2021.05.31
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

観点別評価という黒船が高校に問いかけるもの

2021年度より高等学校でも新学習指導要領が実施され、観点別評価が必須となります。
今回は観点別評価が高校に問いかけるものについて考えたいと思います。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

観点別評価とは?

小学校や中学校の先生から見れば、高校が観点別評価でなぜ大騒ぎするのか不思議かもしれません。しかしこれまでの5段階(10段階)評定に慣れすぎてきた高校の立場からすると、これは大きな変革です。
教科にもよるでしょうが、私が担当する数学の場合は、定期考査〇%、日常課題(小テストなど含む)〇%と比率さえ決めてしまえば、あとは定期考査の点数や小テスト・課題の取り組み状況を数値化したものから評定を決めることができます(たとえば定期考査が70%、日常課題30%、85点以上が5、○○点以下が1など)。
これは小学校や中学校の先生から見れば驚くほど古い評価方法かもしれませんが。

そもそも観点別評価は1987年の教育課程審議会で「日常の学習指導の過程における評価については、知識理解面の評価に偏ることなく、児童生徒の興味・関心等の側面を一層重視し、学習意欲の向上に役立つようにするとともに、これを指導方法の改善に生かすようにする必要がある」との答申が発表されたことから始まりました。その後小学校や中学校で実施され、今に至っています。

高校が知識重視になっていることについては、これまでも大学入試改革などでさんざん指摘されてきていましたが、観点別評価導入にはこうした現状を打破するというねらいもあるように思います。
しかし、高校の教員にとって、長年定着した評価方法には慣れているということ以外に「評価するのに労力をそんなにかけなくてよい」「その評定になる説明がしやすい」という2つのメリットがあることを忘れてはいけません。
観点別評価は小学校や中学校では長年の蓄積があるとはいえ、高校にとって観点別評価は未知の領域です。いわば黒船来航ともいえる状況ですが、来年度以降の高校現場はどうなるでしょうか?

おそらく高校現場は混乱する

実は新学習指導要領において、観点別評価は各教科だけでなく、総合や特別活動でも求められます。このことは(2021年度5月現在)教務主任や管理職レベルにもあまり知られていないように思えます。
そして高校現場では、ようやく大学入試改革の初年度が終わったところということに加えて、コロナ対応で精一杯というのが正直なところです。観点別評価導入を次年度に控えているにもかかわらず評価についての議論が深まっている学校は多くないように思います。しかし、2021年夏には評価のための資料が文科省から公表されるでしょうし、そうなれば文科省→教育委員会→各学校――と様々な指示がされるでしょう。今後評価が話題になることは間違いありません。

個人的には観点別評価が導入されることで、高校現場はより混乱し、多忙になると思っています。そもそも「やらされる」ことに対して、人は前向きには動きにくいです。
観点別評価は多くの先生にとって行政や管理職、教務部長から「やらされる」ものになるでしょう。そして日常の生徒の様子を記録し評価することが、それなりの仕事量になることも間違いありません。
パフォーマンス課題での評価、ルーブリックを用いての評価など、すでに優れた先行実践はあるのですが、それを「しなければならないもの」と受け止めてしまうと(またはそのように上から伝えられると)、「今の忙しい毎日の中でそんなことはやってられない」という思いを抱くのが普通の感覚だとも思います。
「学びに向かう力」など評価が難しいものについては、なぜその評価になるのかという説明ができるようにしないといけないという説明責任ばかりを考えて神経をすり減らすこともあるでしょう。そんな状況から「働き方改革が叫ばれているときに、なぜ評価方法を変えるのだ」という声がおそらく多くの学校で起こるでしょう。こうした状況をふまえて、高校現場で意識すべきことは何でしょうか。

何のための観点別評価なのかを自分の言葉にできるかどうかがポイント

「手段の目的化」。学校では常に起こります。観点別評価という手段を実施することを目的にしない。何より大切なポイントはこのことではないでしょうか。

PDCAサイクルといわれますが、学校という組織はふりかえり(C)が弱く、PDサイクルになるということがよく指摘されます。その結果新しいことがどんどん積み重なっていくともいわれます。
そのことを裏付ける調査結果を紹介します。令和2年3月に国立教育政策研究所から「キャリア教育に関する総合的研究第一次報告書」が公表されました。キャリア教育の現状を調査したものです。
それによるとキャリア教育の計画は約80%の学校にあります。しかし、キャリア教育の計画を立てる上で重視したこととして「目標に準拠した評価を行うこと」と答えた学校は9.7%、これは「インターンシップの充実」「キャリアカウンセリングを取り入れる」など17ある選択肢の中で下から2番目です。いかに各学校が計画段階で評価を意識していないのかを裏付ける結果です。

このように「何かをすること」に意識が向きやすい学校という組織だからこそ、大事なことは「なぜ観点別評価を実施するのか」についての議論を深め、説明責任や仕事の負荷などいろいろな現実的な条件を前提として「自分の学校で実施する観点別評価の最適解を探究すること」ではないでしょうか。

(負の感情が多分に含まれるとしても)生徒の評価について、単なる点数ではなく学力の3要素についての議論をする機会は今後増えるでしょう。
これまで何となく実施していた定期考査も、その問題について「思考力・判断力・表現力を問う問題はどんなものか」を意識するようになるでしょう。そしてその議論は特定の教科だけでなくすべての教科で実施されるので、教科を越えた議論も可能になるでしょう。
こうしたことは実は今までの高校の実態を考えると、大きな変化かもしれません。観点別をなぜ実施するのかという理解を土台として、「多少混乱することがあっても、実は学力議論が進んでいる」という認識を持てるかどうか、ここが来年度の大きなポイントだと思います。

「何のための観点別評価なのかということを、上から言われたことではなく、現場レベルで自分たちの言葉で解釈すること」。今求められているのはこのことかもしれません。

しかしここに書いたことは難しいことです。本校では2021年度からの観点別評価実施にあたり、従来の評価方法を大きく改革する案が管理職・教務部より提案され、現場は混乱している真っただ中にいます。
そんな中で、今こそ何のための評価なのかということについての共通認識が必要だと思っています。次回は評価についてもう少し書きたいと思います。

お読みいただきありがとうございました。引き続きよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop