なぜ算数を学ぶのか?「前向きに生きるため」(3)
算数を研究して18年間。
様々なテーマで研究をしてきましたが、学校教育で算数を学ぶ意義は何なのかは、私なりの大きなテーマでした。
これまでの研究を通しての私の見解を整理し、ここに実際の算数指導とともに紹介します。
第3回の今回は「前向きに生きるため」です。
東京都品川区立学校 平野 正隆
はじめに
教師は「なぜ算数を学ぶのか」という学習の意義を理解したうえで授業を組み立てていく必要があります。そうすることで「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」も重視した授業改善をすることができます。
また、児童も学習する意義を実感しながら学び進める必要があります。点数や偏差値、順位といった他者との比較ばかり気にして、本来身に付けるべき方向性を見失っている子が少なくありません。
果たして算数は、難しい問題を解いたり、テストの点数を取れたりすれば、それでいいのでしょうか。もちろん、様々な問題を解く力は重要ですが、生きてはたらく力を育むためには、その過程で身に付く力があることも忘れてはいけません。
前向きに生きる希望をもてる算数
物事は見方を変えることで、ポジティブな視点をもつことができます。例えば、困難な状況に直面した場合、その状況を成長のチャンスと捉えることができます。自分が何かを学び、克服することができると考えることで、前向きな気持ちをもつことができます。
現在、グローバル化や人工知能AIなどの技術革新によって予測困難な時代が訪れたと言われています。これは、見方を変えればチャンスなのです。自ら未来を創り上げるチャンスがきたのです。
見方を変えることは、ネガティブな感情や考え方に囚われることを避け、より前向きに人生を捉えるための重要なスキルです。
算数の学習をしていると、一見、難しくて解けなさそうな問題や面倒そうな問題も、工夫すると見え方が変わることがあります。そういった問題を解決していく授業を展開することで、見方を変え、工夫して困難を解決しようとする態度を育てることができます。
指導の工夫
正答を出すことも大事です。
しかし、見方を変え、工夫して困難を解決しようとする態度を育てるには、その過程に着目することが大切です。授業の中では、子どもたちが考えた様々な解法に触れる機会をつくります。
例えば、5.84×25という問題があります。
筆算で解く方法もありますが、25は4つ集めると100になる数です。
そこで、25を「100÷4」と置き換えてみます。
また、5.84に100をかけると、計算しやすい整数の584になります。
この2つの特徴を組み合わせて、以下のように計算できます。
5.84×25
=5.84×(100÷4)
=584÷4
= 146
もうひとつ例を挙げると、三角形や平行四辺形の面積は、台形の公式「(上底+下底)×高さ÷2」を使って求めることができます。
三角形(底辺5cm,高さ4cm)は、上底が0cmの台形とすれば、
(0+5)×4÷2 = 10。
また、平行四辺形(底辺5cm,高さ4cm)は、上底も下底も5cmの台形として見れば、
(5+5)×4÷2 = 20。
子どもたちから、工夫した考え方が出ない場合には、教師がヒントを与えるなどして思考を刺激します。
実践「図形の角」(第5学年)

三角形の1つの外角「ア」を求める
三角形の1つの外角「ア」を求める問題がありました。
多くの子どもは、まず三角形の内角の一部である45°と35°を使って、残りの内角を求めていました。
180°から45°と35°を引くと、残りの内角は100°になります。
そしてさらに、外角「ア」を求めるために、180°からこの100°を引いて答えを導いていました。

内角の和が180°であることを確認
しかし、この単元の導入時には、三角形を切って角をつなぎ合わせ、内角の和が180°であることを確認しています。
そこで、子どもたちに「このときに学んだことを生かせないかな」と問いかけました。
すると、一部の子どもたちが、外角に隣接していない2つの内角を足すことで外角を求められることに気付きました。
そのことに気付いた子どもたちは、まるで霧が晴れたような表情を浮かべます。
そして、その子たちを中心に、理解の輪が広がっていきました。
まとめ
このように、算数を学習することで、グローバル化、情報化、技術革新等といった変化による予測困難な時代を「なんとかしてみよう」「解決策はあるはずだ」「もっと簡単にできないかな」と、前向きに捉えながら生きていけると思っています。

平野 正隆(ひらの まさたか)
東京都品川区立学校
研究会での実践報告や校内での若手教員育成などの経験を通して、自分の経験や実践が広く皆様のお役に立てるのではないかと考えております。大人・子どもに関わらず、「明日から頑張れそうです」「明日が来るのが楽しみです」と言ってもらえるのが私の喜びです。
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