2020.06.01
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「主体的・対話的で深い学び」を支える言語スキル ―対話の「前提」を意識する―(No.4)

前回の記事では、円滑な対話のためにどんな準備が必要かという点についてお話しました。準備のために必要なのは、自分は相手を尊重することができているかを自問すること、そして、もし「はい」という答えを出すのに時間がかかる相手がいた場合、なぜ自分がそのように感じているのかをさらに考えることの2点です。自分の対人関係における感情的な部分を探ることが、無駄な軋轢を生まずにすむ方法だと考えています。今回は、その上でさらに対話を進めていくために意識をすることが必要な対話の「前提」についてお話していきたいと思います。オンライン上でのコミュニケーションが増えている今こそ、改めて対話スキルを見直していきましょう。

小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子

対話の「前提」とはなにか

生徒に討論の指導をするときにも伝えることなのですが、対話には「前提」があります。それは、次の3つです。

①この対話の目的は何か。

②対話中のある発話の目的は何か。

③対話をしている相手の背景にあるものは何か。

この3つは、対話中にはっきりと明示されないことも多く、意識して言葉にしたり、お互いに確認したりしないとすれ違いにつながることがあります。この3つのうち、今回は「③対話をしている相手の背景にあるものは何か」という点を取り上げたいと思います。これは、この連載で毎回触れている『他者と働く』の中で述べられている対話のプロセスの2番目「観察」と近い内容です。

『他者と働く』の中では、この「観察」の段階を対話相手が生きている職場での環境や職業倫理などの枠組みをよく知ろうとする段階、というように述べています。それは、相手の考えというのは、単体で存在しているものではなく、職場での立場や家庭環境などを含めた人物そのものから生まれてくるものだからです。同じ教員同士で考えるならば、何年目の教員なのか、これまでにどのような学校を経験してきているのかによっても、どのような考え方をもっているかは変わりますし、担任なのか副担任なのか、担当教科や校務分掌は何か、家族構成は……など、さまざまな背景が考えられます。こうしたことを理解した上で相手の発言をよく聞くことで、課題解決のための合意形成に近づきます。

相手の背景を知るための対話スキル①「言葉の定義」

このような相手の背景をくみとるときに意識すると良いスキルが2つあると考えています。そのうちの1つは「言葉の定義を意識すること」です。

「言葉の定義を意識する」とは、「相手がどのような意味でその言葉を使っているかを考える」ということです。言葉は抽象概念を切り取る枠組みですが、その切り取り方が人によって微妙に違うことがあります。その違いを意識しないと、同じ言葉を使っているはずなのに、自分の認識と相手の認識がずれてしまっているということが起こります。

例えば、今回の臨時休業で、各学校や自治体で「オンライン学習」の実施が検討されました。「オンライン学習」を実施している学校や自治体などの割合を調査した結果が報道されたりしています。しかし、「オンライン学習」という1つの単語で表現している授業形態は次のようなものがあります。

・すでに作られている動画を視聴する課題を課すこと

・Web上で問題を解くことができる学習サイトやアプリを使用した課題を課すこと

・先生自身が作成した動画やデジタルコンテンツを使用した課題を課すこと

・ビデオ通話などを使用した対面授業を行うこと

・ビデオ通話などは使用しないが、オンライン上で課題の配布回収のやりとりを行うこと

などです。

これまでにICT機器を活用した教育活動を全く行ってこなかった学校で、今回の臨時休業を機に「オンライン学習を取り入れよう!」といったとき、その「オンライン学習」という言葉が上記のどれかを指しているのか、または、全てを指しているのかは分かりません。ここをはっきりさせないまま会議の議題にあげてしまうと、「ビデオ通話などを使用した対面授業」をイメージしている先生と、「先生自身が動画を作成しなければならない」と考えている先生と、「学習サイトやアプリを使用させよう」と言いたい先生とでは話がかみあいません。

このため、相手が使用している言葉の定義が、本当に自分が考えている言葉の定義と同じかどうかを常に意識することで、違いやずれを感じたときに具体的な言葉を使って確認することができるようになります。

こうしたことは、授業の中でも話したり練習したりしています。特に、「話し合うこと」において話し合いの進行の力を育成することが目標として上がる中学3年生の授業の導入で、「友達」「頑張る」など、日常的に使う言葉をどのような意味で捉えているかを互いに説明し合うと、同じところもあればやや違うところもあることに気づくことができるので効果的です。

相手の背景を知るための対話スキル②「理由づけ」

相手の背景をくみとる時に意識すると良いもう1つのスキルは「理由づけ」を確認することです。この「理由づけ」とは、イギリスの哲学者トゥールミンが考えた論理的思考の基礎となる考え方「三角ロジック」のうちの一角です。「三角ロジック」は中学2年生の国語の教科書に出てくることが多いので、ご存知の方も多いのではないかと思いますが、「ある主張をする時に、その主張の根拠となるデータとなぜそのデータが根拠になるのかを説明する『理由づけ』とを組み合わせた論理をつくること」です。

※「三角ロジック」についてより詳しく知りたい方には、『授業で使える!論理的思考力・表現力を育てる三角ロジック』(鶴田清司、図書文化社 )がおすすめです。

例えば先程の「オンライン授業」の例で言うと、次の2つの文の間にはやや飛躍があるのが分かるのではないでしょうか。

①本校とは違い、他の多くの学校ではオンライン授業を実施している。(事実)

②臨時休業中にオンライン授業を推進した方が良い。(主張)

この①と②の間に、例えば

「オンライン授業を行えば、生徒が課題で分からないところがあっても質問がしやすく、学習に取り組みやすいだろう」

という一文が入れば、なぜ発話者がオンライン授業を進めた方が良いと考えているのかが分かります。これが「理由づけ」です。

単純なことだと感じられるかもしれませんが、こうした「理由づけ」のない議論や発言というのは、実際は多く起こっているように思います。そこで、自分が発言する時にこの「理由づけ」を意識するのはもちろんですが、相手の発言において「理由づけ」がはっきりしているかどうかを確認してみることをおすすめします。なぜなら、相手の発言で「理由づけ」がはっきりしていない時に、自分の頭の中だけで勝手にその「理由づけ」を補って話を進めていくと、実は相手の意図が自分の考えとは違った、ということが起こり得るからです。

先程の例は極端ではありますが、

「他の学校がオンライン授業を進めているから本校も行わなければならないと考えるのはなぜですか?」

「他の学校がオンライン授業を行うことで得られるメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?」

といった質問をすることで、相手がどのような論理をもっているかが分かります。相手の論理の筋道を正確に把握することで、合意点を見つけたりや説得したりするための方法が見えやすくなります。

おわりに

今回は、相手の背景を知るための対話スキルとして「言葉の定義」と「理由づけ」の2つをご紹介しました。そして、「相手の背景を知る」という表現をしてきましたが、これはすなわち「相手の論理を把握する」ということに他なりません。そして、前回もお話したように、「相手を尊重する気持ち」を持つこと、つまり、その「相手の論理」は言葉の上だけのものとして捉えるのではなく、相手の感情や人格といったその人そのものから生まれているものであるということを忘れてはいけないと思います。冷静な論理と血の通う感情のふたつのバランスを保つことが、どんな場合であれ、人とコミュニケーションをとる上で大切なことなのではないでしょうか。

熊井 直子(くまい なおこ)

小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。

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