2019.05.15
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「これから10年の教育」を考える~これから必要な資質・能力とは~(No.2)

前回は、新学習指導要領改訂の基本方針として「社会に開かれた教育課程」、つまり「学校で学ぶことが社会とつながりを持っていること」があることを整理しました。今回は、「これからの社会を造る子供たちに必要な資質・能力とは何か?」をテーマに、中央教育審議会答申をふまえながら考えます。

小平市立小平第五中学校 主任教諭 熊井 直子

前回の内容

新学習指導要領の基本方針として重要になるキーワードは、

①「社会に開かれた教育課程」
②「資質・能力」
③「カリキュラム・マネジメント」
の3つです。

このうち最も根本的な概念として教員が考えるべきなのは、「社会に開かれた教育課程」=「学校で学ぶことが社会とつながりを持っていること」。つまり、教員一人ひとりが、「自分が教えていることは社会とどのようなつながりを持つことになるか」を意識する必要があるということです。

では、これからの社会を造り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自らの人生を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何なのでしょうか。今回も、まずは『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)[抄]』(平成28年12月21日中央教育審議会)の記述を中心としながらキーワード②「資質・能力」について整理してみたいと思います。

これからの社会を造る子供たちが身につけるべき資質・能力とは?

文部科学省は「資質・能力」という言葉を使っていますが、これからの社会の中でどのような力やスキルが必要であるかということについては、様々な角度、アプローチの仕方で多くの知見があふれているのが現状です。中央教育審議会答申では、そうした数多くの資質・能力についての考え方を分析してみると、次の3つに大別できるとしています。

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  • 例えば国語力、数学力などのように、伝統的な教科等の枠組みを踏まえながら、社会の中で活用できる力としての在り方について論じているもの。
  • 例えば言語能力や情報活用能力などのように、教科等を越えた全ての学習の基盤として育まれ活用される力について論じているもの。
  • 例えば安全で安心な社会づくりのために必要な力や、自然環境の有限性の中で持続可能な社会をつくるための力などのように、今後の社会の在り方を踏まえて、子供たちが現代的な諸課題に対応できるようになるために必要な力の在り方について論じているもの。

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複雑な表現になっていますが、端的にまとめると、これからの社会を造る子供たちが身につけるべき資質・能力とは、

  • 知識に関するもの
  • スキルに関するもの
  • 情意(人間性に関するもの) の大きく3つに分けることができる、とされています。

国際的にはどう考えられているのか?

そしてこの分類は、日本だけでなく国際的にも共有されているものです。

2016年5月に開催されたG7倉敷教育大臣会合における「倉敷宣言」の中にも次のような記述があります。

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予測困難な変化の激しい世界を生きる次世代が、自らが将来を作り出すことができるようにすべきとの認識のもと、与えられた課題に効率的に回答する力にとどまらず、自ら新たな問いを立ててその解決を目指し、他者と協働しながら新たな価値を生み出していくための力を身に付けていく必要があることを我々は認識する。

我々は、新たな時代に求められる児童生徒の資質・能力を育成していくためには、各国の実践や客観的根拠、またそれぞれ異なる国の様々な文化的、社会的、哲学的な背景を考慮しながら、全ての教育関係者が、例えば以下のような視点を教育実践の基盤として共有することが基本的な目標と考える。

  • What to know (acquiring knowledge) 何を知っているか(知識に関するもの)
  • How to use knowledge (acquiring competencies ) 知っていることをどう使うか(コンピテンシーに関するもの)
  • How to engage in society and live a better life どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか

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さらに、OECDの提示する「OECD Learning Framework 2030」の中でも、より良い社会を造るための能力として「Knowledge」「Skills」「Attitudes and Values」を挙げており、中央教育審議会答申や倉敷宣言で述べられていることと共通していると言えます。

私自身も2016年度に1年間フィンランドの高校や中学校で授業の見学を行っていたとき、確かに方法やシステムは違いますが、向かおうとしている方向は日本と変わらないと感じました。また、2018年の夏にヘルシンキ大学のサマースクールで教育学のコースに参加したとき、アメリカ、インド、イスラエル、エジプト、マレーシア、中国、台湾等の様々な国の先生や研究者と各国の教育やこれからの教育について話す機会がありました。そのときにも、どの国の先生と話しても「知識偏重ではなく、持っている知識をいかに活用するかが大切」「学ぶことを楽しむ気持ちや自分から学びたいという姿勢を育てたい」などの発言があり、目指す教育の根本は共通していました。

「知識」「スキル」「情意」の三要素をもとにした「資質・能力の三本柱」

では、日本は新学習指導要領の中でこれらの根本的な概念をどのように言語化しているのでしょうか。上記の3つの分類をもとに、新学習指導要領では資質・能力を「三つの柱」として次のように整理しています。

①「何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得)」
 
これは、個別の事実的な知識だけを指すのではなく、それらが相互に関連付けられることも重視しています。技能についても、自分の経験や他の技能と関連付けられ、主体的に活用できるものになっていくことが大切だといいます。つまり単体としてのものではなく、「つなげられるもの」「活用されるもの」として知識や技能を考えることが重要です。


②「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」

「問題発見解決能力」「言語活動」、そして「思考・判断・表現」としてこれまでの学習指導要領でも取り上げられていた部分です。中央教育審議会答申を読んでも、この部分の説明にそこまで多くの字幅が割かれていないので、これまで実践してきたことを継続していくことが求められているのだと私は解釈しています。


③「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」
 
中央教育審議会答申では、この③が、「前述の①及び②の資質・能力を、どのような」方向性で働かせていくかを決定づける重要な要素」であると強調しています。具体的には、「主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や、自己の感情や行動を統制する能力、自らの思考の過程等を客観的にとらえる力など、いわゆる『メタ認知』に関するもの」「多様性を尊重する態度と互いのよさを生かして協働する力、持続可能な社会づくりに向けた態度、リーダーシップやチームワーク、感性、優しさや思いやりなど、人間性等に関するもの」としています。

おわりに

様々な国の教育実践を学ぶことは、教育の方法を考える上では大切です。でも、システムや方法は外的なものでしかなく、「何のために」「どのような力を」身につけさせようとしているのかという、教育の根本的な部分を持たないままにシステムや方法だけにとらわれていては良い教育はできないと思います。せっかく国際的にも目指す方向や身につけさせるべきと考える資質・能力が共通しているのですから、この改訂を機に新学習指導要領をよく読んでみると良いのではないかと思っています。

…とはいえ、上記の「資質・能力の三本柱」はあくまで骨組みなので、具体的な実践につなげていくには抽象度が高いことも事実です。次回は、キーワードの3つ目「カリキュラム・マネジメント」をテーマに、どのような実践を通してこれらの資質・能力を育てていけばよいかについて考えてみたいと思います。

熊井 直子(くまい なおこ)

小平市立小平第五中学校 主任教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。

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