なぜ算数を学ぶのか?「生かそうとする態度を身に付けるため」前編(6)
算数を研究して18年。これまでさまざまなテーマに取り組んできましたが、「学校教育において算数を学ぶ意義とは何か」は、私自身にとって常に大きなテーマでした。これまでの研究を通して得た私なりの見解を10の視点に整理し、実際の算数指導とがら紹介させていただきます。
第6回の今回は、「生かそうとする態度を身に付けるため(前編)」をお伝えします。
東京都品川区立学校 平野 正隆
生かそうとする態度を身に付けることができる算数
以前、算数を学ぶ意義として「日常生活で活用するため」という記事を書かせていただきました。その際、「算数学習→日常生活」という側面で具体例を挙げながらお伝えしました。
今回のテーマ「生かそうとする態度を身に付けるため」では視点を変え、「日常生活・既習事項→算数学習」の側面に着目して、具体的に考えていけたらと思います。
算数の学習には、これまでの生活経験や既習事項が新たな学びにつながる要素が多く含まれています。
たとえば、4年生「概数」の学習では、日常生活で見聞きしたり使ったりしている「およその数」をベースにして、学習を進めていきます。「渡り鳥の数が500羽」と聞いたときに、「本当にちょうど500羽なのか?」という疑問を持つことで、それがおおよその数であることに気付きます。そこから、「約500羽」という概数の捉え方を、「以上」「以下」「未満」などの言葉を使ってまとめていきます。
普段から接している数の中には、すでに概数が含まれていることがあります。そのことを日常生活の経験から想起し、学びに生かしていくのです。
このように、算数は普段の生活やこれまでの学びと密接に関係している教科です。生活経験で得た感覚やこれまでの学びをもとに、算数の時間では学習としてまとめたり、新たな知識を得たりすることができます。
指導の工夫「平均」(第5学年)
今回は、5年生「平均」の学習に関する実践を紹介します。
自分の体力テストや学力テストの結果を全国平均と比べるなど、「平均」という言葉は子どもたちの生活の中でも身近な存在です。だからこそ、「真ん中くらいの数字」「全体の中の普通」といった漠然とした理解はしています。
5年生「平均」では、平均とは、いくつかの数をまとめて、全体のだいたいの様子を1つの数で表す方法であり、「全体を均等にならしたもの」であることを学びます。
遊びを学びに、「平均」の必要感を実感させる
ペットボトルキャップのつかみ取りゲームをチーム対抗で行います。ここに仕掛けとして、チームの人数にばらつきをもたせます。
取れたキャップの合計で勝敗を決めようすると、人数の少ないグループから「ずるい」の声が上がります。そこから、「平均」で比べる必要があるという気づきが生まれます。
ここで重要なのがルール設定です。「チーム戦」であることを強調することで、班の中で「一番多く取った人」「少なかった人」といった個人比較にならないようにします。
また、「片手」「つかんで3秒」といったルールを設けないと大量に取ってしまい、表に並べることができなくなってしまいます。さらに、「1回きり」のルールがないと、人数の少ない班は「誰かが2回やればいい」という話になり、「誰が2回やるか」という別の議論にそれてしまいます。
具体物操作を通して、理解を確かなものへ

取ったキャップは並べておく
取ったキャップは、図のように見える形で並べておくようにします。
そうすることで、全体の数をならして、1人あたりの個数を調べるとよいことに気付くことができます。
そこから、「平均とは、全体を均等にならしたもの」であることを、体験を通して理解することができるのです。
生活で使っていた「平均」の理解の曖昧さを認識する
ルールに従って勝敗を決めようとするとき、「平均で比べればいい」という意見は、子どもたちから早い段階で出てくることがよくあります。しかし、この段階での子どもたちの平均に対する理解は、まだ十分とは言えないでしょう。そこで、平均とはどういう比べ方なのかを問い直し、言語化させることで、子どもたち自身に理解の曖昧さを認識させます。
本授業のゴールは、平均とは「全体をならしたもの」であることを、具体的な活動を通して理解し、自分の言葉で説明できるようになること。そして、平均を求めるには「全体の合計を個数(人数)で割る」という計算方法を理解することです。
続きは後編にて。

平野 正隆(ひらの まさたか)
東京都品川区立学校
研究会での実践報告や校内での若手教員育成などの経験を通して、自分の経験や実践が広く皆様のお役に立てるのではないかと考えております。大人・子どもに関わらず、「明日から頑張れそうです」「明日が来るのが楽しみです」と言ってもらえるのが私の喜びです。
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