2019.09.04
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

「これから10年の教育」を考える~フィンランドの高校国語科授業の実践③~(No.8)

前回は、教室や学校の外で学ぶ機会の多いフィンランドの授業の様子についてご紹介しました。このような体験型の授業ができるのも、その授業を通してどのようなことを学ばせたいのか、そして、その学びにはどのようなスキルや能力が必要なのかということを細かく分解して考えられているからです。今回は、フィンランドの中学校や高校で知識・技能面の指導がどのように行われているかについてご紹介します。

小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子

義務教育段階から徹底して行われる「批評」の授業

「National Core Curriculum」というフィンランドの「学習指導要領」を開くと、国語の授業の指導項目は大きく「話すこと」「読むこと」「書くこと」「言語事項及び伝統的な文化に関する知識理解」の4つに分かれ、日本の国語の領域とあまり変わらないことがわかります。

異なるのはその目標とするところです。例えば、7年生から9年生(日本の中学1年生から3年生)の「読むこと」の指導目標には「テキストの理解、解釈、批評に必要な方略を向上させる」「多様なジャンルの文章を解釈したり評価したりする機会を与える」という文言があり、「批評」「評価」という活動が強調されています。「書くこと」の指導目標では、「自分の考えを効果的に表現するためにどの文章のジャンルが適切かを選ぶ」というように、「読むこと」で学習したことを活かすものもあります。

さらに、どの項目にもあるのが「自分自身の力を自己評価する力を育てる」という目標です。自分は今何ができていて何が課題なのかということを、生徒自身が振り返ったり生徒同士で話したりして、目標を明確にすることによって、学習にも受け身ではなく主体的に取り組ませようという意図が読み取れます。

以前の記事にフィンランドの先生が「なぜ授業の目標を先生が設定するの?目標は生徒一人一人違うものでしょ」と言っていたということを書きましたが、この「目標は生徒一人一人違う」、さらに言えば「目標とは生徒自身で設定するものである」という考え方は、学習指導要領の目標の中に書かれていることだったのです。

フィンランドの国語の教科書は言葉を扱う「武器」を与えてくれる

では、このような学習指導要領のもと授業はどのように行われているのか。

教科書は国で定められているわけではなく、教員が自由に選びます。ただし、何種類もの教科書があるわけではなく、国語は「SÄRMÄ」という教科書がメインです。先生は、自分で教材やワークシートを作って授業をすることもありますが、私が見学した中では教科書を中心に授業を進めている様子が多く見られました。

日本で授業研究をしていると、「教科書『を』教えるのではなく教科書『で』教えることを目指しましょう」という言葉をよく耳にします。もちろんフィンランドの先生も教科書の中に書いてあることだけを教えているわけではなく、教科書を通して学んだことが何につながっていくのかということを考えながら授業をしています。しかし、教科書を使うときの様子は「教科書『を』教えている」ように見えるのです。というのも、教科書に書いてある内容を読み、教科書に書いてある課題に取り組ませている様子をよく見たからです。不思議に思って教科書を見せてもらうと、理由がわかりました。フィンランドの国語の教科書は、言葉を使うスキルを身に付けさせるためのドリルになっているのです。

文章の書き始めや書き終わりの方法について授業で習ったことはありますか?

日本の教科書も随分変化してきましたが、現在教師として教壇に立っているような年齢の方が中学生や高校生の時に使っていた教科書は、「ドリル」というより「作品集」と呼んだ方が良いようなものだったのではないかと思います。ページの多くを占めているのは文章であり、書くことや話すことなど言葉を扱う上での知識や技能についての内容はそれほど多く載っていなかったのではないでしょうか。

フィンランドの教科書は逆です。今私の手元にある7年生(日本の中学1年生)の教科書には「書くこと」「話すこと」「文法」についての内容に約130ページが割かれているのに対し、「読むこと」特に「文学」について割かれているのは約40ページ。わずか三分の一です。

中でも特に多くの紙面が割かれているのは「書くこと」についてです。

例えば「文章の書き始めと書き終わり」について。まず、書き出しの例が6種類紹介され、その後に「次の5つの書評の書き出しに良いと思う順位をつけてその理由を説明しなさい」「テーマをひとつ選び、3種類の異なる書き出しを書きなさい」などの課題があります。

書き終わりについても同様に、4種類の書き終わり例が紹介され、その後に「次の3つの文章の書き終わりから、全体のテーマが何だったのかを考えなさい」「『これまでの自分の人生』というテーマで書かれた文章の最後の段落だけを書きなさい」などの課題が載っていました。

作文の授業は日本でもありますが、書き出しと書き終わりについてだけをこのように集中的に練習するということはあまりないのではないかと思います。ですが、国語教師として指導にあたっていると「どのように書き出したら良いかわからない」「途中まで書いたはいいものの、うまく文章を終わらせることができなかった」という生徒の様子もよく見ます。もしもこれらの声に応えるために書き出しと書き終わりの指導をしようと思ったら、自分自身で教材を作るしかありませんが、フィンランドのように教科書に書き出しや書き終わりの例がたくさん載っているというのは非常に助かります。他にも「タイトルのつけかた」「段落の分け方」「文章構想」「描写の仕方」「定義の仕方」など、文章を書く上で必要な知識や技術が多く取り上げられているのがフィンランドの国語の教科書なのです。

スキルの定着から活用へ

このように、教室の中では言葉を使うスキルを定着させ、その上でそれらのスキルを活用する場面を設ける、というのがフィンランドの国語の授業スタイルです。

例えば高校1年生の、メディアや新聞等の報道の仕方について学習する単元。生徒は新聞紙面にある様々な文章のスタイル、紙面構成の仕方などについて学習をします。それと同時進行でひとり1冊ミステリー小説を授業外の時間を使って読み進めます。そして、単元の終わりに自分が読んだミステリー小説の内容を、新聞で報道するという形式でまとめるのです。

また、前回紹介した民俗資料館でドラマを撮影するという課題ができたのも、文学史や戯曲の書かれ方について学習する単元だったからです。
生徒は事前の授業でフィンランドの有名な文学作品についてその特徴をまとめたり、戯曲という表現方法にどのような特性があるのかを分析したりします。その上で実際にドラマを撮影することによって、戯曲で表現しようとしていることについての理解を深めることができるのです。

既習事項を意識した授業づくり

このように、フィンランドでは小学1年生から一貫して言葉を扱う上での知識・技能の定着に力が入れられています。これは、現在の日本の国語の授業でも求められていることです。次回は、これまで紹介してきたフィンランドの国語の授業とこれから日本が目指す国語の授業との共通点についてまとめていきたいと思います。

熊井 直子(くまい なおこ)

小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。

同じテーマの執筆者

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

この記事に関連するおススメ記事

i
pagetop