言葉のちからを育てる国語教育 ー「物語の構成をとらえるための枠組み」について考えるー(No.4)
前回の記事では、「文章を読んで理解できた」状態とは「様々なジャンルの文章にどのようなことが書いてあったのかを要約して説明できること」であるとし、そのような力を身につけさせるためのポイントとして「文章をとらえる枠組み」を挙げました。今回は、この「文章をとらえる枠組み」について具体的にお話したいと思います。まずは、物語(文学的文章)から......。
小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子
物語をとらえるための枠組みは「起承転結」だけで良いのか
物語をとらえる枠組みとして「起承転結」が一般的にもよく知られていると思います。
「起承転結」は、もともと漢詩の「起句」「承句」「転句」「結句」に由来しています。物語をとらえる上では、
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起:設定の説明+物語が動き出す【きっかけ】になるできごとが起こる。
承:本格的に物語が動き出して、どんどん話が進んでいく。
転:物語の流れが変わるできごとが起こる。
結:物語をしめくくる。
(「起承転結の例|15個の例とわかりやすい起承転結の解説」より引用)
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という構成になっています。
たとえば、昔話の「つるの恩返し」であれば、以下のとおりです。
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起:おじいさんが、わなにかかっていたつるを助ける。後日、若い娘がおじいさんの家においてほしいと言ってやってくる。
承:娘が機を織りたいが、「織り上がるまでは決してのぞかないように」と言う。織り上がった織物はとても素晴らしいもので高く売れる。
転:どうしてこんなに素晴らしい織物が織れるのかと不思議に思ったおじいさんは、娘の言いつけを破り、機を織っているところをのぞいてしまう。
結:娘は実はおじいさんが助けたつるだった。娘は正体がわかったからには別れなければならないと出て行ってしまう。
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「起承転結」は物語の構成をとらえる上では基本の枠組みであり、私もこの「起承転結」を用いて授業を行ったこともあります。物語について学ぶ上で、はじめに「起承転結」をおさえることが必要である、とも考えています。しかし、授業を重ねるうちに、「起承転結」という枠組みだけで物語をとらえることはできないという結論に至りました。
その理由は、物語全体の構成をとらえる、という本来の目的を越えて、どのようにして物語を「起承転結」の4つに分けるかというところに生徒たちの興味が集中してしまう、という点です。
たとえば、先ほどの「つるの恩返し」では、「後日、若い娘がおじいさんの家においてほしいと言ってやってくる。」という部分を「起」に入れました。でも、「おじいさんがつるを助けた」ことだけを、物語の「きっかけ」となる出来事、ととらえると、この部分を「承」に入れても良いのではないか、という考え方もできます。そうすると、「後日、若い娘がおじいさんの家においてほしいと言ってやってくる」という部分は「起」に入れた方がいいのか「承」に入れた方がいいのか、という問題が持ち上がります。
確かに、ある一文を取り上げて、その一文が文章中でどのような働きを果たしているのか、どこから場面が転換しているのか、などを考えた方が良い場合もあります。しかし、中学生が物語の構成をとらえるという目的において、「後日、若い娘がおじいさんの家においてほしいと言ってやってくる」という部分が「起」に入ろうと「承」に入ろうとそんなに大きな違いはない、と考えています。むしろ、ひとたびここをつつきはじめると、「では『転』はどこからどこまでなんだ!?」「何ページの何行目で切れるんだ!?」と、ヒートアップしていってしまいます。同様のことは、説明的文章の「序論・本論・結論」などでも起きることがあります。これまで国語の授業をしたことがある先生なら一度は経験があるのではないでしょうか。
このような経験を経て、物語を「起承転結」という枠組み“だけ”でとらえさせることは果たして有効なのだろうか、という疑問を持つに至りました。そして、どのような枠組みを示せば、物語の構成を理解し、自分の言葉で説明することができるようになるのかを考えてみました。
何も事件が起こらない物語はおもしろくない
そもそも「物語」に必要な要素とは何でしょうか。よく「物語の三要素」と呼ばれるのは、「人・もの」「場所」「時間」です。この三つの要素が物語の場面を形づくります。昔話に共通する導入「むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。」もこの三要素を含みます。
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むかしむかし(時間)、
あるところに(場所)、
おじいさんとおばあさんが(人・もの)
いました。
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では、こんなお話はどうでしょう。
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むかしむかしあるところにおじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へしばかりに、おばあさんは川へせんたくに行きました。お昼になったのでおじいさんは一度家に帰り、おばあさんと一緒にお昼ごはんを食べました。そして、午後、ふたりはそれぞれの仕事へと戻りました。
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うーん。「それで?」と言いたくなりそうです。これをこのように変えてみるとどうでしょう。
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むかしむかしあるところにおじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へしばかりに、おばあさんは川へせんたくに行きました。お昼になったのでおじいさんは一度家に帰りましたが、一緒にお昼ごはんを食べるはずだったおばあさんがいつまでたっても帰ってきません。心配になったおじいさんが川へおばあさんを探しに行くと、そこにはおばあさんの姿はなく、大きな桃が浮かんでいるだけでした。
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さあ、おばあさんはどこへ行ってしまったのでしょうか。そしてこの大きな桃とおばあさんとの失踪とは関係があるのでしょうか。そもそも大きな桃は一体なぜ川に浮かんでいたのでしょうか。……と次々と疑問が浮かびます。
物語を語ることは、何らかの「事件」や「問題」をどう解決していくのかということを語ることです。先ほどのつるの恩返しでも、突然娘がやってくる、という日常を破る出来事が起こり、なおかつ「機を織っているところを決してのぞいてはいけない」という課題が与えられています。このような事件が起こったり課題が与えられたりするからこそ、続きが読みたくなり、おもしろいと感じるのだと思います。
このことから、物語の構成を捉えるにあたって、念頭に置いた方がいいのは、
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①この物語では主人公にどのような事件が起こったり課題が与えられたりしているか。
②主人公は、その事件や課題をどのように解決したのか(またはしなかったのか)。
③その結果主人公は物語のはじめと比べてどのように変化したか(またはしなかったのか)。
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という三つの問いであると考えます。この三つの問いは、どの物語にも当てはめることができますし、「どこからどこまでが事件で……」などと分かれ目を気にする必要もありません。
ちなみに、この問いの立て方は、ソーンダイクの「物語文法」にも共通しています。ソーンダイクは、物語は、「設定(setting)」、「主題(theme)」、「筋立て(plot)」、「解決(resolution)」の4つの部分に分けることができるとしました。
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「設定(setting)」 : 時、場所、人物
「主題(theme)」 : 事件と主人公の達成すべき目標
「筋立て(plot)」 : 一連のエピソード
「解決(resolution)」 : どのような状態になったか
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という風に定義されていますが、「設定」は物語の三要素、「主題」は「①この物語では主人公にどのような事件が起こったり課題が与えられたりしているか。」、「筋立て」は「②主人公は、その事件や課題をどのように解決したのか(またはしなかったのか)。」、「解決」は「③その結果主人公は物語のはじめと比べてどのように変化したか(またはしなかったのか)。」に通じています。より専門的に知りたい方は、ぜひソーンダイクをはじめとする「物語文法」について調べてみてください。
おわりに
今回は、物語の構成をとらえる枠組みとして「起承転結」だけではなぜだめなのか、「起承転結」以外にどのようなとらえ方があるのかということについてお話してきました。次回は、この「人物に与えられる事件、課題」を起点として行った授業について、さらに具体的にご紹介したいと思います。

熊井 直子(くまい なおこ)
小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。
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