽に解ける。

引き算

 

筆算を使わずに計算する

教師:引き算ではどうでしょう。500-198を考えてみてください。 
児童:分かった!198を200として考えればいいんだ。
 (自力解決・班での学び合い) 

児童:あれ?答えが302の人と298の人がいます。

教師:どっちが正しいか、そんなときは筆算をして調べて見るといいかもね。
児童:302が正解だ。 
児童:じゃあ298になってしまうのはなぜなのかな?
児童:198を200に見て、500から2を引くと498-200‎ = 298になってしまうよ。
児童:500から2を引くのではなく、2を足さないと差が変わってしまう。

教師:工夫して計算する方法を紹介してください。 
児童B:198を200として考えました。500-200‎ = 300です。最後に、多めに引いてしまった2を足して、302です。
児童:私もBさんと似ていて、198を200として考えました。引く数を2増やした分、引かれる数の500も2増やします。502-200‎ = 302です。

まとめ

こうした「数学的な見方・考え方」は、社会に出てからも効率よく働く力・問題をスマートに解決する力として活かされていきます。
必要なのは「答えの出し方」だけでなく、「どうやって出したか」を考える力なのです。

平野 正隆(ひらの まさたか)

東京都品川区立学校


研究会での実践報告や校内での若手教員育成などの経験を通して、自分の経験や実践が広く皆様のお役に立てるのではないかと考えております。大人・子どもに関わらず、「明日から頑張れそうです」「明日が来るのが楽しみです」と言ってもらえるのが私の喜びです。

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