自分たちで設計する「修学旅行」 一年がかりの探究型プロジェクトが育てる主体性
従来の「提供される学び」を克服し、修学旅行を一年がかりの探究プロジェクトへと再定義した実践の共有です。
核心は、予算などの現実的な条件の中で、生徒がゼロから企画・交渉を行う当事者意識の醸成にあります。
生成AIを思考の壁打ち相手に加え、教科学習と往還させながら、不測の事態や葛藤を乗り越え、自ら学びを設計する主体へと変容させるプロセスこそが、本取り組みの教育的本質です。
花園中学高等学校 社会科教諭 伏木 陽介
はじめに:提供される学びを問い直す修学旅行

一次予選通過者発表の様子
みなさんの学校では、修学旅行をどのように位置づけているでしょうか。多くの学校において、修学旅行は学校行事の大きな柱の一つであり、生徒たちが心待ちにするイベントです。
しかし、近年はそのような形は減少し、あらかじめ決められた行程をバスで巡り、ガイドなどの説明を聞き、用意された食事をとる…。そうした提供される学びの中で、真に主体的な変化を遂げているのか。
また、自由行動の時間をほぼフルに取り、ショッピングや観光を中心とした個人旅行に近い学校旅行も散見されます。せっかくの資金と日程、そして教職員も含めた準備を経て行われる一大行事。教育プログラムとして、平常授業との接点も見据えた形へと昇華する必要があります。
そのような問題意識のもと、私自身が現在運営、伴走している「ジャパンツアー・ワールドツアー」の探究プログラムは、既存の修学旅行の枠組みを根底から問い直す、一年がかりの探究型プロジェクトです。勤務校では中高一貫で2度の修学旅行を、このジャパンツアー・ワールドツアーという形で取り組みます。
この2回のツアーは、生徒自己設計型の宿泊研修旅行プログラムです。生徒自身が自分たちの研修旅行をゼロから企画し、プレゼンテーションを経て、仲間や保護者、そして旅行会社のプロや大人との交流の結果、投票によって実際に実施するプランを決定します。
このプロジェクトの根幹にあるのは、仲間を笑顔にするという、極めてシンプルかつ本質的な目的です。先週、今年度伴走してきたジャパンツアー・ワールドツアーの決勝大会が行われました。この機会にプログラムを整理して、読者のみなさんの参考にできればと考えています。
条件が引き出す創造的なプランニング
まず、生徒たちに与えられるのは、目的地ではなく現実的な条件です。ジャパンツアー(国内)であれば予算15万円以内での4日間。ワールドツアー(海外)であれば予算40万円以内で最大6日間。行き先は日本国内、あるいは世界中のどこでも構いませんが、移動手段から宿泊施設、現地のワークショップや自由行動の安全性まで、すべてを自分たちで調査・考案しなければなりません。
私はいつもプランニングの冒頭で、生徒たちに以下のような話をします。
「将来、みなさんが仕事やキャリアの中で行うことには大抵前提条件があります。その中で、自分たちの理想や考えを最大限に反映させていく必要があります。周囲の思いにも配慮し、できるだけ前提条件の中で、最大限の幸せを周囲とともに成し遂げていく必要があります。このツアープランニングはその第一歩です」
修学旅行というものを題材に、大人と仲間を巻き込むプロジェクト型の探究として、このツアープランニングを位置づけています。
また、自分たちの現状理解ももう1つの条件としています。自分たちのクラスや学年に何が足りないのか、あるいは自分たちの強みをより身につけるためにどのような取り組みをすべきなのか。そのような自分たちの座標を分析し、それを旅行プランニングに位置づけることも条件として課しています。
そのような条件に対して、過去、生徒たちが生み出してきたプランはどのようなものであったでしょうか。例えば、ジャパンツアーの場合、1期生は富士山登山で克己心をテーマに、日本の頂に全員で立つことを目標にプランを作成、実践しました。2期生では無人島生活、生きる力をテーマに掲げました。
このように、自分たちのクラスや仲間の課題意識をテーマ化し、プランと実践内容に反映させています。直近の決勝プレゼン大会でも、信州エコツーリズムや屋久島ネイチャーツアーといった、クラスで共に学んだ内容や教科学習、共通体験などを踏まえ、地域の課題を自分たちの成長につなげるプランなどが生徒たちから提案されています。
このようなプランニングの過程において、生徒たちが培っていく能力は単なる企画力だけではありません。予算や安全性、国際情勢といった現実の壁にぶつかりながら、旅行会社のプロと対等に交渉し、そして自分たちの課題克服と成長につながる学びを持ったツアープランを完成させます。自分たちの理想をいかに形にするかという自己実現のプロセスそのものを、学びとして転換することに工夫・注力しています。
生成AIを壁打ち相手とした思考の深化
さらに2025年度からは、このプランニングに生成AIを試験的に導入しました。私たちはAIを「答えを出してくれるツール」ではなく、生徒の思考を深めるための「壁打ち相手」として定義しています。
実際の授業では、生徒たちが作成したプランをGeminiやNotebookLMなどに載せ、さらに審査指標を教師だけでなく、生徒自身にも考えさせます。そして、その指標に基づく評価を生成AIに行わせ、生徒はルーブリックを考える過程や、生成AIの審査結果に注目します。生成AIの助言や評価も、スタート時のプランニングにおいては大変有益な情報源です。
しかし、この過程で、生徒たちに伝えている観点もあります。自分たちのクラスや学年が持ってきたストーリーや大切にしていた価値は、現在の生成AIでは測りにくいということです。それぞれの持つ微妙な空気感も含め、目に見えない大切な部分や、言語化しにくい部分をどのように旅行プランに盛り込めるかが重要になります。
生成AIの評価ばかりを頼りにせず、最終的には自分たちの判断が大切になるという点です。
生成AIの評価軸そのものを相対化し、言語化の確度が高いものとなっていることを自己批評する姿勢も、生徒たちの伴走を通して伝えていきます。
さらにGoogle Earthを用いて移動ルートや現地の雰囲気を視覚的に検証します。ストリートビューで現地の景色を確認し、AIの提案を鵜呑みにせず、自ら裏付けを取る。この批判的な検証のプロセスこそが、これからの時代に必要な情報リテラシーを育むのです。
教科学習と探究をつなぐ双方向の循環
このツアー企画は、決して総合的な探究の時間だけで完結するものではありません。私たちは、教科学習と探究のシームレスな接続を目標に取り組みを進めています。
例えば、社会科(日本史)の授業では地域のフィールドワークを行い、フィールドの持つ情報から、疑問の種や問題意識を獲得します(詳しく連載記事2025.12.12記事参照)。勤務校の授業においても隣接する妙心寺やその地域を教材として巡り、何気なく生活している空間の中に、違いや共通項を見出します。歴史的建造物から現代の住居にはない哲学を見つけたり、町並みや地形から、そのフィールドが持つ特性を発見します。
授業を介して得た理解を、ツアープランニングのスパイスとして入れられないだろうか。そのような声がけを行います。学びの実践の場として、ツアーを位置づける意識を教員が持つことが大切です。
授業で磨いたものの見方や疑問、仮説を持ってツアーへと旅立ち、旅先で得た新たな疑問を再び教室へと持ち帰る。この双方向の循環こそが、知識を血肉化させ、学びを深いものにします。
実際に、ツアーを経験した生徒からは
「地理の教科書のページをもう一度確認したくなった」
「美術品を見るときの視点が変わった」
「地学の内容を、今回行った場所以外でも深めたいと思うようになった」という声も上がっています。
ジャパンツアー・ワールドツアーのような自己設計型の修学旅行には、このようなオーガナイズされていく知の世界が広がっていると信じています。
交渉と葛藤が生む当事者意識

また、このプロジェクトにおいて生徒が成長するのは、自分の理想を他者の納得へと変換するプロセスです。自分たちの表現したいことを詰め込んだプランを、クラスメートや後輩、教員、旅行会社のプロにぶつけます。
そこで突きつけられるのは、
「自分は興味がない」
「教育旅行として成立するのか」
あるいは
「その予算ではホテルが確保できない」
「この移動は安全性が担保されない」
といった反応、シビアな現実です。
しかし、彼らは挫折するのではなく、代替案をブラッシュアップし、時には生成AIにも相談し、場合によっては自分たちのこだわりを削ぎ落としながら、再び交渉のテーブルに着きます。この連続性をどれだけ行えたか、この傷、すなわち葛藤を乗り越えた数や試行錯誤の痕跡をどれだけ増やせたか。それは、変化の激しい時代を生き抜くための調整力や、失敗から立ち直るレジリエンスを体得するプロセスにほかなりません。生徒たちはプランニングする探究活動の過程で、それを体で学びます。
周囲の思いに対して自分の思いをどのように届けるか。独りよがりとなっている部分があればそれを再点検する作業・経験を介して、企画力・交渉力・発信力、そして仲間の意見を聞く傾聴力を、実感を伴った能力へと昇華させていきます。
投票で選ばれたプランには、クラス全員の期待と責任が乗ります。単なる楽しい旅行は、この瞬間、自分たちの手で成し遂げるべき運営へと変わるのです。
リフレクションと伴走体制による学びの定着

生徒の制作による成果物冊子『地域の歩き方』
このツアープランニングでは、最終的に1名のプランが選出されます。その過程では、悔しさや落胆も含め、さまざまな感情が生まれ、教員もそれらを受け止めます。
多くのリフレクションの機会を設け、生徒たちがプランニングの内容を客観的に見つめる時間が必要です。そのためには、生成AIの利用も含め、教員や相互に評価し合う生徒、旅行会社の方々との対話の時間も大切です。
時間の制約もあり、リフレクションに多くの時間を割けていないのが課題です。しかし、選考の過程で寄せられた率直な感想や外部評価を、シームレスにプランナーとなった生徒に届ける仕組みづくりが大切だと思います。
また、プランが選ばれた後にも、それぞれの訪問先を分担して取材し、企画・実施、アウトプットさせる工夫も行っています。ツアープランが決定した後、クラスで旅行ガイドブックを1冊仕上げるプログラムを導入します。
選んだプランにそれぞれがどのように関わるかを考えさせ、取り組ませることで、プランナーが主体、それ以外の生徒が客体という意識にならないようにしています。自分たち全体で選んだプランをさらにブラッシュアップするという姿勢になるような活動です。教員はそれをサポートし、点検する伴走体制を整えています。
※本冊子は株式会社地球の歩き方の許諾を得て制作・掲載しています。
予選大会・決勝大会・ファイナルプレゼン大会が生む探究の継承
最後に、私たちが最も大切にしているのが予選大会、決勝大会、そしてファイナルプレゼン大会という発表の場です。ここでは、一次予選を勝ち抜いた3年生(中学3年)と4年生(高校1年)が全生徒や保護者、プロの前でスライドを用いたプレゼンテーションを行います。
後輩たちは、先輩が厳しい制約を乗り越え、最新のAI技術やGoogle Earthを駆使して練り上げた「ガチ」のプランを目の当たりにします。普段の部活動や学校生活とは異なる先輩の姿は、後輩の印象に強く刻まれます。その熱量に触れることで、「自分たちも来年、あんなツアーを作りたい」という内発的な動機づけが、学年を超えて継承されていくのです。伝統となった探究活動は、生徒の自走を促す大きな推進力になります。
ジャパンツアー・ワールドツアーを通じて培われるもの。それは、限られた条件の中で仲間と共に解を創り出す逞しさであり、周囲の協力に感謝する禅の精神や「おかげさま」の体現です。ツアーが終わったとき、生徒たちは「連れて行かれる客」から、「自らの学びを設計する主体」へと変容しています。
その姿を見る中で、このプログラムの有用性を実感します。私たち教育者自身もこのプログラムを絶対視せずに問い直していく姿勢が同時に求められると考えています。
私たちは、行事を思い出作りで終わらせていないか、それとも学びの設計図に変えられているか。この問いを常に持ち続けたいと思います。

伏木 陽介(ふせぎ ようすけ)
花園中学高等学校 社会科教諭/中高一貫(ディスカバリー)コース統括・ICT担当、東西探究交流会代表
長年にわたり、探究学習のプログラム策定や実践に携わってきました。
学校や授業の改革には何が必要かを考え、現場でのチーム作りや実践を重ねております。
また、大学などの「学術知」を中高の教科指導とどう結びつけるかを追求し、共通テストの分析やICTとの接続等の教材開発に取り組んでおります。
こうした経験を活かし、未来の学びの創造に貢献したいと考えています。
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