2020.01.20
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言葉のちからを育てる国語教育 ー比べることで読みを深めるー(6)

前回の記事では、物語をとらえるための枠組みを実際にどのように授業で活用しているかについてご紹介しました。前回は、光村図書「国語1」の文学教材「花曇りの向こう」についてお話しましたが、今回は、その次の文学教材である「星の花が降るころに」を用いて、どのように段階を踏んで指導しているかについてご紹介します。

〈物語をとらえるための枠組み〉

①この物語では主人公にどのような事件が起こったり課題が与えられたりしているか。

②主人公は、その事件や課題をどのように解決したのか(またはしなかったのか)。

③その結果主人公は物語のはじめと比べてどのように変化したか(またはしなかったのか)。

小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子

前の単元で教えたことを踏まえて次の単元を考える。

国語の授業の単元は、大きく「読む」「聞く・話す」「書く」「言語事項」の4つに分かれ、これを1年間に5~6周するイメージで進んでいきます。ですので、前の単元で何を教えたかを自分で整理して把握しておかないと、次に同じ分野の単元が巡ってきたときに、何を教えたら良いのかがわからなくなってしまいます。常に、「最終的にどのような力を、なぜ身に付けさせないのか」を念頭に、「前回までの既習事項」「生徒の実態」「指導要領上の指導項目」をふまえながら授業を考えていかなければなりません。

今回の場合は、「文学的文章」を「読む」力を身に付けさせるための授業の2回目です。前回の「花曇りの向こう」の授業で教えてあることは、

*物語には「主人公に与えられる課題・事件」「課題・事件の解決の有無」「主人公の変容、成長」という3つの分析の観点があること

*「主人公に与えられる課題・事件」が「解決する」という最も一般的なパターンの物語の構造を把握すること

の2点です。これを踏まえて、次の「星の花が降るころに」でレベルアップさせることができる点は、

*初読の段階で、自分自身で「主人公に与えられる課題・事件」を読み取る。

*「課題・事件」が「解決しない」物語もあるということを知る。

*「解決しない」ことにどのような意味があるのかを考える。

の3点です。生徒にとっては久しぶりの文学的文章単元になるので、最初に前回の「花曇りの向こう」で学習したことを簡単に振り返ることで、物語をとらえるための枠組みを生徒の中に定着させていきます。

すでに教えてあることを考えるときは「自分たちで」

教材を最初に読むときは、教師による「範読」、生徒による「音読」または「黙読」の大きく3つの読み方があります。私は、基本的に課題を与えた上での生徒による「黙読」をさせることがほとんどです。今回の「星の花が降るころに」では、前回の「花曇りの向こう」で一緒に学習した課題、「主人公にはどのような課題・事件が起こったか」「その課題を主人公は解決することはできたのか」の2問を出し、生徒自身で考えさせます。

少し話がそれますが、定期考査の作問もこれと同じように行っています。授業で一緒に読んだ文章を定期考査で出題することはほぼありません。なぜなら、本当の意味で「文章を読む力がついた」と言えるのは、授業で学習したことを他の文章に応用することができたときだからです。とはいえ、定期考査のときだけいきなり初めて読む文章で問題を解くというのも酷なので、初見の文章を読み慣れるという点からも、単元の最初は、課題を与えて教材を黙読させています。

今回の「星の花が降るころに」で主人公に与えられる課題が「花曇りの向こう」と似ている「中学校での人間関係の悩み」であることもポイントです。いきなり全く異なるタイプの教材を持ってくるのではなく、前回と共通点をもつ教材を持ってくることで、最初から「わからない……」と心を閉ざさないようにしています。こうした教材の見極めも、単元間の連続性をもたせるためには大切なことです。

違いを見つけることで自然と文章を比べる習慣をつける

さて、「花曇りの向こう」と「星の花が降るころに」の最も大きな違いは、主人公が課題を解決できるのかどうかという点にあります。引っ越しをしたおかげで中学校入学後3週間たってもなかなか友達ができない主人公明生が、最後は隣の席の川口くんと少しだけ話ができるようになる、という課題に対する改善の兆しが見える「花曇りの向こう」に対して、「星の花が降るころに」では、親友だった夏実とクラス替えで疎遠になってしまった主人公ですが、結局夏実との仲直りはかなわない、という「課題が解決しない」物語です。

「友達関係がうまくいかない」という似たような課題に対する結末がそれぞれ異なるので、「花曇りの向こう」をすでに学習した内容として基盤に置くことで、「星の花が降るころに」の特徴が際立ちます。

「『星の花が降るころに』では、『花曇りの向こう』とは違って、友達と仲直りすることはできませんでしたね」

と違いを確認したあと、

「では、この話は悲しいお話なのでしょうか?」

「では、主人公は何の成長もしなかったのでしょうか?」

「では、この話には何の意味もないのでしょうか?」

などの発問をつなげることによって、この物語自体の読み取りが深まるのです。

ここに「物語をとらえるための枠組み」を共通して文学的文章の単元で用いることの意味があります。枠組みの基準があると、複数のものを比較することができます。比較すれば必ず共通点と相違点が見つけられます。その共通点と相違点をもとに、教材として取り上げた文章の読解を効果的に深めることができるのです。ちなみに、この「星の花が降るころに」は「銀木犀」が夏実との思い出の象徴として用いられている文章ですが、上記の発問からこの「文学的文章における象徴」という指導事項へとつなげることもできます。

おわりに

今回は、前回ご紹介した「花曇りの向こう」の授業を次の「星の花が降るころに」にどのようにつなげていくのかという点についてお話してきました。既習事項を踏まえることで文章の比較ができる、という点が今回のポイントでした。次回は、このふたつの授業の積み重ねがどのように最後の文学教材単元である「少年の日の思い出」へつながっていくのかという点についてご紹介したいと思います。

熊井 直子(くまい なおこ)

小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。

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