2019.11.18
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言葉のちからを育てる国語教育―「文章が読める」ってどういうこと?ー(No.3)

前回は、読解力を高める授業のひとつの例として、授業中の生徒とのやりとりを通してどのように文章中の表現に目を向けさせるか、ということについてお話しました。しかし、そもそも「文章が読める」とはどういうことなのでしょうか。「文章を読んでいる」とき、私たちの頭の中ではどのようなことが起こっているのでしょうか。もう一度根本的なところに立ち返ってみたいと思います。

小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子

文章を読んで理解できた、とはどういうことなのか

「読解力」を高めるためにどのような授業をしたら良いか、ということを考える上でまず必要なのは、そもそも「読解力」とはどのような力なのかを整理することなのではないかと考えました。「読解力」をもう少し平たく言うと「文章を読んで理解すること」となります。でも、このとき、
①文章とはどのような種類の文章で、どの程度の長さのものを指すのか?
②「文章を理解できた」状態というのはどのような状態を指すのか?
という疑問が浮かびます。
まず、「①文章とはどのような種類の文章で、どの程度の長さのものを指すのか」ということに関しては、正直明確な答えは出せない問いだと思います。「社会に出た時に必要とされるあらゆるジャンルの文章」かつ「短いものから長いものまであらゆる長さ」に応用がきく力を身につけられることがベストであるのは言うまでもありません。
中学校段階の国語という教科として限定するならば、「説明文」「論説文」「評論文」「物語」「小説」といったジャンルの文章で、教科書に載っている程度の長さから、本1冊200ページ程度の長さを読んで理解する力を身に付けさせたいところです。
続いて「②『文章を理解できた』状態とはどのような状態を指すのか」ということについて、私は読んだ文章の内容を要約して説明できることなのではないかと考えています。授業の中では「教員が示した問いの答えを生徒が考える」という活動が多いですし、テストでは空欄抜き出し問題や記号選択問題で文章の一部の理解度を確認することが中心となっています。でも、与えられた問いに対して答えることができた、という状態は果たして文章全体を本当に理解できたと言うことができるのでしょうか。「この文章に書かれているのは、こういうことだ」と、自分の言葉で説明できなければ、本当に理解しているとは言えないのではないかと思います。
これらのことから、「文章を読んで理解できた状態」を、「200ページ程度の様々なジャンルの文章にどのようなことが書いてあったのかを要約して説明できること」とし、このような力を身につけさせるためにはどうしたら良いのかを考えてみたいと思います。

読んだ文章の内容を要約して説明するためにはどうすればいいのか

とはいえ、「この文章を要約すると、つまりどういうことですか?」という問いは、生徒にとって答えることが難しい問いです。なぜなら、要約するというのは、文章を読んで内容を把握するインプットと、それを自分の言葉で表現するというアウトプットのふたつの過程を経てはじめてできることだからです。
では、どのようにすれば要約する力を身につけることができるのか。
私は、インプットをするにしてもアウトプットをするにしても、「型」を知るということがまず大切なのではないかと考えています。
文章理解の研究においては、人が文章を読んで理解するのには、語から文、文章へと理解を積み上げていくボトムアップの理解の仕方と、文章の全体構造や内容に関する知識などをもとに文章の細部を検討していくトップダウンの理解の仕方とがある、と言われています。このうち、「トップダウンの理解の仕方」として代表的な研究が「物語スキーマ」の研究です。「スキーマ」とは、あるものごとをとらえるための思考の枠組みのようなもので、「物語スキーマ」とは、この「スキーマ」の中でも、特に物語の構造をとらえるための枠組みのことです。
この「スキーマ」という枠組みは、文章を理解するときだけでなく、どのような内容だったのかを説明するときにも活用することができると思います。文章を要約するというのは、自分が読んだ文章の内容を、ある型にあてはめて説明し直すということだと言えるのではないでしょうか。

難しい言葉をつかったけれど…

「スキーマ」という言葉を使いましたが、これは説明文で言えば「序論・本論・結論」、物語で言えば「起・承・転・結」と同じです。自分が読んだ説明文を「序論では○○ということからはじまり、本論で○○と言う具体例を出して説明し、これらをもとに、最後に○○という結論を述べている」というような形で説明し直すことができれば、「本当に文章が理解できている」と言うことができると思います。この枠組を、文章を読む時にどれだけ意識して使うことができるかが大切です。
次回は、実際にどのような形でこの「文章をとらえる枠組み」を授業の中で取り上げているかについてご紹介したいと思います。


熊井 直子(くまい なおこ)

小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。

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