なぜ算数を学ぶのか?「日常生活で活用するため」(1)
算数を研究して18年間。様々なテーマで研究をしてきましたが、学校教育で算数を学ぶ意義は何なのかは、私なりの大きなテーマでした。これまでの研究を通しての私の見解を10個に整理し、ここに実際の算数指導とともに紹介させていただきます。
第1回は「日常生活で活用するため」です。
東京都品川区立学校 平野 正隆
はじめに
教師は「なぜ算数を学ぶのか」という学習の意義を理解したうえで授業を組み立てていく必要があります。そうすることで「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」も重視した授業改善をすることができます。
また、児童も学習する意義を実感しながら学び進める必要があります。点数や偏差値、順位といった他者との比較ばかり気にして、本来身に付けるべき方向性を見失っている子が少なくありません。
果たして算数は、難しい問題を解いたり、テストの点数を取れたりすれば、それでいいのでしょうか。もちろん、様々な問題を解く力は重要ですが、生きてはたらく力を育むためには、その過程で身に付く力があることも忘れてはいけません。
日常生活で活用できる算数
科学技術の発達とともに、多くのものが数値で表されるようになりました。地震の揺れの大きさを震度、音の大きさをデシベル、発電量をワットなど、日常生活の様々な場面で数字があふれています。数字は客観的に物事を把握するうえで役立ちます。
例えば、算数で学習したことを使えば、同じ商品で1200円の10%引きの店と、1200円の100円引きの店ではどちらが安いかを判断できます。その数値の意味を的確に把握したり、使いこなしたりする力が日常生活を豊かにするうえで必要です。
また、数字には、加法性(加減計算ができる数)があるものとないものがあります。例えば、重さには加法性があり、40gのものと、60gのものを合わせると100gという計算が成り立ちます。一方、温度には加法性はなく、40℃のお湯と、60℃のお湯を合わせても100℃にはなりません。こういったことも算数の学習を通して学ぶことができます。
指導の工夫
日常生活で活用できるようにするためには、以下のような指導の工夫が考えられます。
・日常生活で起きた実際の場面や日常生活をイメージできるような具体的な場面を問題に取り入れる。
・「%が使われているものを探そう」「日常生活で比が用いられている場面を考えよう」など、身近に算数が使われている場面を探す。
・文章問題の問題づくりをする。
実践「比」(第6学年)
以前に「日常生活に生かせる力を育む算数指導「比」(第6学年)」でも紹介させていただいた内容になりますが、ここでは、もう少し具体的に紹介させていただきます。以前の記事も併せて読んでいただけると幸いです。
まず、「日常生活のなかで比が使われているものを探してみよう」と問いました。すると、子どもたちは以下のようなものを思い起こしました。
「地図帳に書いてあったのを見たことがあるよ」
「めんつゆのラベルに書いてあった」
「僕は比じゃなくて、めんつゆとか乳酸菌飲料に◯倍希釈って書いてあったのを見たことがあるよ」
「それもある意味、比なんじゃないかな」
そこで、「タブレットを使ってもいいので、日常生活の中で比が使われている場面を調べてみよう」と投げかけました。すると、調べて分かったことや、それをきっかけに思い出したことを話し始めました。
「黄金比や白銀比っていうのがあるらしい」
「建物や料理に比は使われているんだ」
「絵やデザインにも使っているみたい。キャラクターを描く際の頭と身体の比率(二頭身、三頭身など)に使っているんだね」
「プレゼンテーションソフトのスライドサイズに比が使われていた」
「たしかに。そういえば、それを映すプロジェクターの画面サイズを先生が変えてるときに画面に出ていた気がする」
「生活場面なのかは分からないけど、地球から太陽までの距離と、地球から月までの距離の比がテレビで出ていたよ」
「月と太陽と地球の大きさの違いにも使われていた気がする」
といった具合に生活のなかで比が使われていることが実感できました。
授業の後半には、以下のような問題を出してみました。
「3倍濃縮のめんつゆをストレート(濃縮されていない状態)に戻すには、つゆの量と水の量の比はどうなりますか」
すると、「1:2」と「1:3」で意見が分かれました。正解は、1:2です。この問題を通して、比による表記の便利さや学習が生活に大切だということを実感していたようでした。
まとめ
算数の学習を通じて、数の概念や性質を理解することができます。
算数で学んだことを活用することで、日常生活を豊かにすることができます。
日常生活に生かせる指導を目の前の子どもたちと共に、私自身も日々模索しています。

平野 正隆(ひらの まさたか)
東京都品川区立学校
研究会での実践報告や校内での若手教員育成などの経験を通して、自分の経験や実践が広く皆様のお役に立てるのではないかと考えております。大人・子どもに関わらず、「明日から頑張れそうです」「明日が来るのが楽しみです」と言ってもらえるのが私の喜びです。
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