2019.12.28
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言葉のちからを育てる国語教育 ―3つの発問で物語の理解を深める―(5)

前回の記事では、物語をとらえるための枠組みとして、「起承転結」だけでなく、
①この物語では主人公にどのような事件が起こったり課題が与えられたりしているか。
②主人公は、その事件や課題をどのように解決したのか(またはしなかったのか)。
③その結果主人公は物語のはじめと比べてどのように変化したか(またはしなかったのか)。
という3つの問いが有効であるということをお話しました。今回は、私がこれらの枠組みを授業の中でどのように活用しているかについてお話します。

小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子

1つの単元の中にたくさんのことをつめこみすぎないことが大切。

授業を組み立てていく上で大切なことは、1単元で全てを教えようとしないことです。最終的な目標はどこにあるのかを忘れず、そのためにはまず何から教えていけばよいのかということを整理する必要があります。
今回の場合は、「様々なジャンルの文章のうち、物語を自分で要約して語れる力を身に付けさせる」ということが最終的なゴールです。そのために、私は中学1年生では次のようなステップを踏みます。(教材は全て光村図書「国語1」のものです。)

最も基本的な物語の形は、「主人公に外部から課題や試練が与えられ、それをなんとか解決する」「その過程で主人公は成長する」というものです。しかし、全ての物語がその形をとっているわけではありません。主人公自身の考え方や性格に課題がある場合や、課題が解決しない場合もあります。
生徒に「課題」「解決」「成長」の観点を与えることによって、複数の物語を比較するための基準ができ、物語の展開が全て同じではないことを生徒自身が発見していくことが可能となります。
では、今回は私が中学1年生のはじめに「花曇りの向こう」をどのように解釈して授業の中で扱ったかをご紹介します。

主人公に外部から与えられた課題を見つけ、それがどう解決されたかを考える。

物語において最もわかりやすい課題は、「いきなり目の前に桃が流れてくる」「機を織っているところを決して見てはいけないと言われる」などの、外部から与えられるものです。主人公のそれまでの日常を崩す外的な力と言い換えても良いかもしれません。
光村図書「国語1」の最初に出てくる物語「花曇りの向こう」の主人公明生に与えられる課題は「転校」という自分の力ではどうすることのできないものです。
「主人公は今どのような問題を抱えていますか?」と発問をすれば、生徒からは「転校して友達がいない」という答えが返ってきます。丁寧に説明をすると以下のようになります。

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主人公の明生は転勤が多い父親について小学校から3回も転校をしており、今回も中学入学と同時に引っ越しをして、新しい環境で友達と呼べるようなものがなかなかできません。クラスメイトの川口くんがよく話しかけてくれますが、明生はうまく答えることができません。
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では、その課題を解決することはできたのか。
生徒に「この物語を通して主人公は、最初に抱えていた問題を解決することはできたと考えますか?」と発問をすると、「できた……ような気がする」という不安気な答えが返ってきます。それは、この物語の中では主人公は友達と呼べる人を作れたかどうかまではっきりと描かれていないからです。
でも、最後の駄菓子屋の場面での川口君との会話や「でも、僕が手に提げた小さなふくろの中にはあまずっぱい梅干しがちゃんと入っている」という表現から、明生と川口君の関係はこれまでよりも少しだけ前に進んだということは読み取れます。「問題を解決できたような気がすると、文章のどこをもとにして考えましたか」「問題を解決できたと自信をもって言えないのはなぜですか」などと言った発問を付け足すことによって、生徒自身がこの物語の表現にしっかり着目して理由を探そうとし始めます。

おわりに

このように、
「主人公は今どのような問題を抱えていますか?」
「この物語を通して主人公は、最初に抱えていた問題を解決することはできたと考えますか?」
「問題を解決できたような気がすると、文章のどこをもとにして考えましたか?」
という3つの発問を中心に据えることで、中学校に入学して最初の物語の単元として土台をつくり、次の「花曇りの向こう」「少年の日の思い出」につなげていくことができます。
最初に、どのような枠組みで物語を考えさせようとしているかを授業者自身が明確にし、生徒に考えさせながら定着させていくことが大切なのだと私は考えています。

熊井 直子(くまい なおこ)

小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。

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