2019.08.19
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「これから10年の教育」を考える~フィンランドの高校国語科授業の実践②~(No.7)

前回はフィンランドの高校で授業を見学した時の第一印象についてお話しました。その際、「意外にも基本的には日本と同じ一斉授業であった」という点に触れさせていただきました。しかし、もちろん日本とは少し違う、または日本よりも少し先を行っている点もあります。今回はその点についてご紹介したいと思います。

小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子

先生が話して生徒が聞く、という基本スタイルは日本と同じだけど…

多くの教科では、生徒が前を向いて座り、先生の話をノートやパソコンで記録したり、質問に答えたりという形式がベースとなっています。しかし、フィンランドの先生たちが意識していることがあります。それは、

「生徒が体を動かす時間をつくること」

です。例えば詩の導入の授業では、クラスを6グループに分け、

  • 次の8つの詩を自分たちが美しいと思う順に並べ替えなさい。
  • 体の各パーツについての比喩を考えなさい。
  • この詩は何の物語をもとに作られているか考えなさい。
  • 「愛」をテーマにした詩を作りなさい。
  • などの6つの課題が置かれた机を、10分ごとにグループで回りながら考えていく、という活動を行っていました。

また、授業中のちょっとしたグループ活動でも、先生がふった番号ごとに集まって話し合いをするなど、「立って移動する」時間を作っていました。小学校や中学校では日本でもよくある光景かもしれませんが、これを高校で……となると、なかなかないのではないでしょうか。
「体が固まってしまうと頭も働かなくなってしまうから、時々体を動かしてリフレッシュさせることは大切」とある先生は言っていました。

教室の外に出ていく活動も日常的に行われている

先程の例は、教室の中に限定されていましたが、教室の外に出ていくこともOKです。例えば、

  • グループ発表のための練習をランチルームで行う。
  • レポートをパソコン室や図書室など自分の好きなところで書く。
  • 課題が学校の廊下に貼ってあるので、生徒は指定時間内でそれを巡ってくる。

などです。
時々学校の外に出ることもあり、市の図書館でオリエンテーションを受けるという国語の時間もありました。日本の大学の授業に近いものがあるかもしれません。

民俗資料館でドラマ撮影大会!?衝撃の校外学習

クオピオ市の民俗資料館"Eemilän Kotimuseo"

特に衝撃的だったのは、市の民俗資料館(…と言っても、屋外に昔の家を模した建物が立ち並び、それぞれの家の中に昔の暮らしを伝える道具が展示されているというもの)に皆で行って、そこを舞台にグループに分かれてドラマを撮影するというもの。

これは文学の学習のまとめとして行われた活動です。この単元では、生徒たちは物語の基本的な構成とはどのようなものなのか、フィンランドの代表的な文学作品にはどのようなものがあるのか、戯曲を書くためにはどのようなことを考える必要があるのか、などを学びます。

最終的に、生徒たちはグループに分かれて自分たちがどの文学作品をドラマにするのかを考えます。そして配役を決めたりとりあげる場面を決めたりして練習し、民俗資料館に行って実際に演技をしたものをiPadで撮影します。それを編集して完成した作品を皆で見ることになっています。

iPadで演技を撮影している様子

屋根の上で撮影しているチームもありました。

このような授業ができる理由

このような開放的な授業ができる理由は主に2つあります。

1つ目は、高校の授業のシステムです。クオピオ市の高校は5つの学期があり、各学期の最後に日本と同じような「期末試験」があります。しかし、この「期末試験」の実施方法は日本とは大きく異なります。というのも、1日に1教科しか実施しないからです。そのため、学期のまとめとして筆記テストを行う教科もあれば、1日かけてディベートを行ったり、上記のような校外活動を行ったりして評価をする教科もあるのです。

基本的に授業をどこでどのように行うかは授業を担当している教員に任されているため、活動の幅が広がるのです。実際に、上記のドラマ撮影の活動を行った先生は、かなりベテランの方でしたが、この取り組みは今回が初めてだと言っていました。生徒にとって効果的な学習を実現するために常に試行錯誤しているフィンランドの先生の姿勢が見られました。

2つ目は、これらの活動がきちんと授業で学んできたスキルや知識がいかされるような活動になっているということです。ぱっと見ると「自由で楽しそう」「のびのびしていていいな」と感じてしまいますが、これらの活動は、きちんと単元で学習したことがもとになっています。

今回のドラマの撮影も、フィンランドの文学や文化の学習、物語の構成についての学習、戯曲についての学習を事前に行っているからこそ意味のあるものとして成立するのです。ただ活動をするだけではなく、単元を通して言葉や文学に関するどのような知識や技術を教えるかという点が明確なため、このような校外活動を行う必然性や有効性が生まれるのです。

おわりに

今回は、日本ではなかなか見られない教室の外での学習活動について紹介してきました。すぐに取り入れることは難しいかもしれませんが、生徒が1時間ずっと椅子に座っているだけにしないよう意識することならできるのではないでしょうか。

次回は、これらの活動の根本にあるフィンランドの国語の授業における言語スキル指導についてご紹介できればと思います。

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熊井 直子(くまい なおこ)

小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。

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