2019.07.08
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「これから10年の教育」を考える~海外研修という選択肢~(No.5)

初任校に8年という長い期間所属していた私は、初異動を前に一度今までとは全く違う経験がしたくなり、1年間海外に住んでいました。今回は、その時にどのような経緯で海外研修に行ったのかという点を中心にお話します。

小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子

教員としての新しい視点を得るひとつの選択肢―海外に行く。

前回は情報収集のひとつの方法としての観点から、教育に関連する本の紹介をしました。読書以外にも「教員としての自己研鑽を積む」というと、研修を受けたりセミナーに出席したりすることがよくあるかと思います。私自身もこれまでいろいろな研修や教育のイベントに参加してきました。でも、教員になって7年目が過ぎた頃に、これまでとは違う視点に立ってみたいと思うようになり、「海外に行く」ということを考えるようになりました。そして2016年度、1年間フィンランドに住みながらフィンランドの高校や中学校の授業を見学したり、日本のことを教えたりするという経験をしてきました。

今回からは、この時の経験についてご紹介していきたいと思います。

海外に行く方法や期間は様々。自分の目的にあったものを選びましょう。

研修として「海外に行く」と言っても、探してみるとその方法は様々です。

  • 日本人学校で働く。
  • 青年海外協力隊に参加する。
  • 長期休み等を利用した短期留学をする。
  • 短期の海外視察に行く。

などがあります。そのため、「どの程度の期間」「なんのために」海外に行きたいのかによって選ぶものが変わってくるのではないかと思います。

私が海外に行きたいと思った理由は、「外国の学校で英語以外の母国語がどのように教えられているのかを知りたいから」でした。新学習指導要領では小学校での英語教育が教科化され、日本人の英語力向上の必要性がうたわれています。私は中学校で国語を担当しているのですが、日本語を扱う能力と英語を扱う能力の根本にある「言語を扱う能力」には共通しているものがあるのではないかとずっと考えており、「日本語」「英語」という言語の種類にとらわれない言語能力の育成を目指すべきなのではないかと思っています。また、真の「グローバル化」に必要なのは、自国の言葉を大切にすることなのではないかとも考えています。そこで、日本と同じように、「母国語が英語ではない国」で、その国の言葉がどのように教えられているのか」を知りたいと思うようになりました。

このように考えると、私の選択肢からは「日本人学校で働くこと」と「青年海外協力隊に参加すること」は消えました。では、私がやりたいことを叶えるためにはどうしたら良いかと探していたときに出会ったのが、「International Internship Programs」でした。

「International Internship Programs」とは?

「International Internship Programs」(以下IIP)では、以下のように様々な留学プログラムが用意されています。

  • 子ども達に日本のことを伝えながら海外の言葉や文化を学ぶ「スクールインターン」
  • 海外の企業で働いてみることができる「ワーク&カルチャーインターン」
  • 複数か国を短期間滞在して回る「ワールドクルーズ」
  • 教員のための海外プログラムである「海外教育交換プログラム」
  • 学生のための海外での教育実習を行う「海外教育実習プログラム」
  • 海外の大学で日本語教師として働く「カレッジプログラム」

私はこの中で、「海外教育交換プログラム」に応募しました。IIPのホームページには、このプログラムの概要として「教員や学校職員の方々が、海外の小学・中学・高校の客員教員として、子供達や生徒達に 現地の言葉で日本文化や日本事情を紹介しながら、その国における学習指導・ 教科教育・カリキュラム作成の方法などをつぶさに観察し、海外の教職員とも交流する海外研修」とあります。大学や大学院の教育学部に留学して現地の教育について学ぶよりも安い値段で、現地の教育実践を見学できるという点が魅力です。また、渡航する国は1カ国に限らず、複数カ国を選択して研修することもできます。さらに、このプログラムへの参加を「自己啓発等による休職制度」の対象として認めている自治体もあり、幸いなことに私が所属している東京都でも、このプログラムに参加する場合は休職制度を適用できるということで、応募することを決めました。

どのように研修先を決めたのか?

研修先については、参加者の希望・経歴・資格・語学力などと現地側の受入れ条件などを考慮したうえで、IIP が選定します。私の今回の研修にあたっての希望は、先にも述べたように「『母国語が英語ではない国』で、その国の言葉がどのように教えられているのかを知ること」でした。また、1つの国に1年間滞在したいと考えていました。春夏秋冬全ての季節を体験することで、その国のことがよくわかるのではないかと考えたからです。

その旨をIIPの担当の方に伝えると、「現地語ができなくてもある程度英語が通じること」「1年間のビザがとりやすいこと」の2点からフィンランドが良いだろう、ということになりました。フィンランドというと、2003年に実施されたOECDの学習到達度調査(PISA)で読解力が1位になったことから、その教育方法に注目が集まっていたことが思い出されます。国語の授業を見学するにはうってつけだということで、フィンランドで1年間研修することを決めました。

決定当時の海外経験と語学力はどの程度だったのか?

「研修を決めました」と言っても、現地でのコミュニケーションは英語です。私は英語科の教員ではないので、日常的に英語を使うこともありませんでしたし、教員になってからは、休み中はずっと部活動指導を行っていたので、海外旅行も全くしていませんでした。検定試験なども受験したことがなく、自分の語学力がどの程度通用するのかもわかりません。研修に行くことが実際に決まったのが前年度の夏頃でしたので、そこからNHKの英会話ラジオを聞いたり、オンラインで英会話や英作文の練習をしたりと、仕事の合間にちょこちょこと英語の勉強をしました。

そのような不安な状態で現地に行ったとき、私が最初に心がけたのは、できるだけ楽しく相手と話をすることです。たとえ自分の英語力に自信がなくても、現地の先生方とコミュニケーションを取ることは、生活していく上でも人間関係を形成していく上でも当然必要です。特に、良い人間関係を築くためには、相手と「楽しく会話をする」ことが大切だと考えました。

そこで私が力を入れたのは、

  • 相手の話をとにかく聞き取ること
  • 聞き取った話について何かしらのリアクションをとること
  • 聞いたことについてさらに質問をすること

の3つです。

会話の相手に自分と気持ちよく話をしてもらうためには、自分が話すよりも相手の話をきちんと聞くことが必要です。そして、自分の英語力にも限界があるので、「話す」ことよりも「聞き取る」ということにまず力を入れました。次に、”I see”や、”That’s great!”など、簡単なリアクションを入れるように心がけました。会話をしている相手から自分の発言に対して何のリアクションもないと、会話がうまく進まなくなると考えたからです。そして、さらに自分から話すことがなかったり、長い説明をすることに自信がなかったりするときには、質問をして相手にたくさん話してもらうようにしました。そうすることで、会話が途切れることなく進んでいくので、気まずい沈黙を避けることができました。

渡航当初、「ナオコは英語が上手だね!」とお世辞のように言ってもらいましたが、多少なりともそのように言ってもらえたのは、私の英語の技術が優れていたからではなく、「上手に見せかけるようなポイント」をおさえていたからだと思います。そして、この「上手に見せかけるようなポイント」とは、英会話に限らず、日常会話や話し合いの時にも同じことが言えると思います。帰国してから最初に持った学年では、話し合いの指導の時にまず、「会話に協力的な姿勢を示すこと」を指導しました。「視線」や「表情」、「相づち」の打ち方だけで、会話や話し合いを円滑に進めることができると実感しました。
このように、これまでとは異なる環境に身をおくだけで新しい発見があるのだということを知り、チャレンジすることの大切さを感じました。

おわりに

今回は、私が海外研修に行くまでの流れについてお話しました。私がとった手段以外にも「教員 留学」などと検索をすると、様々な方法が出てくるので、興味がある方は調べてみてはいかがでしょうか。次回は、実際にフィンランドの学校で体験したことや考えたことなどをご紹介したいと思います。

熊井 直子(くまい なおこ)

小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。

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