2020.12.09
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教科学習と探究の接続をどう実現するか?(1)

「探究と教科の授業はどのようにつながっていますか?」
「先生方はどのように探究の授業と教科の授業を接続されていますか?」
よく聞かれる質問です。読んでくださっている方が先生の場合、学校ではどうですか。

この問いの答えの前に、

①なぜ教科学習と探究は接続したほうがいいのか?
②教科と探究の接続のためにどんなことが実現できたら良いのか?

ということについて考えることが大事だと思います。今回はなぜ教科と探究のつながりが大切なのかについて、新学習指導要領の内容もふまえて考えたいと思います。現状への問題提起もできればと思っています。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

特定の教科だけでは汎用的な力を育てることが難しい

そもそも何らかの力を育てる時に、具体的で活用範囲の狭いものは特定の教科やクラブなどで育てることができても、抽象的・汎用的で活用範囲の広いものは、特定の教科やクラブなどだけで育てることは不可能ではないでしょうか。

たとえば、方程式を解く、古典文法を理解する、野球のバットの振り方という力を育てるならば、数学や国語の授業、野球部の練習だけでも十分可能でしょう。ただし、これらの力は、その教科やクラブ以外のところでは活用が難しいという面もあります。
一方、論理的思考力を育てるとなると、数学・国語などいろいろな教科での指導が融合しないと難しいです。体を思い通り動かす力についても、特定の種目を長時間練習するだけではなかなか育たないのではないでしょうか。

これからの時代に求められる力が汎用的で活用範囲の広いものであることは言うまでもありません。そのため世界各国がコンテンツベースからコンピテンシーベースの教育への転換を試みていますが、おそらくその成否は国力さえも左右するのでしょう。
日本でも新学習指導要領は資質能力ベースで書かれ、カリキュラムマネジメントが強調されています。学校全体で力を育てることが今こそ重要なのです。そして探究やキャリア教育カリキュラムマネジメントの真ん中にあるのでしょう。

学校全体で育てたい力はおそらく汎用的なものになるでしょう。それを共有し、各教科や探究、自主活動など教育活動のすべてで育てるからこそ、生徒に力がつきます。こう考えると必然的に探究と教科のつながりの重要性がわかります。

新学習指導要領を読む

実際に新学習指導要領でも総合的な探究の時間と教科の連携は重視されています。たとえば、総合的な探究の時間の学習の在り方として「各教科・科目等における見方・考え方を総合的・統合的に活用する」「教科・科目等の学習と教科横断的な学習を往還することが重要」と書かれています。各教科で育てるその教科固有の見方・考え方を探究の時間に活用すること、逆に探究での学びを各教科につなげることが重視されています。

また、総合的な探究の時間の年間指導計画作成及び実施上の配慮事項として「他教科などとの関連を明らかにすること」、定める内容は「他教科等で育成を目指す資質・能力との関連を明らかにして内容を定めることが重要」と書かれています。ここから総合的な探究の時間は指導計画立案の段階で、教科と探究の関連を意識することが求められていることがわかります。

そもそも各教科の学びは先人の探究の成果ですし、教科を学ぶということは、その教科の世界を探究することのはずです。いずれにしても、新学習指導要領からも探究と教科の連携の重要性がわかります。

現場はそんなに甘くない!

ここまでの文章を読むと、各学校において教科と探究の指導は自然とつながるように思えます。しかし現場はそんなに甘くありません。それは学校で勤務した経験があれば、誰しもが感じることでしょう。

「探究の取り組みがイベント化し、浮いたようになっている」
「探究の学びと教科の学びがつながらない」

これらは多くの学校で言われることです。「探究で多忙化が進み。教科に時間をさけなくなった」という声も少なくありません。

こうした現状を考えた時に、私は特に大きな問題が2つあると考えています。
1つ目は管理職や教務主任・研究主任など探究推進者の側の問題です。新学習指導要領のこともあり、総合的な探究の時間の指導計画を作成する際には、育てたい生徒像などはもちろん、教科や行事などとの連携も明記することが求められます。それは簡単な作業ではないですが、各校それなりにきれいな指導計画を作成しているように思います。しかし問題はここからではないでしょうか。頑張って作った指導計画が、それ以降全く活用されず誰も見ない。本校も正直その傾向があるように思いますが、学校においてよくある光景ではないでしょうか。
しかし指導計画を頑張って作ることよりも、作った指導計画をみんなが見てその内容を意識して指導することで、探究と教科の連携は進みます。指導計画を作成することが目的になってしまうというこの現実を何とかする必要があると思います。実は学校においては学校教育目標の共有が一番難しいということもあるのですが……

2つ目は、現場レベルでの問題です。そもそも自分も含め教員は教科で採用されます。たとえば自分はどの学年を担当しても数学は必ず教えますが、探究については担当学年や分掌によって関わり方が大きく変わります。そもそも教員は自分も含めてその教科が好きでなったという人が多く、教科のコンテンツを伝えることに必死になりがちです。実際、これまで教科のコンテンツを伝えることを中心として教員を続けてきたという先生も多いでしょう。さらに多忙化する現場では、教科のコンテンツを伝えるだけで精一杯という現状があることも事実です。

今回は探究と教科の連携の重要性やその難しさ(今ある大きな問題)について書きましたが、いかがでしょうか。ここに書いた大きな問題についてはその解決策を考える必要があるのですが、それを考える際に大切な視点は教員の教科観や授業観だと思います。次回は本校の例もふまえて、このことについて書きたいと思います。引き続きよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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