2021.11.04
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大きな探究学習に取り組む際に大切なSTEP

この原稿が公開されるのは令和4年11月、高校では新学習指導要領実施を直前に控えた時期です。観点別評価の導入、総合的な探究の時間などいろいろな準備が必要とわかりつつ、コロナ対応などで着手できていないところも多いというのが正直なところでしょうか。
とはいえ2022年度からは総合的な探究の時間も(先行実施ではなく)本格的に始まります。各学校で様々な取り組みがされるでしょう。生徒がテーマを設定し、論文やプロジェクト等いろんな形がありますが、最終的には何らかの形で発表するという取り組みが多くなるでしょう。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

スーパー高校生も最初は普通の高校生だった

ところで探究学習に取り組む際に、ロールモデルとして大きなことを達成した先輩の例を出す場合は少なくありません。たとえば『マイプロジェクトアワード全国summit』に出場し、地元に大きな影響を与えるプロジェクトを実施した高校生や、JSEC(高校生・高専生科学技術チャレンジ)で受賞するようなすばらしい研究をした高校生などがそれにあたるでしょうか。
このような高校生は、自分が熱中できるテーマを見つけたことが大きな成果につながっている場合がほとんどです。だから学校ではロールモデルを示した後で、「自分が熱中できるテーマを見つけ、こんなプロジェクトや論文を実行しよう!」と指導します。
この指導が間違っているとは思いませんが、テーマを見つけてロールモデルを目指して一直線で探究学習を進めていくという指導には、落とし穴があると思うのは私だけでしょうか。たとえば立派すぎるロールモデル(スーパー高校生)を提示すると、生徒からは遠い人になってしまい、自分とは違うという感覚を持ってしまいがちです。また自分が熱中できるテーマを見つける重要性を強調するあまり、「そんなテーマは見つからない」と思って完全に思考が止まってしまう生徒もいるでしょう。
「スーパー高校生も最初は普通の高校生だった」。大切なのはこの事実なのです。

探究サイクルが繰り返されることが重要

大きなことを達成した先輩たちはどんなプロセスを経たのでしょうか。いろいろなケースがありますが、一つだけ間違いなく共通しているのは、「はじめは身近なことから出発し、試行錯誤を繰り返しながらテーマがブラッシュアップされ、大きな結果につながった」ということです。
私事になりますが、かなり前に関わった生徒に数学の研究論文で大きな賞をとった生徒がいます。彼の最初の疑問は「円周率πってどこまで続くのだろう」でした。科学部か授業で、何らかの研究をしないとダメで、そのためにもテーマを決めないといけない状況があり、その時彼が何となく思いついたのがπだったことだけは覚えています。
正直なところ円周率πがどこまで続くのかは、その気になればインターネットでもすぐに調べられるテーマで、このままでは間違いなく調べ学習で終わります。しかし彼は自分で本を読み、研究テーマをブラッシュアップし、学校外で発表してフィードバックをもらいながら、少しずつテーマを育てていきます。そして数学のある分野に紐づけ、よりよい乱数の発生方法にまで考察を広げていきます。
イチローは「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道だと思っています」と言いました。スーパー高校生はこの言葉を身をもって実感していることでしょう。
大事なのは普通の高校生が、最初は漠然としたテーマからスタートし、調査や発表などを繰り返す中でテーマを育て、その結果ときとしてすごい論文やプロジェクトが生まれ、結果的にスーパー高校生になるということなのです。
探究的な学習は、「課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現」のサイクルで進み、そのサイクル図は文部科学省の資料にも登場します。大事なことはサイクルが何度も繰り返され、そのたびに考えが更新されていくということなのです。
このように考えると、ロールモデルとしてスーパー高校生を提示するのは悪くないですが、それ以上に、今の自分の状況から一歩進む、つまり探究のサイクルを少しでも回すことが重要であるということがわかります。

チョコプロの取り組み

本校の取り組みを紹介します。文科省の指定を受けて、2018年度から始めた本校のコア探究(総合的な探究の時間)では、「生徒が自分のテーマを決める」ということを大切にしています。
初年度は最終的には論文でまとめるという形にしましたが、こちら(教員)としては、自分のテーマをプロジェクト化してほしいという思いを強く持ち、そのことを常に伝えていました。スーパー高校生のロールモデルも何度か示していました。しかし大多数の生徒にとってプロジェクト化することへのハードルは高いのが実情でした。
今振り返ればその理由は明確です。プロジェクトについて大きなイメージは持たせたけど、はじめの一歩を踏み出す支援をしていなかったからです。
こうした課題意識を持っているときに、岩手県立大槌高等学校のチョコプロという実践に出会いました。
チョコプロ(ちょこっとプロジェクト)とは、自分でテーマを決めて1週間だけプロジェクトを行うというものです。「誰かのためになる」という条件はありますが、テーマは何でもOKです。
実はこの取り組みのポイントは、実際にプロジェクトを1週間やった後で、それを振り返り、その振り返りから次の1週間のプロジェクトを考えるというところにあります。プロジェクトのPDCAを体験し、さらに最初の一歩を踏み出す経験が2回できるのです。
チョコプロは2019年度入学生から始めた取り組みですが、2年次にチョコプロを体験した現在の高校3年生からプロジェクトが多数生まれているのは、チョコプロがあったからだろうと思っています。

大きな探究学習を実現したいからこそ、はじめの一歩が大切ということ、そして探究学習は探究サイクルを繰り返すところがポイントであるということ、今回の最後にここだけは強調したいと思います。
チョコプロの詳細は次回書きたいと思います。お読みいただきありがとうございました。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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