2025.09.29
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なぜ算数を学ぶのか?「美しさや不思議を味わうため」(8)

算数を研究して18年間。さまざまなテーマで研究をしてきましたが、学校教育で算数を学ぶ意義は何なのかは、私なりの大きなテーマでした。これまでの研究を通しての私の見解を10個に整理し、ここに実際の算数指導とともに紹介させていただきます。
今回は「美しさや不思議を味わうため」です。
「図形の美しさ」のなかでも、「敷き詰め」に焦点を当てて考察していきます。

東京都品川区立学校 平野 正隆

はじめに

教師は、算数を学ぶ意義をしっかりと理解したうえで授業を構想することが求められます。その視点を持つことで、「何を教えるか」だけでなく、「どのように学ばせるか」という観点からも授業を改善できるようになります。児童にとっても、学ぶ意味を感じながら取り組むことが大切です。
しかし現実には、点数や偏差値、順位といった他者との比較に意識を向けすぎて、本来目指すべき学びの方向を見失ってしまう子どもが少なくありません。
算数は、ただ難問を解けたりテストで高得点を取れたりすれば十分なのでしょうか。もちろん、さまざまな問題を解決する力は重要です。しかし、算数を通して育まれる「生きてはたらく力」が存在することを忘れてはなりません。

美しさや不思議を味わえる算数

算数を学習していると、図形の対称性や数列の法則性に美しさを感じたり、円周率の数字や素数の分布に、いまだ法則を導き出せない不思議さに胸を躍らせたりすることがあります。また、思いもよらないスマートな解き方を知り、感動することもあります。

イタリアの物理学者・天文学者・哲学者のガリレオ・ガリレイは「自然という偉大な書物は、数学という言語で書かれている」と言いました。木の枝分かれがフィボナッチ数列に従っていたり、特定の周期でしか現れないセミがいたりするのも、自然の美しさや不思議が算数の美しさや不思議につながる例です。

平面図形の敷き詰めの美しさ

「図形の美しさ」とは、「形の中に隠れた不思議な法則」を感じ取ることです。平面図形の敷き詰めの学習を通して、幾何模様の美しさを味わい、平面の広がりの仕組みを理解し、図形の性質を考察できる力を育てることが大切です。

例えば、合同な三角形や四角形は平面を敷き詰めることができます。三角形は内角の和が180度のため、頂点を合わせて並べると平面を埋められます。四角形も内角の和が360度であるため、同じ形を繰り返して配置すれば敷き詰められます。さらに、敷き詰めた図形の中でほかの図形を見つけたり、平行線の性質に気づいたりすることで、図形への見方や感覚が豊かになります。

実践「敷き詰められる五角形は存在するのか」(第5学年)20分想定

 

平面を敷き詰められる凸五角形

結論から言うと、存在します。しかし、三角形や四角形と違い、五角形はすべてではありません。平面をすき間なく敷き詰められる五角形は限られています。平面を敷き詰められる凸五角形は、2023年時点で 15種類見つかっているそうです。

五角形の内角の和について考えたあと、次のような話し合いがありました。

教師:三角形や四角形のときのように、敷き詰めてみよう。
児童:うまく敷き詰められないよ。
児童:360度がつくれない。
児童:三角形や四角形は、角の和が180度や360度だったから敷き詰められだけど、五角形は540度だから、ぴったり360度を作る組み合わせが難しい。

教師:では、全ての五角形は敷き詰められないということでいいかな。
児童:敷き詰められる五角形もあるかもしれない。
児童:また1種類の五角形しかやってない。

教師:「敷き詰めることができる五角形を見つけよう」

ここからは、自力解決・学び合いです。

児童:つまり、360度がつくれればいいわけだから…
児童:例えば、正方形と正三角形を組み合わせた五角形(角度が60度,150度,90度,90度,150度の等辺五角形)なら敷き詰められるよ。
児童:90度、120度、90度、120度、120度の五角形も敷き詰められるよ。辺の長さはバラバラになるけど。

教師:平面を敷き詰められる合同な凸五角形は、現時点で15種類見つかっているようです。みんなも探してみてください。
児童:どんな種類があるのか調べてみたい。
児童:まだ見つかってない五角形を探してみたい。

まとめ

算数を学ぶことで、自然や図形の中に隠れた美しさや不思議に気づき、知的好奇心を育てることができます。五角形の敷き詰めの探究活動のように、自ら課題を発見し、試行錯誤して考えることで、問題解決力だけでなく「学ぶ楽しさ」を実感できます。
算数は単なる計算力や成績向上のための科目ではなく、世界の仕組みや美しさを味わい、考える力を伸ばす教科でもあるのです。

平野 正隆(ひらの まさたか)

東京都品川区立学校


研究会での実践報告や校内での若手教員育成などの経験を通して、自分の経験や実践が広く皆様のお役に立てるのではないかと考えております。大人・子どもに関わらず、「明日から頑張れそうです」「明日が来るのが楽しみです」と言ってもらえるのが私の喜びです。

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