2019.10.08
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言葉のちからを育てる国語教育 ―「教科書の文章が読めない」のはなぜ?ー(No.1)

前回まで「これから10年の教育を考える」と題して、新学習指導要領の目指す方向性を整理したり、フィンランドの学校で1年間授業を見てきた経験をご紹介したりしてきました。今回から半年間は、メディアでも様々な意見が飛び交う「読解力」を向上させるための国語の授業について考えていきたいと思います。

小平市立小平第五中学校 主任教諭 熊井 直子

子どもたちは教科書が読めない!?

以前投稿した記事の中でも紹介した新井紀子さんの「AI vs 教科書が読めない子どもたち」の続編「AIに負けない子どもを育てる」が先日発売されました。

著者である新井さんは、2011年から東大合格を目指す「東ロボくん」の開発に携わる中で、AIに問題文やその文脈を理解させることが難しいということに気づきます。同時に、多くの中高生もAIと同じように文脈を理解しないまま、計算や暗記によって問題を解いているということが判明し、中高生の読解力向上が直近の課題と考えるようになります。2016年からは「教育のための科学研究所」を設置し、中高生の読解力を調査する「リーディングスキルテスト」を実施しており、埼玉県戸田市、東京都板橋区、富山県立山町ではこのテストを自治体として採用しているそうです。

  1. リーディングスキルテストは次の6種類の問題で構成されています。
  2. 係り受け解析 … 文の基本構造を把握する力
  3. 照応解決   … 代名詞などが指す内容を認識する力
  4. 同義文判定  … 2つの文の意味が同一かどうかを判定する力
  5. 推論     … 基本的知識と常識から、論理的に判断する力
  6. イメージ同定 … 文と非言語情報(図表など)を正しく対応づける力
  7. 具体例同定  … 定義を読んでそれと合致する具体例を認識する力


例えば、様々なサイトで引用されている「同義文判定」の問題には次のようなものがあります。

  • 幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。
  • 1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。


以上の2文は同じでしょうか。
この答えは「異なる」ですが、中学生の正答率は57%だったそうです。この結果に対し、教育委員会の多くの委員が「信じられない」という顔をしたとのこと。また、前著「AI vs 教科書を読めない子どもたち」を読んだ、私の教員でない知人の反応も同様でした。

「なんとなく」文章を読んでいる子どもたち

しかし、中学校で国語の教員をしている私は、この結果に対してそこまでの驚きはありませんでした。同じく国語教諭をしている同僚にも聞いたところ、反応は同じでした。その理由は大きく2つあります。

①文法が苦手な生徒が多い。

先ほど例に挙げた問題は、主語と述語の係り受けと、受け身形を理解しているかどうかがポイントとなる問題です。
幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。
→ 主語:幕府
  主語の動作:追放した、命じた
1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。
→ 主語①:ポルトガル人         主語②:幕府
  主語の動作(受け身)①:追放された  主語の動作(受け身)②:命じられた。
この問題を間違えるというのは、「1639年」「幕府」「ポルトガル人」「追放」「大名」「沿岸」「警備」といった単語だけを見て、「は」「を」といった助詞が示す主語や目的語、「命じた」「命じられた」といった受け身の意味を持つ助動詞の働きを理解できていないことが原因だと考えられます。

主語と述語、修飾語と被修飾語といった文節のはたらきを学習するのは中学1年生ですが、授業をしていてもこれらを生徒に理解させるためにいつも試行錯誤です。また、授業の中で「文法の問題」としては解けていても、それが通常の文章読解につながらないと感じることもあります。このようなことから、上記の2文が「異なる」と答えられる生徒が57%であるというのは納得ができます。「なぜ異なるのか」を説明できる生徒はおそらくもっと少ないのではないでしょうか。

②一斉指導をできるだけ避けたい昨今の流れ

主語と述語の係受けや一文一文の関係などをしっかり理解させなければと考えると、長文読解の授業は、先生主導型の一斉指導になりやすくなります。「ここに書かれていることはこういうことか」を解説する時間がどうしても増えるからです。

最近では、新学習指導要領で「主体的・対話的で深い学びの実現」がうたわれているため、現場の先生たちは「いかに生徒に主体的に学習に取り組ませるか」「授業の中にどのようにして対話を盛り込むか」ということに一生懸命で、一斉型指導をできる限り避けたがる傾向があるように感じます。私自身も、授業をするときに、文章を最初から順番に読んで内容を理解していくことはせず、その単元で指導したいポイントを中心に課題を出し、生徒同士で話し合いをさせたりしながらその課題を協働的に考えさせるという授業をよく行っています。

しかし、このような対話型・課題解決型の活動をさせると、どうしても文章の細かい部分の読解がおろそかになってしまうと感じることがよくあります。先程の問題にもあったような、助詞や助動詞などの表現に着目し、そのはたらきをふまえて内容を正しく読み取ることを、生徒自身の活動や対話を通して実現させることはなかなか難しいです。もちろん、言葉の表現に着目しながら正しく文章を読む力を身に着けさせることは大切なことですし、国語の授業を通して身に付けさせるべき力であることは事実です。だから、これまでの授業を、スタイルを変えつつも、文章を理解するときに言葉のどこに着目するべきなのかをきちんとおさえていくためにどうすればよいかを考えて行かなければいけません。それはわかっていても、なかなかそこまで到達できていないなと感じることが多いのが現状でもあります。

このような2つの経験から、先程の「正答率57%」という結果に驚くことはありませんでした。

おわりに

だから「あの問題はできなくても仕方ない」と言いたいのではありません。私が言いたいのは、文章を正確に読む力をつけていく力をつけつつ、授業に生徒を主体的に取り組ませるためには、今までと同じようなことをやっていてはだめだ、ということです。

そこで、今回から半年間、全9回の連載を通して、「読解力」をつけるための国語の授業について考えていきたいと思います。

熊井 直子(くまい なおこ)

小平市立小平第五中学校 主任教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。

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