2019.06.19
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「これから10年の教育」を考える~これからの教育を考えるきっかけをくれる本~(No.4)

前回までは新学習指導要領の方向性についてまとめてきました。今回は、記事を書くにあたって私が参考にしていた本や、最近読んだ教育関連書をご紹介しながら、考えたことや実践してみたことについてお話します。

小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子

インターネットだけでなく本からも意識的に情報収集を・・・

前回までは、日頃の業務に追われているとなかなか自分から情報を得ることができない(私だけでしょうか…)新学習指導要領の方向性について整理してきました。記事を書くにあたっての引用元としたのは、平成28年の「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」です。学習指導要領解説を参考としても良かったのですが、もう少し根本的な所から知りたいと思い、自分の勉強も兼ねて中央教育審議会答申に当たってみました。

そこでふと、皆さんは普段教育に関する情報をどのように入手しているのだろうか、ということが気になりました。というのも、自分自身を振り返っても、情報収集のための主な手段はインターネットになっているからです。もちろん、この「学びの場.com」も、情報を入手するツールとして非常に優れた場であると思います。ですが、自分に必要な情報や興味のある情報を検索したりすぐに入手したりできるインターネットだけでなく、まとまった背景や知識が整理されている本を読んで考えないと、なんだか不完全燃焼な気持ちになりませんか。今回は、新学習指導要領やこれからの教育のことを考えるにあたって私が最近読んだ本についてご紹介したいと思います。

「中教審答申解説2017『社会に開かれた教育過程』で育む資質・能力」

無藤 隆+『新教育課程ライブラリ』編集部(ぎょうせい/ 2017)

前回までの記事を書くにあたって参考にしていた本です。学習指導要領改訂の基本的方向性について解説されている第1部、各学校段階、各教科等における改訂の具体的な方向性について書かれた第2部、各教科・科目等の内容の見直しについて書かれた第3部に分かれており、最後に資料として中央教育審議会答申の全文が掲載されています。

学習指導要領そのものを読むだけでは見えてこない改訂の方向性を知ることができるし、自分が担当している校種と教科以外のことにも触れられるのが良いと思いました。何より、中央教育審議会答申を読むと、これから学習指導要領が何を目指そうとしているのかがよく分かることに改めて気づきました。

この本は、最初から順番に読んでいくというよりも場合に応じて必要な箇所を読む辞書のような位置づけではありますが、1冊でよくまとまっていて重宝しています。

「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」

新井 紀子(東洋経済新報社/2018)

2019年ビジネス書大賞を受賞した本なので、すでに読破された方も多いかもしれません。読解力がない人間はAIに仕事を奪われる、そして、子どもたちは学校の教科書に書いてあることすら読解できていない、という煽りが刺激的な帯となっています。

私は教員になって12年目ですが、この約10年間でスマートフォンが中学生に一気に浸透し、インターネット環境のない家庭はなく、むしろ新聞をとっている家庭が激減する、という流れを見てきました。学校でも、班の数だけノートパソコンを配布して調べさせても接続が悪くてあちこちでインターネット接続が止まってしまう、というような状況から、教員がプロジェクターや書画カメラ、タブレット等のICT機器を活用して授業を行ったり、生徒自身がICT機器を利用して学習を進めたりするという状況までの変化も体験しました。次の10年間では、整ったICT環境の中で学校の授業が行われるという状況は当たり前となり、AIがいかに社会に浸透していくかによって、教育のあり方も働き方も大きく変わって行くことは確実であろうと考えます。

その中で、子どもに身に着けさせるべき力はどのようなものなのかを考えるにあたって、この本は「読解力」というひとつの切り口を与えてくれます。ただし、この本で取り上げられている「読解力」に関しては、問題の文章がそもそも読みづらいものになっていないかという点についての指摘もあり、両手を挙げて賛成できるとは思っていません。ですが、私自身が国語の教師ということもあり、これまで自分が授業をする中で身につけさせようとしていた「読解力」に対する捉え方はまだまだ漠然としたものであることを気づかせてくれる本でした。

「2030年教師の仕事はこう変わる!」

西川 純(学陽書房/2018)

「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」を読み、改めてこれから社会が変わっていく中で、教師という仕事には果たして何が求められるようになるのかを知りたいと思って手にした本です。この本は、「最終的に必要なのは英語の4技能ではなく、多様な背景を持った海外の人とつきあう能力」「ネット動画を利用した授業が可能になる」「小中学校が独立行政法人化し、学校が激減する可能性がある」など、今現在ではなく、今後の学校教育を予想した本です。その上で、私たち教員にも、今のままの働き方では生き残っていけないのではないかという問題提起をします。本の最後にはこのように書いてあります。

では、生き残れる教師に必要な職能とは何でしょうか?それは校長に求められる職能です。自分が求めている校長が、子どもたちが求めている教師なのです。

確かにそうかもしれないと思う部分と、これを全ての先生に対して言うことはできないと感じる部分とがありました。また同時に、この本に書かれている変化はこの10年で本当に起こるのだろうかと疑問に感じたことも事実です。ただ、これからの未来を見通すためのひとつの視点を与えてくれる本であることもまた事実です。

「学校の『当たり前』をやめた。―生徒も教師も変わる!公立名門中学校長の改革―」

工藤 勇一     時事通信社

「2030年教師の仕事はこう変わる!」は、これからの未来予想について考えることができる本でしたが、この本は、現在進行で行われている公立中学校で実際に行われている実践について知ることができます。

担任制をやめる、宿題や定期考査をやめる等、公立の校長先生はこんな実践ができるだけの権限が与えられているのかという新たな発見もありましたし、これまで学校で行われてきた形骸化した伝統を時代に合わせて変えていくという取り組みは非常に興味深いものがあります。その中で私が最も共感したのは、「思考を言語化することを重視する」ということです。友達との関係で悩む生徒に対して教員が行うべきは「なぜ友達とうまくいかないのか」「これから友達とどうしていきたいのか」を子ども自身に言語化させるように意識的に指導を行うことだと言います。学校教育においても、子ども自身においても目的と手段を言語化することを重視しているのだなということを感じました。

また、運動会や合唱コンクールといった行事の後に書かせる作文には何の意味も見いだせないから廃止した、という点も興味深いと思いました。確かに、国語の授業で書くことを指導する時には、誰に対して何の目的で書くのかということを明確にしていますが、行事作文の目的は、子どもが行事でどのようなことを感じたかを教師がみとることにあるように思います。読み手を教師に設定してしまうと、構成や結論も画一的なものになってしまいがちです。

そこで、この本を参考に、私は授業ではなく学活等で書かせる作文では、文体を生徒自身に選ばせるという方法をとっています。例えば次のようなものです。

①未来の自分にお手紙バージョン

これは、読者を未来の自分、目的を今現在考えていることを忘れないように記録すること、と設定しています。一度は担任に提出させるので、ある程度「先生にも読まれる」というバイアスはかかりますが、ただ「作文を書きなさい」というだけでは出てこない子ども自身の素直な本音が表現されることが多いです。また、話し言葉になるので、書き言葉で長文を書くことに抵抗感を覚える子どもにとっては、楽しく長く書くことができる文体だと思います。

②高校入試作文バージョン

これは、入学試験や就職試験で求められる「経験から何を学んだか」ということを言語化する練習をするための設定です。読者は担任、志望校の先生などと考えて書きます。これまでの行事作文の形に最も近いのがこの②なので、選択する生徒が多いです。行事の前の自分がどうだったか、どのような経験が自分に大きな影響を与えたか、そこから何を学んだか、という序論・本論・結論の形式に当てはめやすいので書きやすいのではないかと考えます。

③物語風バージョン

これは、経験したことを物語にするという遊びの要素の強い設定です。あるひとつの場面を取り上げて情景などを細かく描写しても良いですし、起承転結をつけて「転」の部分を臨場感あふれるクライマックスに仕上げても構いません。物語が好きな子どもや、少し違うものに挑戦したい子どもが選ぶことが多いです。視点も自分以外の一人称視点や三人称視点で書くと文学度がぐっと上がって良い作品に仕上がります。

このように、今ある「伝統」をなくすことはできなくても、アレンジを加えることで子どもが楽しんで取り組めたり、新しい力をつけたりする実践に変えることはできるのではないかと考えています。

おわりに

今回は、これからの教育について考えるために読んだ本4冊と、それを参考に実践してみたことについてご紹介しました。本を読む時間を取ることができない時もありますが、やはり時々は本を手にとってじっくり読んだり考えたりすると、自分の実践にいかすことのできるアイディアを得ることができるなと感じています。本を読むことの良さを知っていると、子どもに読書を薦める時の説得力にもつながると思います。今後も意識的に本を読む時間を大切にしていきたいものですね。

熊井 直子(くまい なおこ)

小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。

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