「主体的・対話的で深い学び」を支える言語スキル―生徒同士のつながりをつくるためのスモールステップ―(No.6)
前回の記事では、連載の前半でご紹介した「対話のスキル」を使いながら、生徒の理解を深め、安心して参加できる授業づくりの工夫についてお話しました。今回は、まだ生徒間のつながりが浅い新年度の学級において、教師―生徒ではなく、生徒―生徒間の関係をどのように作っていくと良いかについて、考えてみました。
小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子
これまでと同じように授業ができない中で…
学校が再開して約1ヶ月がたちました。臨時休業中の家庭学習、週に1回の相談日での面談、分散登校による少人数授業を経て、現在は学級の全員での生活が戻ってきました。しかし、もちろんソーシャルディスタンスを取ること、他の人の席に座らないこと、持ち物を共有しないことなどの新型コロナウィルス感染予防策をとりながらの授業です。これまでであれば、7月なら生徒同士のグループ学習にも慣れてきているころなのですが、現在はまだ教え合い、学び合いといった授業スタイルをどう確立させていったらよいか試行錯誤しているところです。
このようにできることが制限されている中で見えてきたのは、「教師―生徒」のやりとりだけでなく、「生徒―生徒」のやりとりをつくりながら学習をすることの大切さです。ある課題に対して、生徒一人一人がそれぞれ取り組み、困っているところやわからないところを教師がアドバイスするという授業よりも、一度自分で考えてから友達と考えを共有し、クラス全体でさらに共有するという授業の方が、様々な考え方にふれることができたり、わからなかったところを解決することができたりするということを改めて感じました。
限られた授業時数と環境の中で、少しでも効果的に生徒同士の学び合いをすすめることができるようなスキルの学習をご紹介します。
1.効果的なメモの取り方を考える。
光村図書「国語1」に「情報を的確に聞き取る」という単元があります。私は、授業再開後すぐにこの単元の指導を行いました。特に、メモを取るときの基本として次の3つを挙げました。
①ひらがなや記号で言葉を省略する。
②箇条書きにする。
③共通する部分をかっこでくくるなどまとめる・つなげる記号を工夫する。
聞き取りの練習は小学校でも行われていますが、この3つが定着していない生徒は実は多いです。聞き取りメモなら、個人の活動だけで練習することができるので、話し合い活動などを行う前に、発言を的確にメモするための方法について指導を行いました。
2.みんなの前で音読をする。
本来であればスピーチなどを行わせたいところですが、授業時数が少ないということで、まずは自分が書いた文章ではなく、「読むこと」の単元で扱っている教科書の文章をみんなの前で音読をすることで、声の出し方や視線の使い方などの指導を行いました。
音読をするだけなので、人前に立つときの姿勢や教科書の持ち方、視線をどこで上げると間をうまくとることができるか、などの指導が短時間でできます。特に、「文末で視線を上げると良い」ということを伝えたら、視線を上げることが間をとることにもつながるということに気づかせることもできました。
3.話し合いは「スタンディング」で。
教師主導だとどうしても50分が単調になってしまうので、生徒同士の交流を授業に組み込みたい場合は、立った状態での話し合いを行わせています。いつも席の近い人同士で交流をしていると、「おなじみ」のグループで完結してしまいます。しかし、「スタンディング方式」をとれば、毎回メンバーを変えて交流を行わせることができます。1と2で学習した「的確なメモ」「相手が聞き取りやすい話し方」を意識させると、交流の時間を短くすることにもつながります。
おわりに
生徒同士の交流を効果的な学びにつなげるためには、細かいスキルの指導を意図的に行うことが必要です。現在は、時間も環境も限られています。1時間だけの小さな単元をつくったり、50分の中の一部をスキルの指導にあてたりすることで、少しずつ生徒の交流を変えていけるように、これからも試行錯誤していきたいと思います。
熊井 直子(くまい なおこ)
小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。
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